年間1000人の赤ちゃんが生まれる病院に勤務していると、毎日黄疸の赤ちゃんが小児科に入院してきます。
毎日毎日のことなので、評価(私たちはアセスメントとよく言います)がおろそかになりがちです。
実際におろそかにならないように、黄疸を診るときはぐっと心を引き締めて診察するようにしています。
一つ一つの黄疸は、原因が様々なのです。
このページの目次です。
黄疸の原因
「黄疸の原因は何ですか?」と小児科の研修医に聞いてみます。
どんな答えが返ってくるでしょうか。
- 生理的黄疸(特発性黄疸)
- 母乳性黄疸
- 脱水による黄疸
- 頭血腫などの閉鎖性出血による黄疸
- 多血症
- ABO不適合またはRh不適合による溶血性の黄疸
- 遺伝性球状赤血球症
- G6PD欠損症
- Girbert症候群
- 感染症
- 甲状腺機能低下症
結構いろいろ出ました。
これで全てではもちろんありませんが、おおむねこれのどれかに当たります。
私は年間1000人赤ちゃんが生まれる施設にいますが、新生児で上記以外の黄疸は見たことがありません。
感染症と甲状腺機能低下症は、哺乳不良や活気不良など他にも症状が出るでしょう。
元気な赤ちゃんの黄疸の場合、それを除いたものから考えればよいです。
元気な赤ちゃんの黄疸の9つの鑑別を書きます。
生理的黄疸(特発性黄疸)
生まれた赤ちゃんの血液の中では、胎児赤血球と呼ばれるお腹の中の赤ちゃん専用の赤血球が徐々に壊れていきます。
壊れた赤血球は「間接ビリルビン」という黄色い色素になります。
間接ビリルビンは肝臓で代謝されて、直接ビリルビンという水溶性のものに変わります。
水溶性になれば、便とともに体の外に排出されます。
赤ちゃんは肝臓の力がまだ未熟なので、間接ビリルビンが体に溜まりやすいのです。
特に日本人を含めたアジア人は、肝臓の力が弱くて、黄疸が出やすいです。
ネルソン小児科学には「間接ビリルビンが15mg/dLを超えるのは3%に満たない」と書いてあります。
ですが、日本人ではかなりたくさんの赤ちゃんが間接ビリルビン15mg/dLを超えてきます。
体感としては3割の子どもが、間接ビリルビン15mg/dL以上になっていると感じています。
生理的黄疸は、赤ちゃんに特に異常がなくて、たまたま肝臓の代謝が未熟でビリルビンが高くなってしまった黄疸のことです。
特に病的な原因がないという意味で、特発性黄疸ともいいます。
生理的黄疸は、交換輸血を要することはまずありません。
ビリルビン脳症に至ることもまずありません。
光線療法の基準値に達すれば、念のため光線療法を受けるという経過をとります。
光線も1日か2日間、照射すれば十分なことが多いです。
母乳性黄疸
通常の母乳性黄疸
通常の母乳性黄疸は、完全母乳の児で生後7日以降に出てくるものです。
ネルソン小児科によると、生後2週間から3週間でビリルビン値が最大になります。
母乳を中断すると数日で黄疸が改善するのが特徴です。
母乳に含まれるグルクロニダーゼという酵素が、肝臓でビリルビンを代謝するのを妨げるのではないかと言われています。
母乳性黄疸はビリルビン脳症を起こしにくいと言われていますが、それでも発症例の報告がないわけではありません。
完全母乳で、あまりにも皮膚が黄色いときは、生後2週間を目安に小児科に相談してみましょう。
治療は光線療法で十分です。
ただ、この時期には脳脊髄関門がしっかりと完成され、脳がビリルビンから守られているとも考えられます。
私の施設では、TBが22mg/dLまでであれば、採血をしながら無治療で様子をみることもあります。
早期母乳性黄疸
生まれてすぐには、母乳が出にくいことも多いです。
母乳不足により赤ちゃんが脱水になり、黄疸が強くなることもあります。
脱水で黄疸が強くなる理由は、次の項目で書きます。
脱水による黄疸
間接ビリルビンは、肝臓で代謝されて、便と一緒に排出されます。
したがって、あまり哺乳できないと、便と一緒に排泄できないので、体のビリルビンが溜まると考えられます。
母乳不足で脱水になることもあります。
夜間も母児同室する、授乳支援をするなどで、対応します。
黄疸が強いときは光線療法もします。
頭血腫などの閉鎖性出血による黄疸
頭血腫とは、 赤ちゃんが産道を通過するときに頭が圧迫され、頭蓋骨をおおっている骨膜の一部がはがれ、そこに血液がたまったものです。
出血で黄疸が強くなることは新生児科医の常識ですが、その理由は本に書かれていません。
私の推測(私たちはこういうときスペキュレーションという言葉を使います)では、血管外に漏れ出た赤血球は、すぐに壊れてしまうので、ヘモグロビンが壊れてビリルビンになって、それがまた血管に吸収されるのではないか考察します。
実際、どうして頭血腫で黄疸が強くなるのか知っている人がいましたら教えてください。
