保育所・幼稚園の食物アレルギー対応に、アレルギー専門医が思うこと。

兵庫県丹波市の保育士の先生方と食物アレルギーについて勉強する機会を頂きました。
丹波市の13の保育所から、26人の保育士の先生、栄養士の先生、看護師が参加くださいました。

その勉強会を通じて、保育所・幼稚園の食物アレルギー対応に、一アレルギー専門医として思うことを書きます。

完全除去か部分除去か

医師が記入する生活管理指導票の中で、「家庭で負荷テストをして使用可能となった食品に関して保育所でも使用してください。」と書かれていたら、負荷テストした製品を給食で使用するべきか?(保護者によっては製品を指定してくる)

丹波市では13の保育所があります。
そのうち12か所は部分除去を許容しており、「完全除去」か「解除」かの2択としているのは1か所だけでした。

ちなみに、隣の丹波篠山市や朝来市は「完全除去」か「解除」かの2択としており、「部分除去」は認めていません。
全国的にも、7割以上の保育所・幼稚園が「完全除去」か「解除」かの2択としていました。

丹波市の「部分除去」を許容する傾向は、全国的には特殊です。

本来、保育所や幼稚園の食物アレルギー対応は「完全除去」か「解除」かの2択です。
「部分除去」は危険ですので、保育所や幼稚園ではすべきではありません。

それが、厚生労働省や文部科学省の指針です。
保育所については、厚生労働省の保育所におけるアレルギー対応ガイドラインに書かれています。
幼稚園については、文部科学省の学校給食における食物アレルギー対応指針に書かれています。

食物アレルギーがある場合、自宅では「必要最小限の除去」をしますが、保育園では「完全除去」が望ましいでしょう。

卵アレルギーでもハムが食べられたり、牛乳アレルギーでもカレーが食べられるケースは多いです。
ですが、子どもの安全を守るためには、「完全除去」か「解除」かの2択であることが大切です。
保育園にも幼稚園にも子どもはたくさんいて、アレルギーを持つ子どもも複数いて、その内容も多様です。
この子どもはハム2枚までOK、この子どもはカレーライス半分までOK、という「部分除去」を許可してしまうと、管理が複雑になって、間違えて事故が発生します。
間違わないために、「完全除去」か「解除」かの2択にします。

卵アレルギーがあるなら、保育園や幼稚園ではハムもクッキーも食べられません。
その代わり、家では必要最小限の除去をしましょう。
ハムが食べられる卵アレルギーなら、家ではハムを食べてください。

オリジナル生活管理指導票について

生活管理指導表をオリジナルで作っています。内容についてアドバイスください。

食物アレルギーを持つ子どもが保育所や幼稚園に通うとき、生活管理指導表を医師に記入してもらわなければいけません。


保育所におけるアレルギー疾患生活管理指導表


学校生活管理指導表(アレルギー疾患用)

保育所と幼稚園とで様式は少し異なりますが、これらの様式に従う限り、給食対応は「完全除去」か「解除」かの2択になります。

ただ、丹波市はほとんどの保育所が「部分除去」対応をしています。
厚生労働省や文部科学省が用意した統一用紙を使えません。
そのため、丹波市の保育所はそれぞれが「オリジナル生活管理指導表」を作っています。

「オリジナル生活管理指導表」を実際に書く医師としては、正直なところ厄介です。
保育所によって用紙が少しずつ違うのです。
注意深く読みながら記入はしていますが、やはり書き間違えや書き忘れが出てきてしまいます。

「オリジナル生活管理指導表」ではなく、できれば厚生労働省や文部科学省が用意した統一用紙にして欲しいと私は思います。

お弁当対応について

複数の食品アレルギーがある園児の調理に悩んでいます。保護者は細かく商品を指定してきます。お弁当を持参してもらいたい時は何を基準にしたらいいですか?

文部科学省の学校給食における食物アレルギー対応指針を参考にするとよいと思います。

お弁当対応の基準
(a)   調味料・だし・添加物の除去が必要。
(b)   注意喚起表示でも除去が必要(たとえば、「本品製造工場では小麦を含む製品を生産しています」と書かれている豆腐すら除去する必要がある小麦アレルギー患者)。
(c)   多品目の食物除去が必要。
(d)   食器や調理器具の共用ができない。
(e)   油の共用ができない。

上記に該当するような場合は、お弁当対応がよいと思います。

(a)については、具体的には次の除去が必要な場合です。

食物アレルギーがあっても除去が不要な食品
鶏卵:卵殻カルシウム
牛乳:乳糖・乳清焼成カルシウム
小麦:しょうゆ・酢・みそ
大豆:大豆油・しょうゆ・みそ
ゴマ:ゴマ油
魚類:かつおだし・いりこだし・魚しょう
肉類:エキス

