小児科医になりたいわけではない初期研修医の小児科研修。

兵庫県立柏原病院は、医師不足による医療崩壊を経験した地方基幹病院です。

医師不足を解消すべく、柏原病院が打ち出した施策は教育改革でした。
初期研修医に優れた医学教育を提供することで、初期研修医が集まり、彼らが専攻医・専門医と成長し、柏原病院を支えるという方針を打ち立てました。
近年、柏原病院の研修医数、医師数はともに増加しており、医師不足問題は解決に向かっています。

柏原病院の施策を継続するために、われわれは優れた医学教育を提供し続けなければなりません。
現在柏原病院では、研修医と指導医が月に1回ミーティングをしています。
この会は研修医ミーティングと呼ばれ、内科・外科・小児科・産婦人科の指導医と、初期研修医全員が集います。
そこで指導医が教えたいこと、研修医が学びたいことが一致するように話し合います。

今回は、私が柏原病院の研修医ミーティングで感じていることと、初期研修医における小児科研修のあり方を考えます。

小児科医になりたいわけではない初期研修医の小児科研修

当院に集まる初期研修医は、将来内科医、外科医、整形外科医を目指すものが主体です。
残念ながら、「小児科医になりたいです!」と言ってくれる研修医は今のところいません。
(小児科も少しだけ考えています、とは多くの研修医が言ってくれるんですけれど)

小児科医を目指しているわけではない彼らも、小児科は少なくても1か月は研修します(制度上は必須ではないのですが、ほとんど全ての研修医が小児科を研修してくれます)。
医者になった最初の2年間はいろいろな科を研修するというが、現在の医学教育の基本です。

小児科医になりたいわけではない初期研修医の小児科研修。
私は彼らにどのような教育を提供すればいいのか、ずっと疑問でした。

研修医が持つ小児科への想い

柏原病院の研修医ミーティングの結果、研修医の多くが「外来に子どもが来たときに、一人で対応できるようになりたい」と述べました。
彼らは病棟での入院診療よりも、外来での初診に興味を持っていました。

問診、診察、鑑別疾患を挙げて検査を考え、外来で行える処置を実施し、入院するかどうかを考える。
この診療の流れをたくさん行いたいと研修医は言いました。

これに私は衝撃を受けました。

今までの小児科研修

なるほど、それまでの研修医に対する当院小児科教育は「入院患者の担当医として勉強すること」に偏っていました。

入院患者は外来患者とは違って、カンファレンスでゆっくり話し合うことができます。
教科書や論文を読んで、治療方針を熟考することもできます。
問題が起きたときもその都度対応できます。
初期研修医が最初に学ぶには、まずは入院患者が適切だと考えていました。

将来小児科専門医になりたいと考えている初期研修医には、この「まずは病棟から」という教育方針は適切だと思います。
病棟診療で経験を積み、ある程度成長して小児科専攻医となってから外来診療を学べばよいでしょう。

ですが、当院の初期研修医は小児科専門医にはなりません。
彼らは2年間のローテーション研修の一つとして小児科を選んでいるだけです。

彼らは将来、内科医・外科医となることを目指しつつ、それでも「子どもの初期対応くらいは自信を持ってできるようになりたい」と考えていることが柏原病院の研修医ミーティングで明らかになりました。

良い医者になりたい研修医と、良い医者を育てたい小児科医

「外来に来た子どもに、まずは何をするべきなのか」というテーマに初期研修医は強い関心を持っています。

彼らに必要な教育は、入院患者に対する専門的な治療よりも、小児科外来や救急外来における「子どもへのファーストタッチ」であるように感じています。
最新のエビデンスに基づいた専門的な治療は、小児科専門医が引き継いでから行えばよいのです。

小児科医が偏在、不足する中、子どものファーストタッチが小児科医ではないという地域は今後増えていくと思います。
自信を持って子どもへのファーストタッチを行える内科医・外科医が増えてきてくれると、私たち小児科医の仕事も楽になります。

良い医者になりたい研修医と、良い医者を育てたい小児科医。
これはお互いの利害が一致した、非常に良い関係です。

小児科医のプロフェッショナリズム

子どもの初期対応を習得したい初期研修医の先生には無用なことなのかもしれませんが、私にはどうしても研修医の先生に知って欲しいことがあります。

それが、小児科医のプロフェッショナリズムです。
小児科医のプロフェッショナリズムとは、子どもの代弁者であることです。
たとえ赤ちゃんであっても、痛みと不安は感じます。
子どもはお父さんとお母さんが大好きです。
両親と切り離されることは、子どもを孤独に追い込むことです。

そして、お父さんとお母さんにとって、子どもは宝物です。
夜の1時であっても、子どもが熱を出して不安を感じない親はいません。
子どもに最善のことをしてあげたいと親は考えます。
子どもにトラブルがあったとき、親は子ども以上に不安を感じます。
その親の心に寄り添うことも、小児科医のプロフェッショナリズムです。

岩田健太郎先生に教えてもらった言葉に「その科のプロフェッショナリズムを学べ」というのがありました。
産婦人科には産婦人科の、皮膚科には皮膚科の、小児科には小児科のプロフェッショナリズムがあります。

直接的に医療に関わるものではないかもしれませんが、こういうプロフェッショナリズムは将来にわたって体に染みつきます。
小児科医のプロフェッショナリズムが、初期研修医が最終的に至る医師像に影響を与えることができたなら、きっと良い効果を及ぼすと私は考えます。

初期研修医に対する小児科研修の今後

  • 小児科専門医を目指していない初期研修医は、子どもへのファーストタッチを学びたい。
  • 小児科医は、自らのプロフェッショナリズムを教えたい。

両方とも大切なことです。
この2つは、研修医にとっても、小児科医にとっても、利益になります。

彼らの教育にはファーストタッチに特化した内容の教科書が欲しいところです。
外来小児科学の教科書はファーストタッチについて詳しく書かれているものの、初期研修医には内容が高度です。

4月には、新しい初期研修医が入ってきます。
彼らにとって良い小児科研修になるように私が準備しておくことは、ファーストタッチに特化した内容の本を用意しておくことでしょう。

4月まであと1か月。
準備します。

2019年3月14日追記:準備できました!

出版したときに書いた記事です。
経緯についてまとめています。

初期研修医・総合診療医のための小児科ファーストタッチ。

2018年3月23日

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。