ボタン電池の誤飲。アメリカのガイドラインではこうする!

0-2歳くらいの子どもって、何でも口に入れますよね。
ボタン電池はキラキラ光って、つるんとしているので、誤飲事故が起きやすいです。

「ボタン電池を飲んだら、大変なことになってしまうんじゃないの」と、医療者ですら不安になると思います。

ボタン電池は粘膜に化学やけどを起こすなど重篤な症状を生じやすく危険。

【0‐6歳 最新版】ママとパパの赤ちゃんと子どもの病気・ホームケア事典

今回は、ボタン電池誤飲に対するアメリカのガイドラインと、日本での検証結果について書きます。

ボタン電池の重要な要素は?

ボタン電池ってすごくたくさんありますね。
素材、大きさ、電圧、いろいろあります。

素材は、Lはアルカリ、B・C・Gはリチウムです。ちなみに、Rは「丸い」を意味します。

数字はサイズを意味し、4桁では最初の2桁が直径、最後の2桁が厚みを示します。
数字がもともと2桁の場合は国際規格で、41は直径7.9mm、厚さ3.6mm、43は直径11.6mm、厚さ4.2mm、44は直径11.6mm、厚さ5.4mm、48は直径7.9mm、厚さ5.4mmを指します。

代表的なボタン電池を紹介しましょう。

  • LR44(アルカリ、直径11.6mm、厚さ5.4mm、もっとも汎用)
  • CR2032(リチウム、直径20mm、厚さ3.2mm、ボタンというよりコイン型で、ポケモンGOプラス®や一部のリモコンで用いる。もっとも危険)
  • PR41(空気亜鉛、直径7.9mm、厚さ3.6mm、補聴器に多い)が代表的

この中で、もっとも大事なのは「サイズ」です。
直径が20mm以上の電池は要注意です。
なぜなら、このサイズは食道にひっかかるリスクが高く、かつ放電される電流も3Vと強いためです。

アメリカのガイドライン

ボタン電池誤飲に対する対応は、アメリカのガイドラインNBIH Button Battery Ingestion Triage and Treatment Guidelineが詳しいです。

簡単に日本語訳します。

直径20mm以上の電池

  • 食道内にあれば2時間以内に摘出する必要があります。
  • 胃内にある場合でも5歳未満で食道内に2時間以上停滞した可能性がある場合は、緊急内視鏡を要します。食道の状態を把握すべきです。
  • 6歳未満の児で4日後に小腸まで移動しない場合は摘出します。下血・吐血・強い腹痛・嘔吐・発熱・食欲減退などの症状があればそれより早く摘出します。

直径15-19mmの電池の場合

  • 食道にあれば2時間以内に摘出する必要があります。
  • 6歳未満で4日後に胃内にあれば摘出します。腹痛などの症状があればそれより早く摘出します。

直径15mm未満の場合

  • 基本的に摘出する必要はありません。
  • アルカリ電池は腐食によって強アルカリ液が漏出しますが、胃や小腸・大腸内であれば漏出液によって粘膜障害をきたすことは稀です。
  • またいかなるサイズであっても、小腸・大腸にまで進めば摘出する必要はありません。しかし、下血・吐血・強い腹痛・嘔吐・発熱・食欲減退などの症状があれば外科的摘出が必要になります。

日本での検証

アメリカのガイドラインを日本で検証した論文が、今月発表されましたので、紹介します。

小児のボタン電池誤飲では位置が胃内で無症状かつ小径であれば安全に経過観察しうる. 日本小児科学会雑誌. 2021; 125: 1543-1548.

簡単にまとめますね。

国立成育医療センターでは、2014年からNBIHガイドラインを使用しています。
それにより、ボタン電池の摘出率は68.2%から31.8%に有意に減りました。
小児外科医の介入率は90.9%から40.9%に有意に減りました。
重症な合併症の増加はありませんでした。

症例数がNBIHガイドライン導入前が22例、導入後が22例とサンプルサイズが少ないのと、そのうち42例が直径15㎜未満で、小さいボタン電池ばかりの症例になってしまったというのが、論文の限界です。

小さなボタン電池なら、経過観察できる

アメリカのボタン電池誤飲ガイドラインは日本でも適用可能でした。
特に、小さなボタン電池は安全に経過観察できそうです。

実はNBIHガイドラインに基づくボタン電池誤飲対応は、2019年に出版した初期研修医・総合診療医のための 小児科ファーストタッチにも記載していました。
今回、NBIHガイドラインに関するさらなる知見が出て、さらに心強く思いました。

もちろん、子どもがボタン電池を飲み込まないのが一番よいです。
「ボタン電池は出しっぱなしにしないで!」と強く啓蒙することも大切です。

また、誤解しないで欲しいのですが、一般の人がこの記事を読んで「小さいボタン電池は飲んでも平気なんだ」と誤解しないでください。
強調しますが、ボタン電池は食道で停滞した場合は極めて危険です。
食道にないことを確認するためには、X線検査が必要です。
X線検査で胃内にボタン電池があることを確認できないと、本記事は使えません。

地方では、小児外科の先生が周りにいないような病院もたくさんあると思います。
本指針が、安全なボタン電池誤飲対応に繋がることを願います。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。