重症牛乳アレルギー児に対する少量維持経口免疫療法の長期追跡調査。

食物アレルギーの「治療」について、以前に書きました。

私の食物アレルギー診療の実際その4「治療」。

2019年6月21日

その中で、経口免疫療法ではありますが、牛乳3mlを1年続けた5歳以上の小児12人のうち、4人で大きく閾値が上がった(25mlまで飲めるようになった)という報告を紹介しました。
A Single-Center, Case-Control Study of Low-Dose-Induction Oral Immunotherapy with Cow’s Milk. Int Arch Allergy Immunol. 2015; 168: 131-7.

これは経口免疫療法のうちの「少量維持法」という方法です。
2021年1月、この少量維持法に新しい知見が追加されました。
報告した施設は、最初の論文と同じ相模原病院です。

今回は、重症牛乳アレルギーの子どもが牛乳3mlを3年間続けた場合の結果について書きます。

そもそも経口免疫療法とは?

経口免疫療法とは「自然経過では早期に耐性獲得が期待できない症例に対して、事前の食物経口負荷試験で症状誘発閾値を確認した後に原因食物を医師の指導のもとで経口摂取させ、閾値上昇または脱感作状態とした上で、究極的には耐性獲得を目指す治療法」とする。

食物アレルギー診療ガイドライン2016

経口免疫療法に対する私の考え方については、3年ほど前に記事に書きました。

経口免疫療法に対する私の認識。耐性獲得のための食物アレルギー指導。

2017年11月15日

要するに、脱感作状態を作って、閾値よりも多い量を食べ続けるのが「経口免疫療法」で、これは現在研究目的の治療です。
いっぽうで、閾値よりも少ない量を食べ続けるのは「必要最小限の除去」であり、一般的なアレルギー診療となります。

牛乳アレルギーに対する少量維持法

経口免疫療法について、今現在どれくらいのことが分かっているのか。
今の科学的知見を分かりやすくまとめた、とても良い本があるんです。

経口免疫療法には「緩徐法」や「急速+緩徐法」があります。
これらは最終的に、卵なら1個、牛乳なら200ml、うどんなら200g、ピーナッツなら3gを食べ続けることになります。

いっぽうで、「少量維持法」は牛乳なら3mlまでしか増やしません。
「緩徐法」や「急速+緩徐法」よりも安全性や継続性を重視しています。

そして「少量維持法」についての報告は、ほとんどありません。

少量維持法の報告はまだ少なく、牛乳の経口免疫療法での少量維持法の報告は、柳田らの報告のみである

 アレルギー診療に携わる医療者のための 小児アレルギー疾患免疫療法 A to Z p73

この本、2020年12月に刊行されたばかりです。
ですが、刊行から3週間ほどで、新しい論文が出ました。
それが、今日紹介する論文です。

重症牛乳アレルギー児に対する少量維持経口免疫療法の長期追跡調査

ようやく論文の紹介です。

Long-term follow-up of fixed low-dose oral immunotherapy for children with severe cow’s milk allergy. Pediatr Allergy Immunol. 2021 Jan 3. doi: 10.1111/pai.13442. Online ahead of print.

背景

牛乳少量維持経口免疫療法の1年間の追跡調査での有効性と安全性は過去に報告されました。
今回は、重症牛乳アレルギー児に対する少量維持経口免疫療法の長期追跡調査を行いました。

方法

牛乳3mlの食物経口負荷試験が陽性だった小児が対象です。
少量経口免疫療法群(33人)は、最大3 mlの牛乳を1年間摂取しました。
免疫療法開始から1年後に牛乳3mlと25 mlの経口負荷試験をしました。
陽性反応だった子どもは、3ml摂取を継続し、1年ごとに経口負荷試験を繰り返しました。

結果

少量維持経口免疫療法群が牛乳25mlを摂取できた割合は、1年後27%、2年後52%、3年後61%でした。
免疫療法中に重篤なアレルギー症状を発症したのは1人だけでした。
少量維持経口免疫療法が成功する指標として、免疫療法開始時の牛乳特異的IgE抗体のカットオフ値は36-40kUA/Lでした。

結論

少量経口免疫療法は、重症牛乳アレルギーに対して有効かつ安全である可能性があります。

感想

私は食物の経口免疫療法をしていません。

それでも、「3mlの牛乳を続けていたら25mlまで飲めるようになった」という報告に希望を感じながら、食物アレルギー外来を続けていました。
1年で効果がなくても、2年、3年と続けていくと効果が上がったという報告に、さらなる希望を感じました。

アレルギーについて分かっていることはそれほど多くないと日頃痛感します。
しかし、2020年12月に免疫療法の本が出て、それからわずか数週間で新しい知見が出るというスピード感にも希望を感じました。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。