なお、頭血腫以外に、副腎出血や肺出血、胃粘膜病変に伴う出血などでも黄疸は強くなります。
といっても、交換輸血を要するような黄疸にはまずなりません。
1~3日間の光線療法だけで十分治ります。
多血症
赤ちゃんはそもそも多血です。
多血というのは赤血球が多いという意味です。
赤ちゃんは赤血球が多いから、皮膚が赤く、「赤ちゃん」と呼ばれます。
多血は、ビリルビンの元となるヘモグロビンがたくさんあるので、多血症の赤ちゃんは黄疸が出やすいです。
多血症による黄疸も、光線療法1~3日で十分治ります。
ただ、多血がシビアな場合は、部分交換輸血など多血の治療が必要になることがあります。
ABO不適合による溶血性の黄疸
O型のお母さんは、A型への抗体やB型への抗体を持っています。
この抗体は、通常赤ちゃんには移行しません。
ですが、小さい抗体が稀に赤ちゃんに移行してしまうことがあります。
赤ちゃんがO型であれば大丈夫ですが、A型やB型だった場合は、溶血という現象が起きます。
これをABO不適合による溶血性黄疸といいます。
ABO不適合による黄疸は、軽いものから重いものまで様々です。
軽いものであれば光線療法を1~4日もすれば治ります。
重いものであれば、ガンマグロブリン注射や交換輸血を要します。
診断には、赤ちゃんの血液型検査、溶血かどうかを判断するCOHb、網状赤血球の測定、溶血の原因を調べるクームス検査などがされます。
なお、お母さんがO型で、子どもが黄疸になると、ABO不適合が心配になるかもしれません。
ですが、黄疸の勢いが弱ければ、あえて診断する必要はありません。
最近は、子どもの血液型を調べる病院は減ってきています。
生まれたばかりの赤ちゃんの血液型は正確に調べられないからです。
もしお母さんがO型で、子どもが黄疸になっても、弱い黄疸であれば、特に血液型検査やクームス試験をする必要はありません。
ちなみに、Rh(-)のお母さんは、Rhに対する抗体を持っていることがあります。
もしRhに対する抗体があれば、これは赤ちゃんに移行します。
Rh不適合による溶血性黄疸は、見たことがありませんが、かなり重症なようです。
重症な貧血も合併し、心不全や胎児水腫も起こします。
元気な赤ちゃんの黄疸、というイメージではないですね。
こちらはお母さんにRh抗体ができないように予防することが大事です。
遺伝性球状赤血球症
赤血球の膜が弱くなって、溶血しやすくなります。
「遺伝性」というだけあって、お父さんかお母さんのどちらかがこの病気であることが多いです。
ですが、25%に家族歴のない遺伝性球状赤血球症があるとネルソン小児科に書いてあります。
赤血球の形を顕微鏡で見ることで診断します。
G6PD欠損症
世界に4億人いるとされています。
日本人では0.1%と言われていますが、日本以外のアジアでは発症率が高く、5%以上と言われています。
G6PDというたんぱく質は、赤血球を守るのに重要で、これが欠けていると赤血球が壊れやすくなります。
X染色体劣性遺伝という遺伝形態で、やはり家族歴が大事です。
検査は溶血の証拠を見つけたうえで、メチレンブルーの脱色、電気泳動的解析、分子解析などネルソン小児科には書いてありますが、どうすればいいのか私には分かりません。
一部の大学病院で研究目的に検査されているので、もし疑わしい赤ちゃんがいれば、大学にお願いすることになると思います。
時々、COHbが高くて何らかの溶血がありそうなのに、クームス試験は陰性の強い黄疸を経験します。
G6PD活性を調べてみたいという気持ちになりますが、コストはかかるものの、医療的なメリットを感じないので、なかなか研究できないところです。
Girbert症候群
いわゆる体質性黄疸と呼ばれます。
国家試験ではよく出てきますが、実際にはなかなかみません。
診断が一部の大学病院で研究目的で行っているだけなので、診断が難しいです。
間接ビリルビンが肝臓に取りこまれるのが障害されるため、うまく代謝できずに黄疸が強くなります。
黄疸は数か月続きますが、やがて治ります。
治療は光線療法で十分ですが、少し長くかかります。
母乳性黄疸とセットで長引きやすいので、私が以前経験した症例では、お母さんと相談した上で、混合栄養にしました。
まとめ
元気な赤ちゃんの黄疸について、9つの鑑別診断を書きました。
ほとんどが特に原因のない「生理的黄疸(特発性黄疸)」ですが、たまに脱水や頭血腫、多血症、ABO不適合による黄疸を経験します。
母乳性黄疸はよくみますが、治療を要しないことがほとんどです。
そして、それ以外の黄疸は、本当に稀です。
治療法は、黄疸の原因にはあまり関係ありません。
ABO不適合に対してはガンマグロブリンが使えるくらいで、あとは光線療法か交換輸血がメインです。
治療に関しては、こちらの記事も参考にしてください。