新生児-乳児消化管アレルギーを敗血症や胃腸炎と区別する指標はありますか?

「食物蛋白誘発胃腸症」という言葉を知っていますか?
もしくは「消化管アレルギー」という言葉を知りませんか?

さすがに最近は「ミルクアレルギー」という言葉は使われていないと思いますが、もし知っていれば同じ病態を指します。
ただ、やはり最近は「ミルクアレルギー」とは言いませんし、私も使いません。
その理由は3年前に書きました。

ミルクアレルギーと牛乳アレルギーは違うんですか?

2017年3月26日

消化管アレルギーは、原因食物を摂取して1-4時間ほどで嘔吐を認め、その後に下痢や血便を伴うことがある病気です。
慢性的な経過では、体重増加不良を伴います。

嘔吐、血便、下痢、体重増加不良といった症状はすべて出現することもあれば、単独であることもあり、日本では4つのサブグループ(クラスター)があるとされています。

国際的には、嘔吐症状がメインであるものを”Food ProteineInduced Enterocolitis Syndrome”と呼んでいます。
略してFPIESです。
私は「エフパイズ」と発音しています。

このFPIES。
嘔吐とともに、発熱することがあります。
ぐったりとして、皮膚色が蒼白になることもあります。
血液検査をすると、CRPが意外と上がっていることがあります。

この状態では、敗血症と誤診されてしまいます。
もしくは、嘔吐と発熱から胃腸炎と診断されることもあります。

今回は、FPIESを敗血症や胃腸炎と区別する特徴はあるのか調査した論文を紹介します。

新生児-乳児消化管アレルギーを敗血症や胃腸炎と区別できるか?

Differentiating Acute Food ProteineInduced Enterocolitis Syndrome From Its Mimics: A Comparison of Clinical Features and Routine Laboratory Biomarkers. J Allergy Clin Immunol Pract. 2019; 7: p471-478.e3.

「急性FPIESにおける類似疾患との鑑別:臨床的特徴とラボデータの比較」という論文です。
Mimicsというのは似ているもの、という意味ですが、ドラクエ世代の人なら宝箱に扮したモンスターを思い出すはずです。
ザラキで全滅した苦い思い出が蘇ります。

フリーではないので、一部分だけ紹介します。
詳細を知りたい人は、雑誌を購読してください。

このトピックについて、すでに何がわかっていますか?

食物タンパク質誘発性腸炎症候群(FPIES)には、誤診と診断の遅れがつきものです。
その理由は、基礎病態生理学の理解が不十分であり、利用可能なポイントオブケア検査がないためです。

この論文は、私たちにどんな新しい知識を与えますか?

徹底した病歴と身体検査から得られた臨床的特徴は、急性FPIESの診断において依然として重要です。
炎症のマーカーであるC反応性タンパク質の上昇は、FPIESの重要な特徴ではありません。

この調査は現在の管理ガイドラインにどのように影響しますか?

この研究は、FPIESの診断と管理に関する最新の国際ガイドラインのエビデンスを強化します。

はじめに

食物タンパク質誘発性腸炎症候群(FPIES)は、主に乳幼児に影響を与えるIgEを介さない食物アレルギーです。
臨床の表現型と発生率には、地域ごとに有意なばらつきがあり、オーストラリアでは年間6,400人に1人(注:2009年の東京の調査では発症率0.21%なので、オーストラリアはかなり少ないです)の乳児が急性FPIEに罹患していると推定されています(ただし、これは実際の疾患の負担を過小評価している可能性があります)。
診断は特徴的な症状に基づいており、特徴的な症状は原因食物を摂取してから1〜4時間後の大量の嘔吐です。
蒼白、筋緊張低下、嗜眠、低血圧、および/または下痢を伴うこともあります。
ほとんどすべての食物が原因となりえ、最も一般的な原因食物は牛乳、大豆、および穀物(特に米)です。

嘔吐を伴う疾患は多岐にわたるため、FPIESの診断はしばしば困難です。
さらに、FPIESを引き起こす免疫メカニズムに関する包括的理解の欠如は、有用なポイント・オブ・ケア・テスティング(注:POCTとは、診療の現場で行う検査で、“その検査結果が患者さまのケアに変化をもたらす可能性のある検査”と定義されています)の開発を妨げてきました。
FPIESは歴史的にT細胞性応答と見なされてきましたが、最近の研究では、自然免疫応答(注:T細胞を介さない免疫)がその病態生理においてより大きな役割を果たす可能性があることが示唆されています。

