第116回医師国家試験の「興味深い良問6つ」を小児科医がピックアップ。

2022年度の第116回医師国家試験、受験された方はお疲れさまでした。

試験のために勉強しているわけではありませんが、効果的な勉強を続けていくために試験はそれなりに有用だと私は思っています。
というわけで、医師国家試験の問題は毎年目を通すようにしています。

第115回医師国家試験から、小児科の実際の臨床現場に繋がる14問をピックアップ。

2021年2月13日

2020年春から医師となる人へ。第114回医師国家試験の小児科医視点。

2020年2月22日

第113回医師国家試験の小児科43問総評。

2019年2月13日

第112回医師国家試験の「割れ問」を小児科医が解く。

2018年2月11日

第111回医師国家試験の良問37題。現場で役立つ小児科医の視点。

2017年3月22日

今回も、第116回医師国家試験を解きながら、小児科医として思ったことを書きます。

第116回医師国家試験400問中、小児科からの出題は?

私は43問が小児科かなあと思いました。

A11 自閉スペクトラム症
A17 血友病
A25 イカの運動誘発アナフィラキシー?
A32 肺動脈閉鎖
A34 半陰陽の告知
A40 横紋筋融解症
A48 腸重積
A51 ダウン症
A54 滲出性中耳炎
A57 虐待
A59 アトピー性皮膚炎
A71 扁桃白苔をきたす感染症
B11 喉頭蓋炎の徴候
B12 筋ジストロフィー
B17 小児の胸骨圧迫
C4 前頭縫合
C6 マイクロバブルテスト
C13 ノロウイルスの消毒
C29 予防接種法
C42 循環不全の徴候
C44 胎便排泄遅延
C52 筋ジストロフィーの遺伝カウンセリング
C56 思春期早発
C75 新生児の輸液
D4 先天性副腎過形成の発熱
D8 伝染性膿痂疹
D11 咽後膿瘍の症状
D28 異物誤飲
D33 胆道閉鎖からビタミンK欠乏
D38 可能性股関節炎
D47 ボツリヌス症
D67 クッシング症候群
E7 胎児循環
E17 痙性麻痺
E30 熱性けいれんへの処置
E37 アナフィラキシー
F6 便色カード
F14 精神運動発達
F21 健診1歳半
F28 新生児期の基準値
F31 先天異常と遺伝形式
F36 水痘
F54 流行性耳下腺炎からの難聴

毎年バランスよく出ているなあと感心します。
川崎病が今年は出ませんでしたね。(選択肢では出てきましたが)
「患者にどのように説明するか」といった、コミュニケーションに関する問題も多かったように思います。
いい問題ではありますが、常識で考えれば知識がなくても解けてしまうので、試験としては易しいと感じました。

興味深いと感じた問題を6つピックアップ!

全部紹介するのは大変なので、個人的に興味深いと感じた問題をピックアップします。

A25 イカの運動誘発アナフィラキシー?

13歳女子。バスケットボールの試合中、気分不快と腹痛。会場で用意された弁当を食べて1時間後に試合出場。試合開始10分後に気分不快、全身の皮膚搔痒、腹痛。弁当の主な副食材はイカで、最近1年ほどは食べていなかった。今後の対応として適切なのはどれか。

a. 部活動を止めさせる。
b. イカの摂取を禁ずる。
c. プリックテストを行う。
d. 運動前の食事を禁止する。
e. 運動前にステロイド薬を内服させる。

第116回医師国家試験 A25

「主な副食材」というパワーワード。
主なのか、副なのか。
しかも、それがイカとのこと。
そのお弁当は、小麦が全く入っていなかったのでしょうか。

なんてことを色々考えたりしますが、とりあえず食物依存性運動誘発アナフィラキシーを疑わせるエピソードではあります。
ただ、運動誘発アナフィラキシーの対応は、アレルギー専門医でもなかなか難しいです。

一応、食物依存性運動誘発アナフィラキシーについて、知っていることをまとめておきます。

  • 中学生の有症率は0.0085%。
  • ウォーミングアップで症状を抑制できるが、絶対に予防できるわけではない。
  • ランニング、中距離・長距離走など負荷が大きい運動で多い。いっぽうで、散歩や家事程度でも出願することがある。
  • 原因食物のIgE抗体陽性率は80%。
  • 男女比4:1で男子に多い。いっぽう、女子では月経が増悪因子となる。
  • NSAIDsで誘発されやすい。

運動誘発アナフィラキシーは、歩行だけ、シャワーだけという軽微な負荷でもアナフィラキシーになりますし、その頻度は意外に多いです。
通常の即時型でも運動はリスクとなりますので、境界が不明瞭です。
運動誘発アナフィラキシーを強く疑ったが、運動負荷試験をしても、アスピリン追加運動負荷試験をしても陰性の場合がよくあります。
つまり、この患児にイカを食べさせて運動負荷試験しても、アレルギー症状が誘発されないことは多いです。
経験的にではありますが、「イカは関係なかった」という可能性のほうが高いように思います。
むしろ、感作がダニとハウスダストしかなく、「食物ではなくて、体育館のホコリに反応してしまったのかも」という結論になることすらあります。

