ポリクリ(臨床実習)や初期研修に推奨する見学スタイル。

2018年8月27日から31日までの5日間、私は神奈川県の国立相模原病院に見学研修に行ってきました。

医師になって10年目、見学というスタイルを取ったのは久しぶりです。
2年目研修医のときに、教授のシュライバー(Schreiber:書く人。教授の代わりに電子カルテを操作する人という意味でよく使います。Beschreiberと呼ぶ人もいます)をしていたとき以来でしょうか。

8年ぶりに「見学する人」の気持ちを思い出しました。
今回は、ポリクリ(医学生の臨床実習)や初期研修に推奨する見学スタイルという題材で書きます。

見学する側の気持ち

見学をして感じたのは、以下の4つの不安です。

  • 診療の邪魔にならないか。
  • 医師以外のコメディカルスタッフに話しかけてよいか。
  • どこで何を見学するのがよいか。
  • 患者さんに話しかけられたときにどう対応すればいいのか。

一つずつ見ていきましょう。

診療の邪魔にならないか

ポリクリ中の学生や初期研修医が見学をしていると「アレは何しているんだろう」とか、「この治療戦略は一般的なのか」とか、いろいろ疑問が出てきます。

見学中に疑問が湧けば、すぐ指導医に質問すれば良いのでしょう。
しかし、医療現場は忙しいものです。
忙しそうに働いている指導医・スタッフに質問して時間を取らせるのは気後れします。

「あとで調べてみよう」とか「時間が空いたときに聞いてみよう」とか考えて後回しにすると、結局あとで調べても答えは分からず、時間が空いたときというグッドなタイミングは存在せず、疑問は疑問のまま終わるのです。

医師以外のコメディカルスタッフに話しかけてよいか

見学というのはなかなか面白い立ち位置です。

実際に仕事をしているわけではありませんので、気持ちに余裕があります。
そして、実際の現場から半歩ほど後ろから診ていますので、視野が広がっています。

その結果、医療現場に関わる様々な職種の動きが見えてきます。

薬剤オーダーを確認し、点滴薬を準備し、投与する看護師の動き。
ベッドコントロールを確認し、速やかにシーツ交換、ベッド移動を行う清掃業者の動き。
配膳前のアレルギーチェックを行う栄養士の動き。
持参薬処方を確認する薬剤師の動き。
会計・清算する医療事務の動き。

見学の立場でいると、こういった様々な職種の動きが見えてきます。
動きが見えると疑問も湧きます。
「ベッドコントロールは誰がどの時点で決定しているんですか?」とか、「患者さんの会計・清算はどの時点で行われるんですか?」とか。

医師は医療に関するすべての情報と流れを知っておくべきだと私は思います。
ですから、将来医師となるポリクリ学生および初期研修医は、医師以外の職種についても積極的に知るべきだと思います。

しかし、「ポリクリ中、初期研修中という立場で、医師以外のスタッフにまで迷惑をかけて大丈夫なんだろうか。たとえば看護師さんに迷惑をかけて、看護部と診療部がギクシャクしたりしないか」という不安が湧くかもしれません。

「職種が違うと考え方も違うかも。医学生・初期研修医は看護師には煙たがられているんじゃないか」と考えだすと、結局指導医にしか質問ができないということになりがちです。

どこで何を見学するのがよいか

病棟、外来、救急、手術室。

病院の中では様々なイベントが同時発生しています。
どこで何を見学するのがよいか、分からなくなります。

結局どこに行けばいいか分からず、「医局で調べ物をしていました」という全く無価値な見学に終始する可能性があります。

患者さんに話しかけられたときにどう対応すればいいのか

ポリクリ中の医学生も、初期研修医も、白衣を着ます。
白衣を着てしまえば、患者さんからは「お医者さん」に見えます。

病棟を歩いていると、患者さんに質問されることは十分にあります。

「患者さんに質問されても、どう答えていいか分からないし、もし適当なことを言ってあとで責任問題とかになっても責任なんて取れないし……」と不安になるでしょう。

医学生も初期研修医も、責任を取れません。
それを「責任を取らなくていい」と考えて積極的になるタイプの人間は危険な思想家であり、医者として不適切です。
通常は「責任を取れない」という立場は、消極的になります。

消極的になりすぎて、ベッドサイドで患者さんの話を聞くことを恐れるようになれば、良い見学はできなくなるでしょう。

見学される側の気持ち

ここまで、見学する側の気持ちを書いてみました。

  • 診療の邪魔にならないか。
  • 医師以外のコメディカルスタッフに話しかけてよいか。
  • どこで何を見学するのがよいか。
  • 患者さんに話しかけられたときにどう対応すればいいのか。