食物摂取と臨床反応の間の時間遅延は正確な診断を複雑にします。
乳児は、FPIESの正しい診断が最終的に行われる前に、救急部門(ED)またはクリニックに何度も受診することがよくあります。
急性FPIES中のルーチン血液バイオマーカーは非特異的です。
これらには、主に好中球増加、血小板増加を伴う白血球増加症、および一部の慢性FPIES症例では、メトヘモグロビン血症および代謝性アシドーシスの報告が含まれます。
これまでに2件の研究で、発熱を伴うC反応性タンパク質(CRP)(0.88-13.4 mg / dL)の軽度の上昇が報告されています。
公表された国際ガイドラインは、FPIESの診断に日常的な調査を推奨していませんが、他の鑑別診断を除外するのに役立つ可能性があることを示唆しています。

これを考慮して、急性FPIESと年齢や嘔吐症状が似ている細菌性敗血症(BS)やウイルスまたは細菌性の感染性胃腸炎と比較して、臨床症状と日常的な検査の特徴を調べました。
これらの一般的な疾患と急性FPIESを区別するのに役立つ可能性のある特徴と検査パラメータを特定しようとしました。

方法

FPIESの識別

1997年から2017年までのオーストラリアのニューサウスウェールズ(NSW)にあるウェストミード小児病院(CHW)のアレルギー科データベースを使用して、6ヶ月から4歳で、FPIESの診断を受けた子どもを特定しました。

敗血症および急性感染性胃腸炎症例の識別

2012年から2015年の間のCHWの救急外来にて、主訴が嘔吐で、微生物学的に確認された細菌性敗血症および胃腸炎の6ヶ月から4歳の子どもが、CHW微生物学研究室データベースを用いて識別されました。

結果

研究に参加した症例

研究期間中に急性FPIESエピソードで救急外来を受診した合計109人のFPIES児が特定されました。
これらの109人の子どもたちは、合計181回の緊急受診をしました。
救急受診時の子どもの年齢の中央値は6か月でした(四分位範囲は5〜10か月)。

嘔吐を主訴として救急外来を受診した合計91人(細菌性敗血症36人と感染性胃腸炎55人)も研究に参加しました。
敗血症および感染性胃腸炎の患者の年齢は、中央値で生後16か月(四分位範囲はそれぞれ10〜29か月と9.5〜33か月)でした。

FPIES、敗血症、および感染性胃腸炎の入院期間の中央値は、それぞれ1日未満、8.5日、および1日でした。

急性FPIESの臨床的特徴

米(29%)、牛乳(18%)、魚(12%)、大豆(8%)、鶏肉(8%)、および卵(7%)の6つが、最も一般的な原因食物でした(注:生後6カ月からの症例を集めたため、牛乳が減ったのだと思います。牛乳によるFPIESは生後すぐに発症することが多いので)。
181例のFPIES救急受診のうち、75%が嗜眠、77%が筋緊張低下、77%が蒼白でした。
合計112例(62%)が、嘔吐、嗜眠、筋緊張低下、蒼白の4つの症状すべてを含み、重症と見なされました。
24%が24時間以内に下痢を起こしました。
42%は、輸液を必要としました。

臨床的特徴とバイタルサイン-すべての疾患グループ

FPIESの子どもは、敗血症または感染性胃腸炎の子どもよりも、嗜眠、筋緊張低下、および蒼白を呈する傾向がありました。
下痢(OR 41; 95%CI 14-120)や血便(OR 28; 95%CI 6-127)といった所見は、FPIESよりも感染性胃腸炎を疑わせる所見でしたが、これらの特徴はFPIESと敗血症とは区別しません。

頻脈はFPIESよりも敗血症でより一般的でした(OR 5; 95%CI 2-13)。
発熱は、敗血症(OR 5; 95%CI 3-9)と感染性胃腸炎(OR 4; 95%CI 2-6)の両方と比較して、FPIESでは少なかったです。
体重、呼吸数、収縮期血圧、および血糖値の違いはありませんでした。

CRP、アルブミン、グロブリン

CRPは24例のFPIESでのみ測定され、そのうちの29%でCRPにわずかな上昇がありました(中央値0.15 mg/dL、四分位範囲0.03〜0.65 mg/dL)。
FPIESで、CRP値が20 mg/dLを超えるものはありませんでした。
CRP上昇という特徴はより敗血症(OR 1.2; 95%CI 1.1-1.4;中央値6.995 mg/dL)または感染性胃腸炎(OR 1.21; 95%CI 1.1-1.3; 中央値3.05mg /dL)と関連していました。

