食物アレルギー。「除去して治す」と「食べて治す」のエビデンス。

食物アレルギーは、「除去して治す」という戦略と、「食べて治す」という戦略が存在します。
この2つは矛盾するようで、時間軸でのズレが存在するために矛盾しません。
場合によっては、「まずは除去し、それから食べて治しましょう」という指導をすることがあります。

今回は「除去して治す」と「食べて治す」のエビデンスについて書きます。

必要最小限の除去

原因と特定された食物を除去することが食物アレルギー治療の中心となるが、その除去が過剰にならないように必要最小限の除去を心掛ける。食物経口負荷試験にて陽性が確認された食物であっても、症状が誘発しない範囲の量の摂取や、加熱・調理によりアレルゲン性が低下して摂取できるものは、除去せずに摂取するように指導する。

食物アレルギー診療ガイドライン2016 p113

必要最小限の除去には、さまざまな意味が含まれます。
除去する理由として安全性が挙げられますし、摂取する理由として栄養面とQOLが挙げられます。

いっぽうで、適切に除去することと、適切に摂取することは、食物アレルギー自体の治療につながります。

除去して治す

私の外来を受診したことがある患者さんでしたら、この言葉に違和感があると思います。
というのは、私は常日頃から「食べて治しましょう」と指導するからです。

ですが、状況によっては「食べることがアレルギーを悪化させるかもしれない」と思える状況があります。
それが「食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎」です。

IgE依存性のアレルギー反応は、ヒスタミンによる症状を主症状とする即時相と引き続き起こる遅発相からなると考えられている。マスト細胞上のIgEの架橋は、ヒスタミンの遊離に引き続いて、多くのサイトカイン産生を引き起こす。これらのサイトカインは好酸球、好中球、リンパ球を炎症局所に呼び寄せ、IgE依存性アレルギー反応の遅発相を引き起こすと考えられる。これがアレルギー炎症である。

乳児期発症の食物アレルギーの関与するアトピー性皮膚炎では、このアレルギー炎症が関与していると考えられる。

乳幼児の食物アレルギー p12(一部、筆者による中略がある)

この参考文献は、ほむほむ先生の推薦図書です。
とても勉強になりました。

この本には、続いてこのような記載があります。

あらかじめ卵白アルブミンで腹腔内感作しておいたラットに牛血清アルブミンを卵白アルブミンとともに与えると、牛血清アルブミンを単独で与えた場合に比べて牛血清アルブミンの血中濃度が有意に高かった。
腸管におけるアレルギー反応がbystander proteinの吸収を促進することを示した。

卵アレルギーと診断されたアトピー性皮膚炎の母乳栄養児の母親が卵を摂取し続けると、症状が軽快しないばかりか、児の腸管においてアレルギー反応が起こるため、毎日のように摂取する牛乳や小麦の吸収が高まり、新たに牛乳や小麦のアレルギーが成立しやすくなる可能性を示唆している。

この結果は、いったん食物アレルギーが成立すると、あらたな食物アレルギーが成立しやすいという乳児期にみられる現象と一致しており、乳児期における早期からのアレルゲン除去を指導する根拠となると考える。

乳幼児の食物アレルギー p15-16(一部、筆者による中略がある)

幼児期以降とは異なり、乳児期の消化機能は未熟です。
つまり、胃液のpHが比較的高いため、タンパク質の分解能力が未熟です。
さらに、腸管のIgA産生系が未熟であるため、腸管のバリア機能が弱く、大きな分子量のたんぱく質をそのまま吸収してしまう可能性があります。

このような状況の乳児期の腸管に、何らかの抗原によるアレルギー炎症が起きてしまうと、腸管の透過性が亢進し、新たなアレルギーが成立しやすくなるという考え方です。

一方、卵アレルギーと診断された時点で母親の食事内容から卵を除去することにより、腸管局所におけるアレルギー反応が抑制されると、腸管の透過性亢進が起こらず、新たなアレルゲンの吸収が起こりにくくなる。

免疫学的バリアが未発達な乳児期には、食物アレルゲンの摂取回避が必要となる。

乳幼児の食物アレルギー p53(一部、筆者による中略がある)

上記の理論は、ごく少量の抗原摂取で遅発相を主体としたアレルギー症状を呈する乳児に対してのみ当てはまると私は解釈しています。
したがって、「除去して治す」という理論が成立するのは「食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎」だけだと思っています。

すべての食物アレルギーに対して成立するわけではないということを前提に、この「除去して治す」理論はとても興味深く感じました。

食べて治す

次に、「食べて治す」理論を考えてみましょう。
私はこの理論が好きです。
閾値を超えずに安全に食べ続けることで、アレルギーは治りやすくなると考えています。

A Single-Center, Case-Control Study of Low-Dose-Induction Oral Immunotherapy with Cow’s Milk.(Int Arch Allergy Immunol. 2015; 168: 131-7.)