牛乳アレルギーがあれば、保育所や幼稚園では牛乳の「完全除去」対応が必要です。
ただし、乳糖は摂取して大丈夫です。

小麦アレルギーがあれば、育所や幼稚園では小麦の「完全除去」対応が必要です。
ただし、しゅうゆ、酢、みそは摂取して大丈夫です。

たとえば、小麦アレルギーの子どもに肉だんごを提供できるか考えてみましょう。
肉だんごのパッケージにこう書かれていました。

加工品表における原材料名の表示例
名称:肉だんご
原材料名:豚肉、ゼラチン、食塩、砂糖、しょうゆ(小麦を含む)、香辛料(小麦を含む)、酵母エキス、調味料(アミノ酸、核酸)

しょうゆと調味料とに小麦が含まれています。
しょうゆと調味料の除去は不要ですので、小麦アレルギーの子どもにこの肉だんごは提供できます。

もし調味料やだし、添加物、しょうゆ、味噌などの除去まで必要であるなら、極めて重症な食物アレルギーですので、お弁当対応にしたほうがよいでしょう。

(b)の注意喚起表示については、「本品製造工場では〇〇を含む製品を生産しています」と書かれた食物は、〇〇アレルギーの人でも負荷試験なしで食べてよいことになっています。
(これはアレルギー専門医試験にも出題されたことがあります)
「本品製造工場では〇〇を含む製品を生産しています」に含まれる〇〇の量は、アレルギーを起こさないほどに微量と考えてよいです。

注意喚起表示を含めた食品アレルギー表示の難しさについては、こちらの記事にも書きました。

アレルギー表示の難しさについて思うところ。

2019年10月6日

(c)の多品目、というのは保育所・幼稚園の保育士・教員の数、園児の数、アレルギー対応が必要な園児の数によって変わってきますが、3種類以上の食物を除去する場合はお弁当のほうがいいのではないかと私は思います。

食物経口負荷試験について

定期的に負荷試験をしている園児とそうでない園児がいます。食物アレルギーに対する医学的な管理指導法を教えてください。

食物アレルギーの子どもは多いにも関わらず、アレルギー専門医の数が足りていません。
そのため、食物アレルギーの子どもが医学的なアドバイスを得られていない可能性があります。

また、ここ5年のアレルギー学の進歩が速いことで、医師の間でも食物アレルギーに対する医学的な管理指導法が統一されていません。
血液検査だけで食物アレルギーと診断する医師や、アトピー性皮膚炎がコントロールできないことから卵や小麦を除去する医師などが存在してしまっています。

食物アレルギーがある場合、保育所や幼稚園では「完全除去」が基本です。
いっぽうで、自宅では食べられる範囲内でその食物を食べていきます。
日本アレルギー学会は、食物アレルギーの基本方針は「必要最小限の除去」であり、食物経口負荷試験で食べられる食材・量を増やしていくことが肝要です。

アレルギーと紛らわしい反応

アレルギーが無いと言われている子どもでも、卵・鯖・甘い菓子を食べた時に蕁麻疹が出ることがあります。首から上の場合は呼吸状態に注意するようにしています。湿疹や蕁麻疹の症状が出た時は患部を冷やし、安静にするようにしていますが、他に気をつけることがあれば教えてください。

口周りの発疹については、よだれや食べ物、油がついたことによる接触性皮膚炎(かぶれ)ですので、注意しなくてよいです。
すぐに消えます。
ワセリンを口周りに塗っておくと防げることがあります。

「首から上の場合は呼吸状態に注意」という対応は、科学的ではありません。
私の経験上は、お腹や足にじんましんが出るときのほうが、呼吸に注意です。

鯖でじんましんが出る場合は、アレルギーではなく、ヒスタミン中毒かもしれません。
意外なことですが、魚アレルギーで多いのはマグロとサーモンであり、鯖などの青魚は珍しいです。

食物アレルギーの代表的な症状はじんましんですが、じんましんの原因が食物アレルギーであることは稀です。
じんましんがでたときは、アレルギー以外の原因をまず考えましょう。
「特発性蕁麻疹」という風邪が治ったあとに出る皮膚反応か、そもそもじんましんではなく「接触性皮膚炎」といういわゆるただの「かぶれ」であることがほとんどです。

アレルギーを持っていない子どもでも急にかゆみや発疹が出てきた時の見分け方や対応の仕方について教えてください。

生まれて初めて食べたものが2時間以内になければ、食物アレルギーを考えなくてよいです。

過去にアレルギーがあった子は、その食べ物に慣れておらず食べにくそうにしています。少量から慣らして食べられるようにしたらよいですか?対応の仕方があれば教えてほしいです。

食物アレルギーが治っても、その食物を嫌がって食べないことはよくあります。
「好き嫌い」として、ほかの子どもと同じ対応をしてあげてください。

乳糖不耐症とはアレルギーでなく乳糖を分解する酵素の欠乏または不足による消化不良ということですが、もっと詳しく教えてください。

乳糖不耐症は、2つに分けられます。

①新生児・乳児早期に発症する先天的なラクターゼ活性低下

②幼児期以降でみられる生理的なラクターゼ活性低下

①は極めてまれな病気です。フィンランドでは6万人に1人がこの病気をもつとされます。
日本ではもっともっと少なく、年間数人程度と考えられます。
仮に6万人に1人として、年間600人しか赤ちゃんが誕生しない丹波市では100年に1人しか発生しません。