私は医師3年目以降は、見学される側になりましたので、ここからは見学される側の気持ちを書きます。

  • 診療の邪魔にはなる。だが、本当に邪魔なときは「ごめん、その質問は後にして」とこちらから言うので、見学者側が気にする問題ではない。
  • 医師以外のコメディカルスタッフに話しかけてよい。医師も看護実習生や看護師1年目などから質問があれば丁寧に対応するし、他職種を理解しようとする姿勢は高く評価している。
  • どこで何を見学するのがよいかは、予定表を渡すので参考にして欲しい。加えて、「何を学びたいのか」をリクエストしてくれるとさらに良い機会を提供できる。
  • 患者さんに話しかけられたときは、まず自己紹介をして欲しい。対応できる範囲内で対応してよいが、その後必ず指導医に報告して欲しい。

一つずつ見ていきましょう。

見学は診療の邪魔にはなるが気にするな

まあ、邪魔ですよ。
はっきり言ってしまえば。

私一人だけで診療すれば1時間で終わる仕事も、見学者に説明しながら質問に答えながら診療すれば2時間かかります。

でも、見学実習は中長期投資のようなものです。
短期的にみれば時間の消費でしかありませんが、見学者が良い医師に成長し、私の仕事を手伝ってくれるようになれば、私の仕事量は減るのです。

「未来に投資する」という意味で医学教育は大切です。
ですので、私の邪魔になることを恐れず、どんどん質問して欲しいです。

どうしても時間が足りなく、患者さんに迷惑がかかってしまいそうなときは、こちらから「ごめん、その質問は後にして」と言います。
ですから、見学者側は私に忖度しなくて結構です。

他職種への質問は案外高評価

他職種に話しかけるのは勇気が必要です。
職種が違えば考え方も違うので、指導医なら笑って許してくれるような質問でも、他職種だったら睨まれるんじゃないかと不安になるかもしれません。

ですが、他職種だから疎外されるって状況、私には経験がありませんよ。

むしろ、他職種に声をかける行為は、他職種を理解しようとする姿勢とされ、歓迎されます。

私も看護実習生に質問されると、非常に嬉しくなります。
他職種を知ることは、様々な立場でものごとを考える能力に繋がるはずです。

何を学びたいかをリクエスト

見学者様になっていませんか?

ポリクリ学生や初期研修医が「良い研修を提供して欲しい」と考えるのは、当然の権利です。
私も良い研修を提供したいです。

ですが、あなたたちは生まれたばかりのツバメではありません。
口を開けてピーピー言うだけではなく、自分でエサを探してください。

どこにどんなエサがあるのかを教えてあげるのは、教育者としてのマナーです。
外来・病棟のスケジュールを渡します。

どんなエサを食べたいのか言ってください。
そのエサが見つかれば、あなたを呼びます。

積極的に外来・病棟を動き回ってください。
偶然エサを見つけることもあります。
逆に、動き回らなければエサは見つかりません。

あと、医局にエサは落ちていません。
(お土産のクッキーとかチョコレートとかは落ちていますが)

自己紹介と報告を

白衣を着ていれば、お医者さんに見えます。
だからこそ、自己紹介が大切です。

患者さんと話をするときは、最初に「医師を目指して勉強中の学生であること」また「まだ医師になりたての初期研修医であること」を必ず伝えてください。

それ以降のことは患者さんが決めます。
あなたが学生であることを知った上で「さっきからお腹が痛いんです」と患者さんが相談されるのであれば、できる限り対応しましょう。
そのあと、必ず指導医に報告しましょう。

逆に、こちらから積極的に診察をしたいときは、「勉強のために、診察させて頂いてもよろしいでしょうか?」と聞いてみましょう。
それ以降のことは患者さんが決めます。
診察が許可された場合は、診察後に「ありがとうございます。大変勉強になりました」と感謝の気持ちを伝えましょう。
この「勉強のために」というフレーズは便利ですので、ぜひ使ってみてください。

たまに患者さんとトラブルになる初期研修医がいますが、多くの場合、研修医のコミュニケーション不足です。
丁寧で礼儀正しく、そして自分の勉強に協力して下さった患者さんには感謝の気持ちを持って接していれば、トラブルになることはまずありません。

まとめ

見学する側の不安と、見学される側の気持ちについて書きました。

  • 本当に邪魔なときは「ごめん、その質問は後にして」とこちらから言うので、見学者側は気にするな。
  • 他職種を理解しようとする姿勢は高く評価される。
  • 「何を学びたいのか」をリクエストし、病院内を動き回れ。
  • 患者さんと話すときは自己紹介し、必ず指導医に報告を。「勉強のために」という言葉と感謝の気持ちを忘れずに。

以上4点を守って、良い医者を目指してください。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。