2021年2月6日、7日に第115回医師国家試験がありました。
受験した人は、たいへんお疲れさまでした。
医師国家試験というのは、医師になるためには通らなければならない関門です。
いっぽうで、医師になってからも実際に臨床に役立つ知識でもあります。
今回は、小児科の現場でも役立ちそうな問題を第115回医師国家試験からピックアップしてみます。
このページの目次です。
A-25 RSウイルス細気管支炎の入院基準
4か月の男児。鼻汁と咳嗽を主訴に両親に連れて来られて来院した。
昨日から鼻汁、咳嗽および喘鳴が出現した。
在胎36周1日、2466gで出生した。
低出生体重児のためNICUに3週間入院した。
3歳の兄が1週間前から鼻汁を認めていた。
母乳栄養で哺乳は普段と変わらない。
伸長64.3cm、体重7220g、体温36.8℃。
心拍数120/分。呼吸数50/分、SpO2 98%(room air)。
心音に異常を認めない。呼吸音は喘鳴を認めるが、陥没呼吸は認めない。
腹部は軽度膨隆を認める。
毛細血管再充満時間の延長はない。
鼻腔RSウイルス迅速検査は陽性だった。対応として正しいのはどれか。
a 経過観察
b 抗菌薬投与
c 抗ウイルス薬投与
d ガンマグロブリン投与
e ヒト化モノクローナル抗体投与
答えはaです。
それ自体はとても易しいです。
でも、実際の臨床現場で、次が問題となります。
どこで経過観察しますか?
帰宅させ、外来で経過観察しますか?
それとも入院させて経過観察しますか?
入院の基準というのは、学生のうちには習いません。
そもそも入院基準に明確なエビデンスというものはなく、その地域の医療資源に強い影響を受けます。
たとえば都会のように24時間の救急体制が整っている地域と、田舎のように急変しても子どもの対応ができる診療所まで100kmくらい離れている地域とでは、入院の基準が違うのは当然でしょう。
そんなフワフワした「入院基準」に、何か指標があればいいなあと常々思ってました。
とりあえず、私だったらどう考えるかという基準を初期研修医・総合診療医のための 小児科ファーストタッチに記載しました。
- 生後3カ月未満のRSウイルス感染症は無呼吸発作(特に生後6週まで)や細気管支炎のリスクが高いため、小児科専門医に相談のうえ入院がよい。
- 生後6か月未満で局所的なcracklesまたは肺野に広くwheezesやrhonchiを認めた場合は、細気管支炎と考え入院すべきである。
- 生後6カ月以上であっても、水分摂取不良やSpO2 94%未満である場合は入院させる。
上記はあくまで一例です。
これをベースに、目の前の患者さんの状況を考慮して、アレンジしてください。
A-38 運動誘発アナフィラキシーへの対応
11歳の男児。
運動後の呼吸困難を主訴に救急車で搬入された。
給食後、午後1時間目の体育で持久走中に症状が出現してきた。
給食の主なメニューは、パン、エビグラタン、オニオンサラダ、キウイフルーツだった。
気管支喘息の既往はあるが、現在常用薬はなく、最近1年間、発作はなかったという。
その他、既往歴に特記すべきことはない。
意識は清明。心拍数90/分。血圧96/62 mmHg。呼吸数24/分。
胸部聴診上、喘鳴を聴取する。
腹部と下肢に紅斑と膨疹を認める。直ちに行うべき対応として適切なのはどれか。
a 気道確保
b ステロイド吸入
c アドレナリン筋注
d 抗ヒスタミン薬内服
e 重炭酸ナトリウム静注
この症例が食物依存性運動誘発アナフィラキシーであることは、一般の人でも容易にわかります。
アナフィラキシーと判定したとき、私はまず反射的にグレードを評価しています。
この症例は、全身の膨疹(グレード2)と、聴診上の喘鳴(グレード2)を認めます。
意識清明で、血圧も保たれているので、循環器症状はありません。
消化器症状もありません。
したがって、グレード2のアナフィラキシーです。
アドレナリン筋注の適応は、日本アレルギー学会のアナフィラキシーガイドラインにあります。
- アドレナリン筋注の適応は前出のアナフィラキシーの重症度評価におけるグレード3(重症)の症状(不整脈、低血圧、心停止、意識消失、嗄声、犬吠様咳嗽、嚥下困難、呼吸困難、喘鳴、チアノーゼ、持続する我慢できない腹痛、繰り返す嘔吐等)である。
- 過去の重篤なアナフィラキシーの既往がある場合や症状の進行が激烈な場合はグレード2(中等症)でも投与することもある。
- 気管支拡張薬吸入で改善しない呼吸器症状もアドレナリン筋注の適応となる。
進行が激烈な場合はグレード2でもアドレナリンを筋注することもありますので、上記の答えはcでいいと思います。
ただ私だったら、最初にβ2刺激薬の吸入をして、反応に乏しければアドレナリン筋注かなあって思います。
ちなみに、aの気道確保は、救急外来におけるABCでは、最初のAにあたります。
Air wayの確保は救急の基本です。
ただ、本症例は意識が清明ですので、自分で楽な体勢を取れると思います。
意識障害があれば、頭部後屈顎先挙上など、適切な気道確保が必要です。
気道確保=気管挿管ではありませんので、注意してください。
ここまでが、国家試験レべル。
実際の臨床では、ここから先が求められます。
原因として小麦またはエビが疑わしい、というところまでは簡単です。
特異的IgE検査は参考にはなります。
でも絶対ではありません。
偽陽性も偽陰性も多いです。
そして食物依存性運動誘発アナフィラキシーの負荷試験はとても難しいです。
だからといって、「もう小麦とかエビとか食べないでね」というアドバイスはあまりに安易です。