食物依存性運動誘発アナフィラキシーの診断ってすごく難しいんです。
だからこそ、安易に制限を加えない方がいいように思います。
今回のエピソードだけで「イカを制限!運動を制限!」としてしまうと、制限を解除できる日は訪れないかもしれません。

とりあえず、感作の確認をするのが無難な対応でしょうね。
cのプリックテストが答えだと思います。

ただ、感作を確認できたとしても、今回のエピソードだけで食物依存性運動誘発アナフィラキシーと診断することはできません。
私はエピペンを持たせて1年経過観察するという対応をすることがあります。
エピソードが2回発生すると、その共通点から原因を絞り込めますので。

A57 虐待

2か月の女児。けいれん重積のため救急車で搬送。母親によると夜間寝ていてけいれんが始まった。救急車内で心肺停止となり心肺蘇生を試みたが、来院後死亡が確認された。母子手帳によると妊娠分娩歴に異常がないが、1か月健診は受診していない。顔面や体幹に新旧混在した皮下出血の散在を認めた。死後に行った頭部CTでは両側に硬膜下血腫とびまん性脳浮腫を認めた。全身エックス線写真では左大腿骨骨折、右上腕骨骨折を認めた。母親は外相に心当たりはないという。死亡に至って原因として最もかんがえられるのはどれか。

a. 虐待
b. てんかん
c. 不慮の事故
d. 熱性けいれん
e. 細菌性髄膜炎

第116回医師国家試験 A57

これは何かを問う試験ではないと思います。
受験生に、この壮絶なエピソードを刻み込むための問題でしょう。

この問題のポイントは、CTとレントゲン画像があることです。
加害者を特定し、刑事事件化し、厳罰に処するための証拠です。
証拠不十分でこの事件が「不慮の事故」と処理されていては、「120年後の虐待0」には到底届きません。

虐待を減らし、なくすためには、罪を明らかにし、正しく罰することが必要です。
その想いは、以前にも書きました。

致死率5%、重症化率25%!恐るべき小児科疾患である児童虐待。

2017年2月23日

なお、死亡確認後のCTやX線検査の費用は、当院の地域では基本的には保護者が負担します。
このケースで、保護者がCTの費用を払うとは思えません。
心肺停止の原因を究明し、救命に繋げるための検査であれば、保険診療内でできます。
現実的には、死亡診断前に画像検査をする必要があります。

A71 扁桃白苔をきたす感染症

5歳の女児。3日前からの高熱。咽頭痛と食欲低下を認めるが、咳嗽や鼻汁はない。体温39.6℃、脈拍120/分、呼吸数28/分。SpO2 1005。活気良好。顔色良好。眼球結膜に軽度の発赤を認める。咽頭の発赤と口蓋扁桃に白苔の付着を認める。両側頚部に1.5cmのリンパ節を4個ずつ触知する。肝脾腫なし。可能性が高い疾患はどれか。3つ選べ。

a. 川崎病
b. 溶連菌感染症
c. EBウイルス感染症
d. アデノウイルス感染症
e.パルボウイルスB19感染症

第116回医師国家試験 A71

Twitterで騒がせていた問題。
割れる要素があるんです。

まずは川崎病の主要症状と診断基準を見てみましょう。

主要症状
1.発熱
2.両側眼球結膜の充血
3.口唇、口腔所見:口唇の紅潮、苺舌、口腔咽頭粘膜のびまん性発赤
4.発疹(BCG 接種痕の発赤を含む)
5.四肢末端の変化:(急性期)手足の光世浮腫浮腫,手掌足底または指趾先端の紅斑、(回復期)指先からの膜様落屑
6.急性期における非化膿性頸部リンパ節腫脹

診断基準
a.6つの主要症状のうち、経過中に5症状以上を呈する場合は、川崎病と診断する。
b.4主要症状しか認められなくても、他の疾患が否定され、経過中に心エコーで冠動脈病変(内径のZスコア+2.5以上)を呈する場合は、川崎病と診断する。
c.3主要症状しか認められなくても、他の疾患が否定され、冠動脈病変を呈する場合は、不全型川崎病と診断する。
d.主要症状が3-4症状で冠動脈病変を呈さないが、他の疾患が否定され、参考条項から川崎病がもっとも考えられる場合は、不全型川崎病と診断する。
e.2主要症状以下の場合には、特に十分な鑑別診断を行ったうえで、不全型川崎病の可能性を検討する。