「おっぱいやミルクの後に酸っぱい匂いの水様便が出る」という症状が出ます。
小児慢性特定疾患にも該当する極めて危険な病気です。

②は「牛乳を飲んだら下痢しやすい」というもので、乳糖不耐症といえば通常はこちらを指すと思います。
ヒトは大きくなるにつれてラクターゼ活性が低下していくものであり、病気ではありません。

大量の牛乳(たとえば500ml以上)でなければ大丈夫だったり、ヨーグルトやチーズなら大丈夫だったりします。
もし保育園の牛乳200mlでも強い下痢や腹痛で本人が困っている場合は、保育園の先生と相談して牛乳そのものだけは控えさせてもいいでしょうが、200ml程度で症状が出ることはまずありません。
牛乳アレルギーではありませんので、アレルギーとしての対応は不要です。

②は「本人が気にしていないなら親も保育園も気にしない」というのが基本です。
治ることはありませんが、本人が気にしなくなるという形で治ることがあります。
胃腸炎のときに、一時的にラクターゼ活性が落ちて②になることもあります。
この場合は、胃腸炎の軽快とともに治ります。

勉強会に対する感想

保育士の先生や、看護師からたくさんの感想を頂きました。
特に、私が丹波に来て3年半で、「丹波の食物アレルギーが減っている」という感想がとても励みになりました。

  • アレルギー診断が、今とずいぶん変わってきている事がよくわかりました。
  • 「食べてみる事」が、診断や治療に活かされ完治することが早くなるという事がわかりました。
  • アレルギーについては、安全を重視してきました。保護者との兼ね合いもあり言われるがままのところもありました。今は完全除去ですが、今後受け入れの時に気を付けていきたいです。
  • 調理の立場として、アレルギー食の事本当に気をつけていかないといけないと思っています。揚げ油の件安心しました。
  • アレルギー対応(生活管理表)について、丹波市だけが部分除去だという事を知り驚きました。今後は生活管理表を見直し、職員や保護者にも協力・理解してもらえるように勧めたいと思います。
  • 「念のため除去」というのはやめる
  • 負荷試験を進めてもらっているので、アレルギー児も少しずつ少なくなってきているようです。
  • 質問に丁寧に答えていただき、給食での対応や保護者対応にも役立つことばかりで勉強になりました。給食室だけのことではないので、このことを園全体で共有できたらと思います。
  • 今回の先生の研修で得た知識を持ち帰り、活かしていければと思います。鯖アレルギーが少ないということが意外でした。初めの面談の重要性も改めて感じました。
  • アレルギー食材でも早くからの摂取がよいという情報、早く浸透していってほしいです。
  • アレルギー対応児の給食提供は迷いながらの提供だったのですが、先生のお話を聞いて、来年度以降の園の指針になることがわかったような気がします。園に持ち帰り検討したいと思います。
  • 卵の摂取が年々早くなっており、11か月までに色々な食材を食べておくことの大切さを知れてよかったです。
  • 色々な食材を食べている子どもはアレルギーが少ないという事を知り、今後保護者に説明する機会があれば、役立ちます。知識をしっかり持っていれば、はっきり保護者に対応していけます。
  • 先生が説明してくださったパワーポイント資料を頂けたらうれしいです。園で園内研修に使いたいと思います。
  • 血液検査だけで判断してはいけないことに驚きました。生後11か月までに色々な食材を摂取することが大事だという事を伝えていきたいと思います。
  • 食物除去をすることが当たり前と思っていましたが、そのことで食べられない子になってしまうことが多いとお聞きし、食べさせる事にも驚きました。こども園で働く者としてアレルギー診療の今を知る機会を得ることができました。
  • 「皮膚から始まって腸で治る」「ちょっと食べたほうがいい」というお話がわかりやすく勉強になりました。11か月までに色々な食材を食べないとアレルギーになりやすいというお話、子育て支援など小さいお子さんのいる集まりなどで、伝えることができたらと思います。
  • アトピー性皮膚炎の症状を改善するために、砂糖・牛乳などの乳製品を摂らないように指示する医師がいます。控えめにすることはあっても、完全除去することが必ずしも正しい対応ではないのかなの思いました。アレルギーの誤診が多いとお聞きしたので、安易にかかりつけ医に診察してもらう事お勧めできないのかなと思いました。アレルギー完全除去・完全解除の2択でいいのなら間違いもないだろうし、安全面でもその方がいいと思います。
  • 丹波市内のこども園でも統一できたらよいと思う事、医師会等でも指導内容を統一していただけたらと思うこともありました。今後も専門的なご指導をいただきたいです。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。