イギリス政府は生後6か月までの完全母乳育児を勧めています。
しかし、2010年の調査では、6か月間の完全母乳育児を実施した母親は1%に過ぎず、75%の母親は生後5か月までに離乳食を開始していました。
その理由は、赤ちゃんが母乳に満足しなくなったためという回答が最多でした。
いっぽうで、26%の母親は「夜に赤ちゃんが起きるため」離乳食を早く始めたと答えました。
イギリスでは離乳食を早く始めると、赤ちゃんが夜中によく眠ってくれるようになると信じられています。
しかし、そのエビデンスは明らかではありません。
今回は、EAT studyというアレルギー科医であれば誰しもが知っている大規模ランダム化試験のデータを使って、離乳食を早く始めると赤ちゃんが夜中によく眠ってくれるようになるかを調べた論文について書きます。
このページの目次です。
乳児の睡眠と離乳食の早期開始との関連
1303人の乳児がこの研究に参加しました。
半分は生後3か月から離乳食を開始し、残り半分は生後6か月から離乳食を開始しました。
睡眠に関するアンケートは生後3か月から3歳までのあいだに15回実施されました。
結果は、下のグラフの通りです。
一晩の睡眠時間は、早期に離乳食を与えた群のほうが平均7.3分長いという結果でした。
特に生後6か月のときに差が大きく、16.6分長く寝ていました。
夜間の覚醒頻度も、早期に離乳食を与えた群のほうが9.1%少ないという結果でした。
早期に離乳食を与えた群のほうが、お母さんの満足度(QOL)が高いという結果も得られました。
論文を読んだ感想
この論文はEAT studyという食物アレルギーの研究データを使っています。
EAT studyの詳細は、ほむほむ先生の解説が分かりやすいです。
アレルギーの研究をしつつ、睡眠まで調べるとは、このあたりの研究センスには脱帽です。
この論文には限界があります。
離乳食を早期に開始すると子どもがよく寝てくれるようになると信じられているイギリスで実施された研究です。
この研究を二重盲検で行うことは不可能です。
当然、この結果には報告バイアスが存在することでしょう。
ただ、もしこの論文の結果が真実であり、一晩に最大16分も子どもが寝てくれると思うと、その影響は大きいです。
「たった16分でしょ?」
と思う人もいるかもしれません。
ですが、毎日毎日子育てに必死なお母さんにとって、毎日16分間休める時間が増えるとしたら、どうでしょうか。
その16分で毎日ブログを書くことが可能です。
その16分で晩御飯の後片付けと、翌朝の朝食の準備まで可能です。
その16分は1週間で約2時間になります。
2時間あれば、レンタルした映画を1本見ることもできます。
さらには、睡眠時間の延長は、赤ちゃんの精神発達にも有利かもしれません。
この16分は小さいかもしれませんが、今後その価値を検討する必要があるでしょう。
わが国での離乳食の開始時期は、厚生労働省の授乳・離乳の支援ガイドによれば、生後5,6か月頃が適当とされています。
この指針が簡単に変わるとは思えませんし、私自身も異論はないのですが、科学の発展とともに見直される可能性も否定できません。