第113回医師国家試験の小児科43問総評。

2019年2月10日、11日に医師国家試験がありました。
全部で400問、受験生は大変だったと思います。
お疲れ様でした。

私も本日、400問をざっとですが確認しました。
内科、外科、産婦人科、公衆衛生など様々な分野から出題されており、その中から私が「これは小児科の問題だな」と思った問題は43問ありました。

今回は、その43問を紹介するとともに、卒後10年目の小児科医が独断と偏見による難易度認定と、臨床に役立つかどうかの判定をしてみます。

第113回医師国家試験の小児科問題43問の難易度と役立ち度

A-6 Marfan症候群の精神発達は正常である。
難易度:易しい(過去問頻出である)
役立ち度:普通(常識であるため)

A-18 生後12時間の新生児。吸引3回施行し、出生時に両側側頭部から後頭部にかけて波動性の血腫を触知。出生9時間後からチアノーゼを伴う無呼吸が繰り返し出現した。典型的な帽状腱膜化血腫であり、DICに準じた治療を行う。すなわち新鮮凍結血漿の適応がある。
難易度:易しい
役立ち度:普通(常識であるため)

A-28 心房中隔欠損症は右房内酸素飽和度が上昇する。知識というか、理屈が理解できているかの確認問題なのだろう。心臓カテーテル検査をして心房中隔欠損症の診断をするという状況はないだろうから。
難易度:易しい
役立ち度:役に立たない(心房中隔欠損症の診断自体は、エコーでする)

A-32 先天性副腎過形成では、鉱質コルチコイド不足からカリウムが上昇する。問題自体は易しい。ただ、本問は日齢9から副腎クリーゼを起こし、日齢11にマススクリーニング結果が出ている。マススクリーニングの意義は副腎クリーゼが起きる前に先天性副腎過形成を見つけることだが、本ケースはマススクリーニングが間に合っておらず、いろいろ考えさせられる。
難易度:易しい(過去問頻出である)
役立ち度:普通(常識であるため)

A-37 生後8か月、シリーズ形成するスパズムからWest症候群を疑う。問題自体は典型的な経過で容易だが、West症候群の予後を考えると、本当の問題はこれからであり、胸がざわざわする(この感覚はデュシャンヌ型筋ジストロフィーでも思う)。
難易度:易しい(過去問頻出である)
役立ち度:普通(常識であるため)

A-39 心エコーから肥大型心筋症を考える。ただし、本問は心エコー結果から、心嚢液貯留がないことを答えるだけの問題である。
難易度:易しい
役立ち度:役に立つ(他の選択肢が、家族性がみられること、ホルター心電図が必要であることなど、なかなか良い選択肢である)

A-60 典型的な症状から、川崎病と診断する。近年の国家試験では、ここまで簡単な問題は出なかったので、逆に意外である。
難易度:易しい(過去問頻出である)
役立ち度:普通(常識であるため)

A-70 13歳の甲状腺機能亢進症。病院の階段を上るだけで動機と息苦しさ。抗甲状腺薬内服はもちろんのこと、甲状腺機能が落ち着くまでは運動制限する。もちろん、状態が安定すれば部活動を再開して良い。
難易度:易しい
役立ち度:役に立たない(子どもと家族にとって、部活動を制限させることは大きなストレスである。「部活動の休止指示」という選択肢から受ける印象は、小児科医としての職業倫理が見えづらい)

A-74 腸管出血性大腸菌による細菌性腸炎。溶血性尿毒症の発症に注意すべき検査を問う。溶血性貧血、血栓による血小板減少、性腎不全は有名であり、赤血球数、血小板数、クレアチニンは注意深くフォローしなければならない。
難易度:易しい(過去問頻出である)
役立ち度:役立つ(常識ではあるが、腸管出血性大腸菌感染から溶血性尿毒症に注意するのはとても大切)

B-5 乳児は尿濃縮力が低い。
難易度:易しい(過去問頻出である)
役立ち度:役に立たない(乳児は脱水になりやすい、ということだけ覚えておけばいいだろう)

B-10 生後30分の在胎40週の新生児のバイタル。NCPRを学べば、生後10分でSpO2 90%未満は低いことが分かる。当然、生後30分でSpO2 85%は低い。
難易度:易しい(過去問頻出である)
役立ち度:役に立たない(むしろ、生後5分でSpO2 80%は正常だから酸素投与しなくてもいいという問題のほうが役に立つ)

