魚アレルギーは治りますか?

魚アレルギーが治りにくいことは、アレルギー科医の中では有名です。

今回は、魚アレルギーは治るのかどうかについて書きます。

魚アレルギーの有病率

負荷試験で確実に確かめられた魚アレルギーの有病率は0.3%未満です。
Prevalence of fish and shellfish allergy: A systematic review. Ann Allergy Asthma Immunol. 2016; 117: 264-272.e4.

丹波市では年間600人、丹波篠山市では年間400人の赤ちゃんが生まれます。

丹波市と丹波篠山市にはアレルギー専門医(小児科)が私しかいませんので、私のところに来ない丹波の魚アレルギー患者はいないと仮定します。
私が診る「本物の魚アレルギー」の新規患者は大体年間2人ですので、私の体感では魚アレルギーの有病率は0.2%です。
魚アレルギーの有病率0.3%未満という報告は、私にとっては腑に落ちます。

魚アレルギーはありふれているとは言えません。
ですが、すごく稀とも言えない確率です。
この「ちょくちょく見かけるアレルギー」に対して、アレルギー専門医はその予後を正確に知る必要があるでしょう。

魚アレルギーは治るのか?

魚アレルギーの総説はいくつもあるのですが、予後について比較的しっかりめに書いてあるのがこれだと思います。
Fish and shellfish allergy in children: Review of a persistent food allergy. Pediatr Allergy Immunol. 2012; 23: 608-15.

要点を箇条書きでまとめます。

  1. 牛乳や卵のような子どもの食物アレルギーのほとんどが治りますが、魚アレルギーは持続しやすいです。治りにくいという経過を家族に説明する必要があるでしょう。
  2. 魚アレルギーの診断から10年たっても、約80%でアレルギーが持続しています。
  3. ある魚にアレルギーを持つ人は、その50%が別の魚にもアレルギーを持つと推定されます。
  4. 魚のたんぱく質であるパルブアルブミンは、他の魚種間でも60%~80%が類似します。ある魚のアレルギーを持つ患者が、他の魚もアレルギーを持つ理由でしょう。
  5. いっぽうで、タラにアレルギーのある患者が、しばしば他の魚種を食べることができます。
  6. 魚アレルギーでもっとも研究されているのは、タラのアレルギーです。
  7. タラの特異的IgE(いわゆる血液検査)が20 kUA/L以上であれば、95%以上タラアレルギーだと推定できます。
  8. 缶詰にすると、魚のアレルゲン性が低下することが示されています。
  9. 2011年の研究では、サケやマグロにアレルギーを持つ子どもの21%が缶詰の魚を食べられることが分かりました。缶詰が食べられると、食生活の幅が広がり、家族の生活の質が改善します。

魚アレルギーの予後については、1と2です。

ただ、「10年たっても約80%でアレルギーが持続しています」というのは、裏返せば「魚アレルギーの約20%は10年以内に治る」ということなのでしょうか。
ここの記載についての参考文献がなく、かつ、私の経験でも「そんなに治るのかなあ」という印象を持ちます。

ここから私は、魚アレルギーの予後に関する論文をひたすら探すことになります。

魚アレルギーの予後に関する論文がなかなか見つからない

探せば見つかるかな、くらいの軽い気持ちでpubmedで調べ始めましたが……。

なかなか見つかりません!

検索ワードを「fish allergy tolerance」とか「fish allergy prognosis」とかいろいろ試してみます。

見つかったのはケースレポート。
Resolution of fish allergy: a case report. Ann Allergy Asthma Immunol. 2003; 91: 411-2.