上記は、相模原病院の柳田先生の論文です。
3mlの牛乳を1年間飲み続けると、25ml飲めるようになる確率が上がるということを報告しました。

  • 対象は5歳以上で、牛乳3mlを飲むとアレルギー症状を呈する牛乳アレルギー患者。
  • 経口免疫療法で牛乳3ml摂取を1年維持した。
  • 結果、3ml維持した12人のうち、4人が牛乳25ml飲めるようになった。
  • 牛乳を除去し続けた25人は、一人も牛乳25mlを飲めるようにはならなかった。

卵の研究もあります。
Safety and Efficacy of Low-Dose Oral Immunotherapy for Hen’s Egg Allergy in Children.(Int Arch Allergy Immunol. 2016;171:265-268.)

これも相模原病院の柳田先生の論文です。
全卵1/32相当の少量の卵を1年続けると、全卵1/2食べられるようになる確率が上がるということを報告しました。

  • 対象は5歳以上で、全卵1/32を食べるとアレルギー症状を呈する卵アレルギー患者。
  • 経口免疫療法で全卵1/32摂取を1年維持した。
  • 結果、全卵1/32を維持した21人中15人は全卵1/32相当の卵に対して耐性を獲得し、さらに7人は全卵1/2も食べられるようになった。

これらの論文は経口免疫療法に関する論文です。
経口免疫療法については、こちらの記事で書きました。

経口免疫療法に対する私の認識。耐性獲得のための食物アレルギー指導。

2017年11月15日

経口免疫療法は、安全に摂取できる閾値を超えて摂取するという方法で、現在の標準医療ではありません。
まだ研究段階の治療です。

ですが、3mlの牛乳を続けることで、25mlが飲めるようになったという結果は、仮に経口免疫療法ではなかったとしても(すなわち、閾値内で安全に牛乳を摂取し続けたとしても)、アレルギーが寛解に向かう可能性を示唆していると私は感じます。

注意点

上記は食物アレルギーをすでに発症している場合においての指導です。
食物アレルギーがまだ発症しておらず、予防を目的とするのであれば、話は変わってきます。

たとえば、生後6か月未満でアトピー性皮膚炎がある乳児に対しては、鶏卵早期摂取による卵アレルギー予防策が存在します。
これについては、こちらに書きました。

鶏卵アレルギー発症予防に関する提言。大切な2ステップ。

2017年6月17日

卵アレルギーを発症していない場合であれば、スキンケアの上で卵を6か月から摂取していくという戦略は存在します。
卵アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎に対して生後6か月から卵を食べさせていくという戦略は推奨されていません。
早期摂取戦略はあくまで「発症予防」であることに留意しなければなりません。

まとめ

「除去して治す」と「食べて治す」のエビデンスを紹介しました。
「除去して治す」理論は動物実験をメインに組み立てられており、「食べて治す」理論は経口免疫療法の結果に解釈を加えたものです。
どちらのエビデンスも強固だとは言えません。

しかし、私はどちらの理論も正しいように臨床的に感じています。
最初に述べた通り、この2つの理論は矛盾するようで、時間軸でのズレが存在するために矛盾しません。
「乳児期で食物アレルギーの関与する乳児アトピー性皮膚炎を認める時期では除去し、1歳を超えたら食べて治しましょう」という指導は、上記の理論を矛盾なく包括します。

私が小児科の中でも特にアレルギーを専門にしようと考えたのは、子どものアレルギーは医療者の関わり方次第で治ったり治らなかったりするという大きな責任に興味を持ったからです。

「こうすれば絶対にアレルギーが治る!」という方法は残念ながらありません。
ですが、「こうすればアレルギーが治る確率が上がる」という方法はいくつかあります。
少しでもアレルギーの子どもが減るように、正しく指導できるようになりたいと考えて、私はアレルギーの勉強を始めました。

本記事の内容は非常に難解ですが、とても大切なことです。
できるだけ正確かつ分かりやすく説明できるように、日々のアレルギー外来をがんばっています。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。