「くも膜下出血に心臓マッサージしていい?という質問に丁寧に答える」
1週間前にこのような記事を書いて、とてもたくさんの支持を頂きました。
たくさんの人が「目撃者による心肺蘇生」に興味を持ってくださったことに対して、とても嬉しく思います。
さて、この記事に質問を頂きました。
医療従事者であれば、
心停止していない人に心臓マッサージをする危険性を十分知ってい るはずです。
最悪は致死性の不整脈を引き起こし、殺してしまうこともあります。 医療従事者を名乗る人からのメール
なるほど、ここで一つのクリニカル・クエスチョンが浮かび上がりますね。
心停止していない人に心臓マッサージをする行為は、本当に危険性が高いのでしょうか?
本当に、最悪は致死性不整脈を引き起こして、殺してしまうのでしょうか?
今回は、もし心停止していない人に心臓マッサージをしてしまったら危険ですか?という質問に最新の科学的根拠をもって答えてみます。
なお、私は「胸骨圧迫」という言葉のほうが使い慣れているのですが、一般の人は「心臓マッサージ」のほうが聞き慣れていると思いますので、本記事では後者に統一しています。
心停止していない人に対する心臓マッサージの障害
アメリカ心臓協会は最新の科学的根拠を常に提供し続けています。
心停止していない人に対する心臓マッサージの障害に対するアメリカ心臓協会の見解は、次の通りです。
英語ですので、不肖ながら私が訳します。
心停止していない人に対する心臓マッサージの障害
4つの論文の報告がありました(White 2010; Haley 2011; Moriwaki 2012; Tanaka 2014)。
White、Haley、Moriwakiの論文では、345人の患者が心停止ではないのに胸骨圧迫されました。
そのうち1.7%に肋骨または鎖骨の骨折がありました。
8.7%に胸の痛みが生じました。
内臓障害を起こした患者さんは一人もいませんでした。
Tanakaの論文では、417人の患者さんは心停止ではないのに胸骨圧迫されました。
障害を起こした人は一人もいませんでした。
したがって、国際蘇生連絡委員会は、心停止ではない患者さんへの障害を心配することなく、心停止が推定された時点で(心停止が確定していなくてもかまいません)、CPRを開始することを推奨します。
心停止していない患者さんが胸骨圧迫で怪我をするリスクは低いためです。
心停止していない人に心臓マッサージをしても、リスクは低いので心配いらない
最新の科学的根拠によると、心停止していない人に心臓マッサージをしても、リスクは低いので心配することはないことが分かりました。
ただし、これは「心停止の認識をおろそかにしていい」ということを意味してはいません。
心臓マッサージにメリットがあるのは、心停止に対してのみです。
(実は小児の高度な二次救命では、脈拍があっても特定のケースでは心臓マッサージをすることが推奨されています。ただ、今回はBLSに関する記事ですので、高度な二次救命の話は省略します)
心停止の認識には、意識の確認と、呼吸の確認が必要です。
(私はアメリカ心臓協会の人間ですので脈拍もみますが、日本蘇生協議会では脈拍の触知は必須ではありません)
医療従事者は心停止を的確かつ迅速に認識できる技量を身につけるべきです。
ですが、「意識も呼吸もはっきりとは分からないけど、もしかしたらないかもしれないから、まずは心臓マッサージをしてみよう!」という考え方は間違っていません。
心臓マッサージをするのに、「絶対確実100%心停止だ!」と思う必要はありません。
「心停止かもしれない!」と思ったら、迷わず心臓マッサージをしてください。
もし心停止でなかったとしても、それが患者さんをに障害を与える可能性は低いことが、エビデンスで示されています。
まとめ
質問:もし心停止していない人に心臓マッサージをしたら危険ですか?
回答:心臓マッサージが障害を与えるリスクは低いです。
心停止かもしれないと思ったら、迷わず心臓マッサージをしてください。