B-19 麻疹の発疹は解熱後も色素沈着を残す。麻疹はニュースに頻出したので、予想通り出題されたといったところか。
難易度:易しい(過去問頻出である)
役立ち度:普通(常識であるため)

B-32 11歳のIgA血管炎。昔はヘノッホ・シーェンライン紫斑病と呼んでおり、その皮疹は「紫斑」である。紫斑が圧迫しても消退しない。ただ、この問題からは、病名が変わったことで「紫斑だということを忘れるな」というメッセージであるような気がする。
難易度:易しい(過去問頻出である)
役立ち度:役に立つ(名称変更問題に伴う誤認を防ごうとする良問の可能性を感じる)

B-33 生後4か月のRSウイルス感染症からの心肺停止。CABの手順でBLSを開始する。……のだが、すでに問題文中にAの処置(気道確保)をしてしまっている。もちろん、簡単な気道確保はすぐに行えるので、やったことが間違いではないのだが、国家試験にわざわざ書く内容ではないと思う。ともあれ、胸骨圧迫と人工呼吸を速やかに開始する。
難易度:易しい(過去問頻出である)
役立ち度:役に立つ(頭で分かっていても、多くの研修医がすぐに胸骨圧迫できない。繰り返し喚起すべきである)

B-39 5歳、典型的なデュシャンヌ型筋ジストロフィーの経過。登攀性起立は有名である。West症候群のときも書いたが、本当の問題はこれからであり、胸がざわざわする。
難易度:易しい(過去問頻出である)
役立ち度:普通(常識であるため)

C-34 日齢1の新生児。胎便排泄がなく、腹部膨隆、腹部Xpでは腸管ガスが全腸管に緊満している。ヒルシュスプルング病や腸回転異常ではなさそうだ。鎖肛を疑い、注腸造影検査ということだろう。鎖肛であれば、直腸内に造影剤を入れることができない。問題は平易だが、この問題は採点除外問題となるだろう。問題文中に「心拍数40/分」とあり、これが本当ならこの児に必要なのは蘇生である。
難易度:易しい(消去法でも解ける)
役立ち度:役に立つ(鎖肛はお尻を見れば分かる?実際はそう簡単ではない)

C-38 9歳の思春期早発。低身長もそうだが、思春期早発はまず成長曲線である。
難易度:難しい(小児科医では簡単だが、学生だと検査をしてしまうのではないか)
役立ち度:役に立つ(思春期早発や低身長を主訴に小児科外来受診するケースは意外と多い)

C-41 割れ問 7歳の心電図異常。左室肥大、右上肢の血圧が142/88。左背部で収縮期雑音が聞こえる。情報が多いので大動脈縮窄症と診断することは簡単である。ただ、左背部の収縮期雑音は、言われればそうかと思うが、実際にこの所見から大動脈縮窄症と診断しようとしたことはなかった。心電図異常はとりあえず全例心エコーだろうが、心臓だけではなくて、しっかり大動脈も見なさいという教育的な問題だ。もちろん、下肢の血圧は低下する。
難易度:普通(大動脈縮窄症は、学生には少し馴染みがないか)
役立ち度:役に立つ(教育的である)

C-53 妊娠糖尿病母体児。出生後、易刺激性を認めている。低血糖だろう。
難易度:易しい(過去問頻出である)
役立ち度:普通(常識であるため)

D-1 単純型熱性けいれんと複雑型熱性けいれんの違いを聞く問題。正解肢以外はすべて複雑型熱性けいれんの特徴である。
難易度:易しい(過去問頻出である)
役立ち度:普通(常識であるため)

D-12 ABO血液不適合は早発黄疸となる。光線療法が必要である。ちなみに専門医試験レベルになると、交換輸血が必要となった場合に用意する血球の血液型、血漿の血液型を問われる問題がよく出題されている。
難易度:易しい(過去問頻出である)
役立ち度:普通(常識であるため)

