RSウイルスの流行開始時期の変化とシナジス注射。

RSウイルスは2歳までにすべての子どもが100%経験する感染症です。
RSウイルスにかかることなく生きていくことは決してできません。

それくらい巷で流行しているRSウイルスですが、1年中かかりやすいのかというとそうではありません。
RSウイルスは冬に流行し、夏には終息するというのが定説でした。

このRSウイルス流行時期が、近年変わってきています。
2018年3月12日にRSウイルスのセミナーを聴講しましたので、今回はそのとき学んだことを記録します。

RSウイルスの流行時期

温帯地域においては冬季に ピークがあり、初春まで続く。
本邦においても、11〜1月にかけての流行が報告されている。

国立感染症研究所

国立感染症研究所のホームページに書かれている通り、2012年頃までRSウイルスは11月頃から流行していました。

それが、2013年頃からRSウイルスの流行開始がだんだんと早まってきました。
9月頃から流行の兆しが見られるようになってきたのです。

そして2017年には、7月から流行の兆しが見られました。

国立感染症研究所から引用

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27週からが7月です。
ピークは35週で、これは9月上旬に相当します。
つまり、2017年のRSウイルスは7月から流行が始まり、9月にピークを迎え、12月にはほぼ収まっています。

これは、11〜1月にかけての流行していた2012年以前とは異なる流行状況です。

シナジスを注射する時期は?

シナジス(パリビズマブ)とはRSウイルスの抗体製剤です。
筋肉注射することでRSウイルスに対する免疫力を一時的に増加させます。

この薬は、RSウイルスに対して抵抗力が小さいお子さんに適応されます。
つまり、35週以下の早産児や、心疾患、免疫疾患などがあるお子さんに限定して投与されます。

注射できる期間は、RSウイルスが流行している時期です。
今までは11〜1月にかけての流行していましたから、9月からシナジスを開始して11月に備えるという対応をしていました。

しかし、2013年からRSウイルスの流行時期は年々早くなっています。
2017年では7月から流行の兆しが見られました。

2018年はシナジスの注射時期を9月より早めるべきではないかという議論があります。
つまり、7月や8月から開始すべきではないかという意見が出ています。

シナジスの問題点2つ

シナジスには2つ問題点があると個人的に感じています。

  • 非常に高価。
  • 投与方法が筋肉注射であり痛みを伴う。

もしシナジスがとても安価な薬であれば、シナジス開始の時期を議論する必要はほとんどなくなります。
流行が早まっているのであれば、早く注射すればいいのです。
それこそ、2018年は7月よりもっと早く流行するかもしれないのですから、リスクのある子どもには年中注射しておくという選択肢すらありえるでしょう。

ですが、シナジスはとても高価な薬です。
体重7-10kgのお子さんには、合計150mgの製剤を必要とします。
これは23.5万円になります。

シナジスの効果は1か月しかありませんから、毎月注射をします。
仮に8回注射したとすれば、188万円の費用がかかります。

これらは保険診療でなされるとはいえ、医療費の大きな圧迫となります。
リスクがあるのであれば年中注射しておくべきという考え方は、医療経済的に難しいでしょう。

限られた医療資源をもっとも効率よく使うために、どの時期にシナジスを開始すべきかという問題は非常に重要です。

また、シナジスの投与方法は筋肉注射です。
これがせめて内服であれば、シナジスは気軽に使える薬となりえます。
ですがシナジスは抗体ですので内服製剤とはなりえないでしょう。

子どもに痛みを強いる以上、もっとも効果的な時期に注射してあげたいと考えるのが小児科医のプロフェッショナリズムだと思います。

7月開始か8月開始か

限られた医療資源をもっとも効率よく使うために。
現在議論されているのが、シナジスの7月開始か8月開始かです。

シナジスによって抗体が十分に上昇する確率は、1回の注射で約83%、2回の注射で約98%と言われています。
2017年は9月にRSウイルス感染のピークがあったことから、7月に開始し、7月8月と2回注射して9月に備えるのは良いかもしれません。
また感染の流行を初期段階で食い止めるという意味でも、早めに抗体をつけておくべきという意見があります。

いっぽうで7月に開始すると、3月に流行するRSウイルスに対して対応できません。
もちろんシナジスを7月から3月まで長期に注射する選択肢はありますが、それでは医療経済面での圧迫が強まります。

2018年の流行がどうなるのか分からないので、シナジス開始時期の変更は必要だとしても、時期の変更は段階的にという意見もあって然るべきです。

当院は2018年度は8月からシナジスを開始する予定です。
2018年度の流行をみて、再考する姿勢です。

まとめ

RSウイルス流行時期の変化と、予防としてのシナジス注射を開始すべき時期について書きました。

シナジスはすべての子どもに使うことはできません。
すべての時期に使うこともできません。
シナジスは高価で、痛みを伴います。
対象と時期を絞って、最大の効果が得られるように考えなければなりません。

シナジスを最大限の効果で使うためには、RSウイルス流行時期を監視し、予測することが大切となるでしょう。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。