熱性けいれんを1回経験した子どもは、22.7%が熱性けいれんを繰り返す。

熱性けいれんの予後に関する新しい報告がありました。

今回は、熱性けいれんの予後について書きます。

熱性けいれんの予後

今回紹介する論文は、こちらです。

Evaluation of Long-term Risk of Epilepsy, Psychiatric Disorders, and Mortality Among Children With Recurrent Febrile Seizures: A National Cohort Study in Denmark. JAMA Pediatr. 2019; 173: 1164-1170.

結構有名な論文なので、もう知っている方も多いかもしれません。
フリーなので、誰でも無料で全文読めます。

さっそく、読んでいきましょう。

イントロダクション

熱性けいれんは、生後3か月から5歳までの子どもの2~5%に発症する、一般的な疾患です。
その予後は良好とされていますが、熱性けいれんを起こした子どもは熱性けいれんを再発しやすく、てんかんのリスクも高くなります。

熱性けいれん再発の危険因子としては、以下が挙げられます。

  1. 最初の熱性けいれんが1歳未満である
  2. 熱性けいれんの家族歴がある
  3. 発作発症時の体温が38℃未満である
  4. 発作前の発熱期間が1時間未満である

しかし、熱性けいれん発作がその後の再発やてんかん発症にどのような影響を及ぼすかは不明です。

そこで本研究では、デンマークの大規模コホートにおいて、熱性けいれんの既往が再発リスクやてんかん発症に関連があるかどうか調査します。

方法

デンマーク市民登録システムを用いて、1977年1月1日から2011年12月31日の間にデンマークで生まれ、生後3か月時点でデンマークに住んでいたすべての子どもを抽出しました。
双子や三つ子は試験から除外されています。

生後3か月から5歳までの間に、入院または外来診療で熱性けいれんと診断されたものを「熱性けいれん」としました。
ただし、その時点でてんかんや脳性麻痺、頭蓋内腫瘍、重度の頭部外傷、頭部外傷、頭蓋内感染症の既往がある場合は、「熱性けいれん」とは診断しませんでした。

すべての小児が、少なくとも5年間の追跡調査を受けました。

「熱性けいれんの再発」は、7日以上間隔をあけて2回以上熱性発作を発症した小児と定義しました。

結果

210万人の小児が対象となりました。

生後3か月から5歳までに熱性けいれんの診断を受けたのは75593人(3.6%)でした。

グラフの通り、1歳半頃にけいれんする子どもが多かったです。

熱性けいれんの再発リスク

少なくとも1回の熱性けいれんを起こした75593人の子どもは、熱性けいれんの再発リスクが高かったです。
熱性けいれんの再発のリスクは、最初の熱性けいれんの後で22.7%、2回目の後では35.6%、3回目の後では43.5%でした。

また、2歳以前に初めて熱性けいれんを発症した小児では再発リスクは26.4%でしたが、2歳以降に熱性けいれんを発症した小児では再発リスクは11.8%でした。

てんかんを発症するリスク

てんかんのリスクは、熱性けいれんによる入院の回数が多いほど高くなりました。

30年間のてんかんの累積発生率は、出生時では2.2%、最初の熱性けいれん後では6.4%、2回目の熱性けいれん後では10.8%、3回目の熱性発作後では15.8%となりました。

考察

200万人以上の小児を対象とした今回のコホート研究で、熱性けいれんを繰り返している小児でてんかんのリスクが上昇することが明らかになりました。

熱性けいれんを初めて経験した小児では、熱性けいれんの再発がよくみられます。
我々の研究では、最初の熱性けいれん後で再発リスク22.7%、さらに熱性けいれんを繰り返すほど再発リスクが高まることを発見しました。

先行研究と同様に、熱性けいれん発症時の年齢が再発リスクと関連していることが分かりました。

熱性けいれんの再発とてんかんのリスクには関連があり、そのリスクは熱性けいれんを2回以上起こした小児で特に高くなりました。
これは台湾の最新のコホート研究とも結果が一致します。

結論

熱性けいれんの再発は、てんかんのリスクとなります。
熱性けいれん既往のある小児、特に熱性けいれんを繰り返す小児では、てんかんの徴候にが注意し、早期発見と治療を確実に行う必要があると思われます。

私の感想

30年間で210万人の子どもを調査した、質の高い研究です。

熱性けいれんを起こす確率は2~5%程度ですが、一度熱性けいれん起こした子どもが再発する確率が22.7%というのは、臨床でも使えそうな知識です。

「2割はまたけいれんします。だから、けいれんを起こしたときの対応を、一緒に考えていきましょう」

こんな感じで、けいれんに対してすべきこと、救急車を呼ぶタイミングなどの指導を進めていくことができそうです。

いっぽうで、てんかんのリスクについては評価が難しいところです。
てんかんに至る確率は、出生時で2.2%、最初の熱性けいれん後で6.4%、2回目の熱性けいれん後で10.8%、3回目の熱性発作後で15.8%と、熱性けいれんを繰り返すごとに高まっていくのは確かなようです。

そのため、「熱性けいれんを繰り返しても、てんかんのリスクとはならず、予後は良好です」という説明は、やはり誤解を招くことになるでしょう。

だからといって、「熱性けいれんを繰り返すと、てんかんを発症しやすいです」というのも言い過ぎです。
この説明では、5割6割くらいの確率でてんかんに至るように聞こえてしまいます。
これでは、不安を与えすぎています。

仮に熱性けいれんを2回したとしても、9割はてんかんを発症しないというのは確かなようです。
「熱性けいれんを2回繰り返しても、9割はてんかんを発症しない」という表現が、もっとも科学的で、誤解なく伝わるように思います。

具体的な確率を言えることは、正確な説明のために重要です。
今回の研究は、その数字を与えてくれた、貴重な研究だったと感じました。

補足というか注意点ですが、今回の研究は熱性けいれんがてんかん発症と関連したことを示しただけであり、熱性けいれんがてんかんの原因であることを示したわけではありません。
熱性けいれんはてんかんの原因とはならないと現在は考えられています。

熱性けいれんはてんかんの原因にはなりません。

2017年5月4日

5年前に、ブログでそう書きました。
これは、今現在も変わっていません。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。