D-17 14歳女子の伝染性単核球症。発熱5日目で頸部腫脹、扁桃白苔を認めている。この扁桃白苔が大切だということは、私の本にも繰り返し述べた。良い問題である。伝染性単核球症では、異型リンパ球が10%以上または1000/µL以上を認めることもある、ということも本書に書いた(しかも赤字で)。
難易度:易しい(過去問頻出である)
役立ち度:役に立つ(扁桃白苔を見つけることが大事)

D-33 6歳、クラスから飛び出してしまう。ADHDである。本人の特性にあった環境調整が大切である。選択肢の中でもっとも近いのが、本人が自信を失わないための配慮であろう。
難易度:難しい(特に問題ない、という選択肢を選んだ人の意図も分からないわけではない。ただ、通院不要にしてはいけないだろう)
役立ち度:役に立つ(メチルフェニデートを処方すればいいという問題ではない)

D-37 14歳の精巣捻転である。エコーでも血流途絶しており、緊急手術である。ただ、14歳の男の子が「陰嚢が痛い」と言わない可能性もあることに注意。恥ずかしくて腹痛と言う児もいるので、腹痛の児では必ず陰部を見るように。これも、私の本に書いた。
難易度:易しい(過去問頻出である)
役立ち度:普通(常識であるため)

D-45 11か月の乳児。コイン型のリチウム電池を飲みこんだ。1時間後の胸部Xpでは食道内に電池が停滞している。私の本を読んだ人なら、ポケモンGOプラスで使うCR2032(直径20mm、厚さ3.2mm)であることまで分かる。食道内に停滞した電池は、いかなるサイズ、種類であろうが、摘出が必要である。2時間以内に取りださないと、食道穿孔する。逆に、胃内にあったときの対応は専門医試験レベルになる。
難易度:易しい(消去法でも解ける)
役立ち度:役に立つ(胃内にあったときの対応までしっかり覚える)

D-49 2歳、繰り返す尿路感染症。排尿時膀胱尿道撮影で、膀胱尿管逆流症(グレードIIIかIVか。私にはIVに思える)を認める。おそらく予防的抗菌薬療法を受けていたのだろうが、無効なようだ。膀胱尿管逆流防止術の適応である。
難易度:易しい(消去法でも解ける)
役立ち度:役に立たない(実際のところは、泌尿器科医の裁量という印象がある)

E-15 側彎で前屈検査する意味。肋骨の高さを見ている。背筋力という選択肢には笑わせてもらった。
難易度:易しい(消去法でも解ける)
役立ち度:普通(常識であるため)

E-20 微小変化型ネフローゼはステロイドが著効する。ただし、再発も多いので、治ってハッピーエンドというわけではない。
難易度:易しい(過去問頻出である)
役立ち度:普通(常識であるため)

E-27 15歳の起立性調節障害。朝は頭痛、腹痛が強く、起きられず、学校には行けない。夕方には元気になる。母親は本人に対して「学校をさぼっている。ゲームばかりして夜更かしするので朝起きられない」と感情的に主張している。いわゆる起立性調節障害の二次障害だ。患者の話を傾聴するのは当然だが、母親からの理解を得るように疾患の特性を丁寧に説明することも大切である。だからといって、母を厳しく注意するのはやりすぎ。母も児を心配しているのだから。なお、母に抗不安薬という選択肢は笑った。
難易度:普通(起立性調節障害は、学生には少し馴染みがないか)
役立ち度:役に立つ(外来でよく出会う疾患である)

E-37 4歳の繰り返す嘔吐。意識レベルの低下。転びやすくなった。眼底検査でうっ血乳頭がある。脳腫瘍の経過である。とりあえず、頭部CTは行うべきである。
難易度:易しい(過去問頻出である)
役立ち度:普通(常識であるため)

E-38 16歳、健診で尿潜血陽性。二次健診では血尿がない。生理による影響だったか、ミオグロビン尿だったか。
難易度:易しい(消去法でも解ける)
役立ち度:普通(常識であるため)

F-12 ノロウイルスは加熱で防げる。カキはしっかり加熱してから食べよう。
難易度:易しい(過去問頻出である)
役立ち度:普通(常識であるため)

F-21 10か月のKaup指数。BMIと同じで、体重を身長の二乗で割るだけ。8.33÷(0.7)2が割り切れたことに感動した。
難易度:易しい(過去問頻出である)
役立ち度:普通(常識であるため)