手に入れて読んでみました。

5歳の時に、レストランで「パンフィッシュ」と呼ばれる魚を食べて、アナフィラキシーを起こしました。
以降、魚はすべて除去されました。
20代のときにタラのフライを食べてしまって、アナフィラキシーを起こしています。
58歳のときにもアンチョビサラダを食べてアナフィラキシーを起こしました。
鮭や鯛などのプリックテストは陽性でした。

68歳のときに、プリックテストをしてみると、鮭やタラやマグロなどが陰性になっていました。
そこで食物経口負荷試験をしてみると、すべての魚を食べられました。

5歳のときの魚がアレルギーが、68歳で治ったのです!
という、論文。

いや、これはちょっとさすがに時間がかかりすぎです。
考察を読むと、「50歳を超えると、アレルギー性鼻炎のようなIgE関連疾患は自然に治ることがある。この魚アレルギーも、年とともに治ったのだろう」とあります。

こんな症例報告くらいしかないんですよ、魚アレルギーって。
up to dateの「Seafood allergies: Fish and shellfish」でもこの論文は紹介されていますから、こんな症例報告でも有名なんですよきっと。

でも、私が欲しい論文は、これじゃないんです。
魚アレルギーが小児期で治ったという報告を求めて、さらに探し続けます。

やっと見つけた論文

キーワードを変えながら探し続けること数時間。

やっと見つけたのが、これです。

Role of Recombinant Parvalbumin Gad c 1 in the Diagnosis and Prognosis of Fish Allergy. J Investig Allergol Clin Immunol. 2020; 30: 340-345.

言い訳すると、タイトルが悪いと思うんですよ。
「Diagnosis and Prognosis of Fish Allergy」だけならすぐに見つけたんです。
でも、「Role of Recombinant Parvalbumin Gad c 1」で始まってたもんだから、見落としました。

フリーで読めるのも素敵ですね。
さっそく読んでみましょう。

魚アレルギーの患者81人が研究対象です。
子どものうちに発症したのは77人で、最初の症状が出たのは中間値で2歳でした。(ただし、これは保護者の情報をベースとしており、医療者の判断では最初の症状が出たのは中間値で生後9か月になるようです)
残り4人はおとなで発症し、最初の症状が出たのは中間値で38歳でした。

魚を最初に食べた月齢の中間値は生後9か月で、約50%の患者がその最初の魚摂取時にアレルギー症状が出ました。

4人がすべての魚に対してアレルギー反応を持ちました。
1人がアカウオだけにアレルギー反応を持ちました(これはパルブアルブミンがアレルゲンではなかったためだと推察されます)。

81人中60人(74%)が、少なくても1つの魚アレルギーが治りました。
特にマグロが治りやすかったです。(これはマグロに含まれるパルブアルブミンが少ないためだと推察されます)
5人はすべての魚アレルギーが治りました。
耐性を獲得した年齢は、中間値で10.5歳でした。

少なくても1つの魚アレルギーが治ったケースでは、耐性獲得の前後で特異的IgE抗体の低下がみられました。

魚アレルギーであっても、マグロだけなら食べられるようになるかも

この論文を通して最初に思ったのは、「魚アレルギーの約20%は10年以内に治る、というのは結構正しいのかも」でした。
魚アレルギーが治るというのは、すべての魚が食べられるようになることを意味するとして、今回の研究では5人がすべて治っていました。
この治った5人の発症年齢とか、どの程度の魚を食べられていたのかとか、詳しく知りたいですね。
あくまで推定ではありますが、本試験の乳児期の最初の魚摂取で発症したという典型的な経過を持つ魚アレルギー患者は約半数とのことですから、仮に40人の典型的な魚アレルギー患者の5人が治ったのだとしたら、12.5%が治ったといえます。
観察期間をしっかり10年に統一すれば、もう少し確率は上がって20%もありえるなあと感じました。

「74%で、少なくても1つの魚アレルギーが治った」というのも、とても有益な情報です。
もちろん、観察期間によって大きく変わるので参考程度ではありますが。

「魚アレルギーの耐性獲得の中間値は10.5歳だった」というのも、興味深い情報です。
ただこれも、負荷試験のタイミングや、観察期間によって大きく変わるでしょう。

他にも「魚アレルギーであっても、マグロだけなら食べられるようになるかも」と感じました。
この論文の内容からは外れますが、マグロは缶詰もあり、缶詰は魚アレルギー患者でも摂取できることがあるので、よりチャレンジしやすいと思いました。

まとめ

  • 魚アレルギーは治りにくいが、10年で20%治るかもしれない。
  • 魚アレルギーが少なくても1つは治る確率であれば、ある程度期待できる。参考程度だが、10年程度で74%治る。
  • 特にマグロは治りやすい。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。