今回のケースでは主要症状の1、2、6はあります。
3が微妙ですが、咽頭発赤だけでは主要症状に加えない医師が多いのではないかと思います。
少なくても、私は咽頭発赤を重視しません。

主要症状が3ととるか4ととるかで割れますが、いずれにせよ診断基準では「他の疾患が否定され」とありますので、他の疾患をまず否定しましょう。

川崎病以外の疾患として、何が考えられるでしょうか。
「扁桃白苔」があったとき、溶連菌が30%、アデノウイルスが30%、EBウイルスが30%とキリンさんの本に書きました。

だから、答えはbcdなんだと思います。

でも、ちょっと意地悪な問題ですよね。
発疹はあるのかどうか、硬性浮腫はあるのかどうか、心エコーはしたのかどうかなど、どうしても気になってしまいます。

川崎病は200人くらい主治医として診たと思いますが、扁桃白苔があったケースは稀だと感じます。
「可能性が高い疾患」という意味では、違うかなあと思います。

まあ、この問題のポイントは「なんでもかんでも川崎病と言う前に、しっかり除外診断しなさいよ」ということなんだと思います。

C56 思春期早発

6歳6か月女児。約1年前から乳房腫大に気づかれた。乳房はTanner分類III度。成長曲線で5歳から成長スパートがみられる。診断に有用な検査はどれか。2つ選べ。

a. 頭部MRI
b. 染色体検査
c. 心エコー検査
d. マンモグラフィー
e.手根骨エックス線撮影

第116回医師国家試験 C56

答えは簡単なんですけどね。
aeです。

6歳以上の女子の中枢性思春期早発の原因は特発性(脳に器質的な疾患がないパターン)が多いのですが、本症例は6歳未満で発症しているので視床下部過誤腫を念頭に頭部MRIが必須でしょうね。
造影のほうがいいと思います。
また、全年齢の男子の場合も、造影MRI検査は必須ですね。

さらには、卵巣エコーで卵巣嚢腫や腫瘍を除外し、DHEA-S上昇あれば副腎エコーまたは腹部CTで副腎腫瘍を除外し、hCGを測定してhCG産生腫瘍を除外するなど、末梢性早熟の除外を進めるべきです。

中枢性思春期早発症の診断の手引きは、小児科医でもしっかり理解できていない人いるような気がします(私自身も含め)。
とりあえず、最初の1歩目は検査ではなく、「成長曲線を書くこと」でしょうか。
これだけ覚えていれば、内分泌疾患の苦手が減るように思います。

D47 ボツリヌス症

5か月の男児。数日前から便秘があり、今朝から哺乳量が低下した。完全母乳だが、最近になり蜂蜜を与えている。来院時、視線は合うものの表情に乏しく、眼瞼下垂と瞳孔散大を認め、対光反射は両側で遅延している。頭部の姿勢保持が困難で、四肢の腱反射は消失している。最も考えられる疾患はどれか。

a. 脳性麻痺
b. 重症筋無力症
c. ボツリヌス症
d. 先天性ミオパチー
e. Werdnig-Hoffmann病

第116回医師国家試験 D47

乳児に蜂蜜はダメ!ってことはもう常識となりましたが、ボツリヌス症の症状を知っている人は少ないでしょう。
なかなかインパクトのある症例だと感じました。

F54 流行性耳下腺炎からの難聴

6歳男児。就学前の健康診断で一側の高度感音難聴を指摘。新生児期の聴覚スクリーニング検査では異常なし。2歳時に耳下腺炎の既往がある。難聴の原因として最も考えられるのはどれか。

a. 慢性中耳炎
b. 流行性耳下腺炎
c. 先天性風疹症候群
d. 低酸素性虚血性脳症
e. Treacher Collins症候群

第116回医師国家試験 F54

おたふくかぜからの難聴です。
おたふくかぜワクチンは1歳から接種できます。
予防接種を受けていれば、防げたかもしれない難聴です。

難聴は永続的な障害となるので重要な合併症のひとつです。 頻度の報告は様々ですが、日本では1000人に1人の割合で難聴を引き起こす(小児科臨床64: 1057, 2011年)というデータがよく引用されているように感じます。

先天性風疹症候群と併せて、予防接種の重要性を再確認しましょう。

これから医師になる先生へ

試験お疲れさまでした。
これからは、試験のようなケースをどんどん実践していくことになります。

自分で考えて検査し、自分で考えて診断し、自分で考えて治療します。

緊張するかもしれませんが、上司や同僚と相談しながらやっていくので、きっと大丈夫です。
現場の臨場感を知るには、「子どもの診かた」が役立つはずです。
小児科の診療の組み立て方も見につくとおもいます。

小児科の実践的な知識であれば、小児科ファーストタッチが取っ掛かりになると思います。

ぜひ、良い先生に成長してください。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。