F23 家系図から伴性劣性遺伝と分かる。デュシャンヌ型筋ジストロフィーである。
難易度:易しい(過去問頻出である)
役立ち度:普通(常識であるため)

F-35 BCG接種前に注意すべきこと。BCGは生ワクチンであり、免疫不全の家族歴には注意。また結核接触歴がすでにあるのも問題である。免疫系の検査(IgGやIgM)やツベルクリンテストはしておいてもいいだろう。
難易度:普通(予防接種は学生には難しいだろうが、この問題は消去法で行ける)
役立ち度:役に立つ(BCGはコッホ現象や、BCG後にツベルクリンテストの判定が変わることなども併せて覚える)

F-40 感染症と出席停止期間。私の本にも書いてある。
難易度:易しい(過去問頻出である)
役立ち度:普通(常識であるため)

F-42 割れ問 3歳健診の内容。実は尿検査がある。3歳の子どもの尿を提出するのは意外と大変なので、子育て経験があれば覚えているはず。歯科検診、言語障害の有無、予防接種の実施状況も3歳健診で確認する。したがって、この問題は解答が4つあり、不適切問題である。
難易度:不適切問題
役立ち度:役に立たない(ただの知識問題)

F-45 麻疹患者の入院時の隔離。空気感染だが、N-95は患者につけるものではない。結核と違って麻疹は予防接種で予防可能であり、関係者の予防接種歴・抗体価確認が大切だろう。
難易度:普通(常識的に分かる問題ではあるが、過去問にはない)
役立ち度:役に立つ(感染症を入院させることは非常に多い。どのような感染拡大防止をするのかは、非常に大切)

F-47 低身長。おそらく成長ホルモン分泌不全性低身長である。負荷試験の適応がある。
難易度:易しい(過去問頻出である)
役立ち度:普通(常識であるため)

F-52 生後1か月、全身に白斑が7個ある。結節性硬化症で、横紋筋腫を想定させる問題。
難易度:普通(典型的な問題だが、医学生に結節性硬化症は馴染みがないか)
役立ち度:役に立つ(皮膚疾患は鑑別が頭に入っていないと見逃す)

F-56 1歳児、停留精巣の手術のため吸入麻酔薬と筋弛緩薬を投与したところ、発熱、頻脈、赤褐色の尿(おそらくミオグロビン尿)、代謝性アシドーシス。典型的な悪性高熱症である。選択肢に悪性症候群(抗精神病薬によるもの)があるのが紛らわしい。
難易度:普通(典型的な問題だが、医学生に悪性症候群は馴染みがないか)
役立ち度:普通(常識であるため)

F-58 2か月の肛門周囲膿瘍。細菌感染が原因であるが、私は抗菌薬ではなく漢方で治療している点を本にも書いた。これは再発が多いため、長期の治療が必要になるからである。
難易度:普通(典型的な問題だが、医学生に肛門周囲膿瘍は馴染みがないか)
役立ち度:普通(常識であるため)

F-59 日齢0の新生児。出生時啼泣がないため皮膚刺激を受けたが、無呼吸のためバッグバルブマスク換気を開始した。生後2分で自発呼吸が出現したため、換気中止。生後5分では筋緊張良好で呼吸も確立しているが、中心性チアノーゼが残る。Apgarスコアを求める問題。皮膚色のみ減点であり、8点。だが、中心性チアノーゼ単独が生後5分まで残ったのだろうか。酸素投与はしないのか。多呼吸を呈しており、心疾患ではないように思うが。なぜこのプロバイダーが安定化の処置を怠ったのかが気になる。
難易度:易しい(過去問頻出である)
役立ち度:普通(常識であるため)

第113回医師国家試験の小児科総評

以上、小児科問題と私が独断で認定した43問を紹介しました。
小児科医に関しては、全体的に易しい問題が多かったです。
割れ問が2問ありましたが、片方は選択肢が不適切であり、採点除外になると思います。
採点除外予想を今回は2つしましたので、後日結果を確認します。

いっぽう、近年の医師国家試験は、臨床的な問題が増えていると感じました。
私は一般的な小児科外来に特化した本を2019年3月に出版しました。

その本に載っている知識で解ける問題が15問ありました。
約1/3が小児科外来本で解けるというのは、実地に即した良い傾向だと感じます。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。