医者にとっての一日一善。一日一つ賢くなる、一つの方法。

私は神戸大学附属病院で初期研修をしました。
一番最初に研修したのが総合診療科です。

そのとき、私を指導してくれた金澤健司先生(現加古川中央市民病院総合内科)から言われた言葉の一つが「一日一つ賢くなりなさい」でした。

本当は「一日五つ賢くなりなさい」だったような気もします。
ですが、私は一日に五つも賢くなれないので、私の脳が自動補正してくれまして、「一日一つ」というようにインプットされています。

今日は、この自動補正された方の言葉「一日一つ賢くなれ」について書いてみます。

一〇一〇の四字熟語

「一〇一〇の四字熟語を10個答えろ」

まるでネプリーグの問題ですね。
私は国語が苦手なのですが、がんばって答えてみます。

一期一会、一言一句、一汁一菜、一日一善、一問一答、一進一退、一世一代、一喜一憂、一芸一能、一挙一動、一国一城、一朝一夕、一長一短。

意外と13個出ました。

一日一つ賢くなれ、という言葉とほとんど同じ意味合いの四字熟語は、この中に一つしかないと思います。

それは、「一日一善」です。
いいことを一つずつ積み重ねていきましょう、という意味だと思っています。

「一日一つ賢くなれ」というのも、一つずつ知識を積み重ねていきましょうという意味だと私は解釈しています。

医者にとって「一日一つ賢くなること」は、「一日一善」と同じ意味だと私は考えます。

一日一つ賢くなるために

金澤先生の教えは、「成長しない医者は名医になれない。昨日よりも今日、今日よりも明日、日々賢くなっていけば、いつか必ず立派な医者になれる」ということなのでしょう。

そのためには、一日診療していて疑問に思ったことを必ず一つ文献で調べて自分の知識にしなければなりません。

当時は大学病院で研修していましたので、大学の図書館にはたくさんの文献が置いてありました。
pubmedを使いこなせない私には、目的の文献を探しだすだけでも骨が折れた記憶がああります。

それでも、立派な図書室があっただけ、その環境に感謝すべきだったのです。

今、私が働いている病院はいわゆる「市中病院」で、図書室にもそれほどたくさんの本がありません。
図書館が小さな病院で働くと文献集めに苦労します。
ネルソン小児科学は36000円で3~4年ごとに改訂されますから買いなおす必要があります。
小児内科という雑誌の年間購読料は48384円、小児科診療は年間46300円、小児科臨床は年間43680円です。
正直なところ、「高いなあ……」と思います。

一日一つ賢くなるためには、勉強時間の確保だけではなく、教科書を手に入れるための経済的リソースが必要となります。
賢くなるには、障害が多いです。

ブログを始める

2016年に神戸大学の指導者講習会を受講したときに、金澤先生に再会しました。
そのとき、私は「一日一つ賢くなれ」と教わったことを思い出しました。
「勉強しなければ……」とあらためて心を引き締めました。
(繰り返しますが、金澤先生が言ったのは「一日五つ賢くなれ」です)

私がブログを始めたのは、医者が正しい知識を発信する必要性を感じたからです。
ですが、副次的なアウトカムとして、私が一日一つ賢くなるために役立っています。

ブログに書くということは、チラシの裏に書くわけではありません。
いろんな人に見られることを覚悟して書くわけですから、無責任なことは書けません。
文献をいくつも調べる必要があります。

この作業が、一日一つ賢くなることに繋がっているように思います。
こうやって文字にしてみると、私がいかに分かったつもりになっていて、実は全く分かっていなかったと痛感します。

医者が一日一つ賢くなるための一つの方法として、「毎日医療記事を書いてみる」という手法を提案します。
現在、実践中です。

まとめ

医者にとって、賢くなることは「善」です。
賢くなればなるほど、患者さんを救えると思ってよいでしょう。
逆にいうと、医者がバカであればあるほど、患者さんには迷惑です。

一日一つ賢くなることは、まさに一日一善だと思います。

ただ、医者を長くやっていると、こう思うのも事実です。
医療は一進一退であると。

8年医者をやってきて、成長したなあと思うこともありますが、本当に成長できているのかと疑問に思うこともあります。
むしろ後者の方が多く感じるくらいです。
臨床能力がプラトーに達しても、医学は日進月歩ですから、知識の停滞はもはや医学知識の後退とみなすべきでしょう。
医者の能力が一定であることは、日々進歩する医学から取り残されており、相対的な後退と捉えるべきでしょう。

そもそも年を重ねると、研修医の頃よりフットワークが重くなり、自験例というもっとも低いエビデンスに振り回され、むしろ私は医者として退化しているのではないかと思うことすらあります。

金澤先生に「一日五つ賢くなれ」と言われたのは、「一日一つでは一進一退なのだ」という教えだったのかもしれないと思う今日この頃です。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。