「小麦やエビを食べたら2時間運動しないでね」というのも正確ではありません。
このあたりの説明は、アレルギーの非専門医では難しいと私は感じています。
そのため、実臨床ではこうするのが現状では「ベター」なのだと考えました。
- 原因の究明および再発予防を行わなければならない。小児科専門医またはアレルギー専門医に必ずつなぐ。
- エピペンを処方する。
保護者への説明なども記載していますので、うまく活用いただければと思います。
B-30、E-38、F-57 呼吸数に必ず注意
発熱した子どもを研修医に診察させると、全身のリンパ節をくまなく触ったり、反射があるかどうか見たりして、「丁寧な診察をするなあ」となかなか感心します。
ですが診察後に「呼吸数は?」と質問すると、研修医は「呼吸数は見ていませんでした」と答えることが多いです。
体温やSpO2、心拍数などの基本的なバイタルサインは、看護師さんが予診で記録していることが多いです。
いっぽうで呼吸数は、小児では省略されていることが多いバイタルでしょう。
呼吸数は、小児の重症度評価にとても大切です。
このことは小児科ファーストタッチにも、NICEガイドラインにも書かれています。
B-30
2歳の男児。
発熱、咳嗽および喘鳴を主訴に母親に連れられて来院した。呼吸数48/分。
E-38
9か月の男児。RSウイルス感染症による呼吸窮迫とチアノーゼのため入院中である。
呼吸数10/分。
F-57
生後30分の男児。
在胎40週0日、出生体重2230g。呼吸数70/分。
国家試験では、呼吸数は問題文中に書かれています。
でも、実際の臨床現場では、あなたが呼吸数を見るのです。
問題文のように、空から呼吸数が降ってくるわけではありません。
あなたが呼吸数を見なければ、大切なバイタルサインが欠落した状態で診療は進んでいきます。
ちなみに、実際の臨床の現場では「〇〇に気づいたら、□□をする」というふうに、評価と介入をセットにしておくべきです。
介入が伴わない評価にはあまり意味がありません。
呼吸数の異常は。重症度項目に該当します。
「重症度項目に該当するときは、血液検査をしましょう」と小児科ファーストタッチに書いています。
その他、細かいところ
A-52 タバコ誤飲
無症状なら処置不要です。
逆に、症状があれば胃洗浄です。
いかなる状況でも催吐させてはいけません。
活性炭に対する考えは、小児科ファーストタッチにも書きました。
D-23 マイコプラズマ肺炎
13歳女子、4日前からの発熱と咳嗽です。
小児科ファーストタッチでは、発熱4日目では血液検査と胸部Xpをするように決めています。
肺炎像があれば、この年齢の市中肺炎としてもっとも多いのはマイコプラズマですから、診断は難しくありません。
ただ、本症例は発熱5日目で、発見が少し遅れた印象を持ちます。
遅れた理由は、新型コロナウイルスと関連したのではないか、と余計な想像をしてしまいます。
この症例も、新型コロナウイルスPCRを受けていますし。
ちなみに、マイコプラズマ肺炎は聴診所見が正常であることも多いですが、本症例のようにcoarse cracklesが聴取されたからといってマイコプラズマが否定されるわけではありません。
D-44 溶連菌感染症と腎炎
溶連菌感染後腎炎は有名です。
ただ、溶連菌感染後に尿検査をルーチンでするかどうかは、結論が出ていません。
E-30 インフォームドアセント
インフォームドコンセントは、説明と同意と訳されます。
いっぽう、子どもから同意を取ることは難しく、代わりに賛意を得ることを目指します。
これが、インフォームドアセントという考え方です。
「インフォームドアセントを得ると、児の不安・恐怖は和らぐか?」
そんなクエスチョンが、当院の研修医の中では10番目に多かったです。
私なりの回答をキリンさんの本に書きました。
F-10 アナフィラキシーへのアドレナリンは筋注
毎年出ているような気がしますね。
115回に関していえば、A-38に引き続いて2回目ですし。
それでも、現場では皮下注したり静注したりしてしまう人がいるためでしょうか。
筋注筋注言い過ぎると、CPAにも筋注しだしそうなので、指導のバランスが大事だと思います。
F-11 任意接種のワクチン
子宮頚癌ワクチンは、定期接種です!
一般の人で知らない人がいるのは、医療者側の啓蒙不足です。
ですが、医師を志す人が知らないのは、情報収集不足ですね。
F-42 IgA血管炎
小児の腹痛で足を見る、というのは国家試験用の知識ではありません。
「足を見ておいてよかった」と臨床現場でも役立つことが数年に1度くらいですけどあります。
私も3回くらいは「足を見ておいてよかった」と思いました。
まあ、足を見ても呼吸数は見ない研修医が多いのも、どうなんだろうと思いますが。
F-43 ビタミンK欠乏
ぜひ、胆道閉鎖症とセットで覚えてください。
F-48 小児の内分泌疾患でまずすること
低身長とか肥満とか思春期早発とか思春期遅発とか。
子どもの内分泌系の相談はときどきあります。
研修医が最初にすることは、成長曲線を書くことです。
これに限らず、最初の一手目を覚えておくのは大事ですね。
「けいれんを見たら、まず酸素投与」とか。
二手目は、一手目をしながらゆっくり考えればいいんです。
そのうち上級医が助けに来てくれますし。
まとめ
小児に関してはバランスよく出題されているなあと感じました。
第115回医師国家試験を受けて、春から医師となる先生方は、国家試験の問題から想いを少しだけ周辺に馳せて、実際の現場に役立つ知識へと昇華できたらなおよいですね。