比較的高いアルブミン(OR 0.8; 95%CI 0.7-0.9)とアルブミン/グロブリン比(OR 0.001; 95%CI 0-0.04)は敗血症よりFPIESに関連し、逆に高いグロブリンは敗血症を示唆しました(OR 1.43; 95%CI 1.16-1.75)。

考察

我々は、急性FPIESの日常の臨床検査、臨床的特徴、バイタルサイン、および変化を特徴づけようとしました。
過去のコホートは独立したラボデータ異常について報告しましたが、急性FPIESと敗血症やウイルス/細菌性胃腸炎などの急性嘔吐とを比較した他の報告はありません。
今回、急性FPIESとその類似疾患を区別するのに役立ついくつかの重要な違いを特定しました。
今回の調査結果は、最近改訂された国際ガイドラインのエビデンスをさらに強化します。

FPIESの診断は依然として困難です。
最初の受診で診断されたのはFPIES症例の25%のみであり、診断は通常3か月遅れることがわかりました。
この遅延は他の報告されたコホートよりも低く、たとえばFiocchi et alによって報告されたヨーロッパのコホートでは中央値8か月の遅延がみられます。
FPIESの認知度の向上が必要です。

臨床的特徴は、急性FPIESの診断において依然として重要です。
嘔吐(今回の研究の定義に基づくと、100%で発生)は別として、無気力、筋緊張低下、および蒼白の存在が敗血症およびウイルス性/細菌性胃腸炎と比較してFPIESに関連しています。

発熱は敗血症と感染性胃腸炎の強力な予測因子であり、発熱を伴うFPIESは症例のごく一部にすぎません。
Andrews et alによる1つの症例報告は、6か月男児の大豆FPIESによる急性ショックで38.8℃の発熱を報告しています。
FPIESにおいて末梢血中のIL-2、IL-5、およびIL-8の上昇を伴った発熱がみられることは、木村らの小さなコホートで明らかになりました。我々のFPIESでは発熱は一般的ではありませんが、それでも発熱と嘔吐の子どもにおいてはFPIESを鑑別しなければなりません。

治療に対する比較的迅速な反応、すなわち入院期間の短さはFPIESの診断に関連しています。
ただし、これは初期評価と水分補給が完了するまでは分からないパラメータです。

ルーチンのラボデータでは、正常なCRPとアルブミン/グロブリン比の上昇は、敗血症または細菌/ウイルス性胃腸炎と比較して、FPIESで発生する可能性が高かったです。
CRPは、FPIESと比較して敗血症および感染性胃腸炎で著しく上昇する可能性が少なくとも3倍高く、敗血症および感染性胃腸炎のCRP中央値は、それぞれFPIESの27倍および14倍でした。
急性FPIESで正常および軽度に上昇したCRPを説明する研究があります。
しかし、私たちの研究は、敗血症や感染性胃腸炎のような類似疾患と比較して、急性FPIESは正常なCRPを示す可能性が高いことを示しています。
CRPの上昇は、急性FPIES発症の翌日に発生する可能性があります。
いずれにせよ、我々の調査結果は、救急外来の受診時の正常なCRPが、FPIESの診断の強力な予測因子であることを示唆しています。

私たちの研究には、主に後方視的な研究設計とデータ収集のために、いくつかのリミテーションがあります。
包括的な情報の欠如と救急外来での対応のばらつきは、報告バイアスをもたらした可能性があります。

救急外来で確実な診断ができれば、タイムリーな介入と適切な治療の選択ができます。
疾患固有のバイオマーカーがないので、急性FPIESと他の一般的な初期の小児期の疾患との区別に役立つ効果的な診断ツールとしての標準的な検査マーカーを解明する多施設前向き研究の実施が必要です。
一方、嘔吐を呈する乳幼児で、無気力、筋緊張低下、蒼白などのFPIESの典型的な臨床的特徴(その多くは現在のガイドラインのマイナー基準です)と正常なCRP、および発熱がないことは、FPIESの可能性に注意しなければなりません。

感想

「正常なCRPでは感染症以外を疑え」というメッセージに、どれほどの意味を見出せるでしょうか。

FPIES、日本でいう「消化管アレルギー」は、敗血症としか思えないような臨床像を呈することがあります。
私は「異常なCRPを見ても、FPIESは除外するな」というメッセージのほうが意味があるように思います。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。