乳幼児は1年に平均6-8回、風邪をひく。
小児の咳嗽診療ガイドライン2020 p108-109
子どもはよく風邪をひきます。
典型的な風邪の経過は、2-3日続く発熱と、2週間続く咳や鼻汁です。
風邪が時々であれば、パパもママもそれほど心配しないでしょう。
ですが、たとえば毎月のようにかぜをひくと「毎月かぜをひくなんておかしい。何か怖い病気なんじゃないですか?」と不安になられる人もいるのではないでしょうか。
今回は、どういうときに「子どもの免疫不全」を考えるのかについて書きます。
このページの目次です。
- 1 原発性免疫不全症は意外と多いかもしれない
- 2 どういうときに「子どもの免疫不全」を疑いますか?
- 2.1 乳児で呼吸器・消化器感染症を繰り返し、体重増加不良や発育不良がみられる
- 2.2 1年に2回以上肺炎に罹患する
- 2.3 気管支拡張症を発症する
- 2.4 髄膜炎、骨髄炎、蜂窩織炎、敗血症、皮下膿瘍、臓器内膿瘍などの深部感染症に2回以上罹患する
- 2.5 抗菌薬を服用しても2か月以上感染症が治癒しない
- 2.6 重症副鼻腔炎を繰り返す
- 2.7 1年に4回以上、中耳炎に罹患する
- 2.8 1歳以降に、持続性の鵞口瘡、皮膚真菌症、重度・広範な疣贅(いぼ)がみられる
- 2.9 BCGによる重症副反応(骨髄炎など)、単純ヘルペスウイルスによる脳炎、髄膜炎菌による髄膜炎、EB ウイルスによる重症血球貧食症候群に罹患したことがある
- 2.10 家族が乳幼児期に感染症で死亡するなど、原発性免疫不全症候群を疑う家族歴がある
- 3 動画で学びたい場合
- 4 実際に精査するタイミング
- 5 まとめ
- 6 参考文献
原発性免疫不全症は意外と多いかもしれない
原発性免疫不全症はわが国では1240人登録されており、その頻度は10万人に2.3人とされます1)。
ですが、本当は1000人に1人の頻度だとする報告もあり2)、その頻度は意外と多いのかもしれません。
さらに高IgE血症、選択的IgA欠損症、重症複合免疫不全症、重症先天性好中球減少症、家族性地中海熱が続きます1)。
どういうときに「子どもの免疫不全」を疑いますか?
原発性免疫不全症を疑う目安として、国際的にJeffrey Modell Foundationの10 Warning Signs of Primary Immunodeficiencyが用いられています4)。
厚生労働省の原発性免疫不全症に関する調査研究班が、上記を「原発性免疫不全症を疑う10の徴候」と翻訳していますので5)、日本小児科学会雑誌の総説と併せて紹介します6)。
この10の徴候のうち2つ以上該当する場合、プライマリケア医は小児科専門医に繋ぎます4)。
乳児で呼吸器・消化器感染症を繰り返し、体重増加不良や発育不良がみられる
重症複合免疫不全症が疑われる状況であり、造血幹細胞移植の適応がある。
診断にはリンパ球サブセット解析で、T細胞の欠損がないか確認することが重要である。
1年に2回以上肺炎に罹患する
細菌性肺炎を繰り返す場合、BTK欠損症が疑われる。
ウイルス性肺炎やニューモシスティス肺炎が重症化する場合は複合免疫不全症が疑われる。
気管支拡張症を発症する
気管支拡張症は慢性の気道感染症によって生じる。膿疱性線維症を除いた気管支拡張症の17%が原発性免疫不全症と関連した7)。
髄膜炎、骨髄炎、蜂窩織炎、敗血症、皮下膿瘍、臓器内膿瘍などの深部感染症に2回以上罹患する
細菌感染症に罹患しやすく、重症化しやすい場合、BTK欠損症や慢性肉芽腫症の可能性がある。
慢性肉芽腫症ではブドウ球菌、緑膿菌、セラチア、大腸菌、カンジダ、アスペルギルス、抗酸菌に易感染性を呈する。
抗菌薬を服用しても2か月以上感染症が治癒しない
有効な抗菌薬でも反応が乏しい場合、BTK欠損症や慢性肉芽腫症の可能性がある。
重症副鼻腔炎を繰り返す
BTK欠損症やIgGサブクラス異常症の有無を検討する。
1年に4回以上、中耳炎に罹患する
BTK欠損症やIgGサブクラス異常症の有無を検討する。
1歳以降に、持続性の鵞口瘡、皮膚真菌症、重度・広範な疣贅(いぼ)がみられる
複合免疫不全症ではヒトパピローマウイルスの皮膚への感染が制御できず、広範な疣贅が起こることがある。
BCGによる重症副反応(骨髄炎など)、単純ヘルペスウイルスによる脳炎、髄膜炎菌による髄膜炎、EB ウイルスによる重症血球貧食症候群に罹患したことがある
複合免疫不全や慢性肉芽腫症の可能性がある。
家族が乳幼児期に感染症で死亡するなど、原発性免疫不全症候群を疑う家族歴がある
原発性免疫不全症の多くは遺伝性である。そのため、10 Warning Signsの中でもっとも重要な項目である。
動画で学びたい場合
ここまでの情報を文字で追うのが大変な場合は、あまねくらぶの音声ガイドがあります。
正直、動画でみても固有名詞の難しさは変わらないのですが、リラックスしながら眺めてくだされば幸いです。
上記の動画に登場する「集団生活でかぜの頻度が上がる」という「団結の力」に関する論文は、またあらためて紹介したいですね。
実際に精査するタイミング
10の徴候のうち2つ以上に該当すれば、感染症の種類(フォーカスと病原体)や治療反応性、易感染性以外の徴候(皮疹や顔貌、骨、関節)、家族歴を確認した上で、白血球数、白血球分画、血小板数、血清IgG値、リンパ球サブセット、リンパ球幼弱化試験などを調べることになります6)。
私の印象としては、やはり原発性免疫不全症における感染症の経過は、一般的な経過とは違って「なかなか治らない」とか「合併症が多彩」とか何か気がかりな点があるものです。この例においては、RSウイルス肺炎は発熱4-5日、呼吸器症状は2週間程度で改善し、中耳炎は無治療または抗菌薬投与で改善するのであれば、原発性免疫不全症とは考えにくいと思います。
「何度も風邪を繰り返す」というのは、10の徴候に含まれません。
心配する保護者に対して、私は「かぜを何度も繰り返して心配ですね。でも一つ一つの経過は問題ありませんから、免疫不全症ではないのですよ。安心してください」と説明しています。
注意点:PFAPA
今回は「免疫不全」について注目しました。
子どもが毎月のように高熱を繰り返す場合、PFAPAという疾患の可能性については留意しておかなければなりません。
PFAPAについては、こちらに書きました。
まとめ
風邪をどれだけ頻回であっても、通常の風邪の経過で治り、発育に問題がなければ、原発性免疫不全症とは考えにくいです。
参考文献
2) Primary immunodeficiencies: a field in its infancy. Science. 2007 Aug 3;317(5838):617-9.
4) Jeffrey Modell Foundation: 10 Warning Signs of Primary Immunodeficiency.
5) 簡単症状チェックシート
6) 感染症と原発性免疫不全症 日本小児科学会雑誌 121巻10号 p1654-1661 2017
8) Otitis media in 2253 Pittsburgh-area infants: prevalence and risk factors during the first two years of life. Pediatrics 99:318‒333, 1997