小児科における胸部レントゲンの価値を再考する。

小児科医の責務の一つに、「子どもの肺炎を見抜く」というものがあります。
これはネルソン小児科学にも記載があります。

臨床医の役割は、肺炎を鑑別することである。
肺炎は細菌性である可能性がより高く、その場合、治療に抗菌薬を必要とする。

ネルソン小児科学 第19版

しかし、子どもの肺炎を見抜くことは困難です。
胸部レントゲン検査は肺炎の診断に役立つことが知られていますが、それがどの程度信頼できるかは、実は分かっていませんでした。

今回は、小児における胸部レントゲン検査の価値を再考します。

胸部レントゲンの意義とタイミング

胸部レントゲンの意義とタイミングについては、以前記事にしました。

子供の気管支炎をレントゲンで診断できますか?

2017年6月23日

すなわち、胸部レントゲンの意義は「肺炎を鑑別するため」であり、そのタイミングは「下気道炎と診断し、それが気管支炎か肺炎かを鑑別したいとき」か、「下気道炎があるかどうか分からないとき」かのどちらかです。

私がレントゲンを撮るタイミングとして多いのは、「下気道炎と診断し、それが気管支炎か肺炎かを鑑別したいとき」です。
私が下気道炎と診断するときに重視するのは聴診所見です。
聴診所見についてはこちらの記事に書きました。

聴診器で気管支炎・肺炎・喘息発作・細気管支炎を区別できますか?

2018年6月4日

要するに「局所的なcracklesがあれば、下気道炎つまり気管支炎や肺炎を考える」と考えています。

以上をまとめると、聴診器で局所的なcracklesを認めたとき、私は胸部レントゲンを撮るようにしています。

胸部レントゲンの価値

聴診器で局所的なcracklesを認めたとき、私は胸部レントゲン検査をし、浸潤影がなければ気管支炎、あれば肺炎と診断しています。

肺炎であれば、細菌感染症の可能性が高いとネルソン小児科学にもありますので、私は基本的に採血検査をしています(ただし迅速検査でRSウイルスやヒトメタニューモウイルスが検出された場合は採血検査を省略することもあります)

そして気管支炎であれば、全身状態を勘案した上で、抗菌剤を使用せずに経過を見るようにしています。

この私の治療方針は、この本に書いた通りです。


ただ、気管支炎であれば(すなわちレントゲン検査に異常所見がなければ)、本当に抗菌薬を使わずに様子を見てもいいのか、そのエビデンスは今まで存在しませんでした。

胸部レントゲン正常であれば抗菌薬は不要か?

Negative Chest Radiography and Risk of Pneumonia.(Pediatrics. 2018; 142.)

内容をまとめます。

  • 小児救急科を受診し、肺炎を疑われ、胸部レントゲンが撮影された683人が対象。
  • 497人(72.8%)は肺炎がない(私の解釈では、すなわち気管支炎である)と診断された。
  • そのうち411人は抗菌薬フリーで経過を観察し、最終的に406人(98.8%)が抗菌薬フリーのまま軽快した。
  • レントゲンが正常であれば、抗菌薬フリーで安全に経過観察できる。

この論文は、前向き観察研究で、胸部レントゲンの陰性的中率を初めて報告した論文です。
この論文は「肺炎だったら抗菌薬が必要だ!」ということを述べているわけではありません。
この論文は「肺炎でなかったら抗菌薬は(ほとんどの場合で)不要だ!」と主張しています。

もちろん、読んでいて気になったことがあります。
この論文では胸部レントゲンの読影は小児放射線科医が行っています。
プロの読影医ではない一般的な小児科医の「胸部レントゲン正常」という判断が適応できるかどうか分かりません。

また、「白血球上昇」を理由に、胸部レントゲンが正常でも抗菌薬を投与された患者がいることも気になります。
つまり、抗菌薬フリーで経過をみた理由が「胸部レントゲン正常だから」だけではないことが気がかりです。

胸部レントゲンが正常であったにも関わらず抗菌薬を使用した44人を偽陰性に含めると、陰性的中率は89.2%となります。
これは、レントゲンが正常で抗菌薬を使わないという治療方針だと、10人に1人の割合で状況が悪化する可能性があります。
ですが、これはさすがに陰性的中率を低く見積もりすぎです。
白血球増多3人と気管支炎1人と理由不明2人の計6人を偽陰性として、陰性的中率97.4%とするのが妥当かな、と私は感じました。

まとめ

胸部レントゲン検査の価値を再考しました。
胸部レントゲンの陰性的中率は高いようです。
レントゲンに異常がなければ抗菌薬を使わなくていいのであれば、レントゲンを撮影する価値は十分に高いと考えられます。

つまり、局所的なcracklesがあれば、胸部レントゲンを撮影し、肺炎がなければ抗菌薬を使わずに経過観察するという私の日常診療を支持する研究結果でした。

 

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。