テレビをつけるとインフルエンザに関する報道ばかりされていますが、その陰に隠れてRSウイルスによる気管支炎や肺炎の入院もいます。
RSウイルスの典型的な経過はここに書きました。
RSウイルス感染症の基本治療は次の4点です。
- 鼻汁吸引
- 必要であれば去痰薬
- 必要であれば吸入
- 必要であれば輸液
私は「輸液・吸入・吸引・去痰薬」は下気道感染(気管支炎や肺炎)の基本治療であると考えています。
これはRSウイルスに限らず、ライノウイルスやヒトメタニューモウイルス、パラインフルエンザウイルスなどでも同じことです。
前述の記事でも「鼻汁吸引」を治療のメインとして強調しました。
もし重症な気管支炎(細気管支炎といってもよいでしょう)であったとしても、鼻汁吸引はとても大切な治療です。
さて、ここからが本題です。
「気管支炎の治療に、鼻汁吸引はとても大事!」
……と当然のように話していますが、これにエビデンスはあるのでしょうか?
今回は、気管支炎に鼻汁吸引が有効なのかを真剣に考えてみます。
気管支炎に対する鼻汁吸引の位置付け
細気管支炎の管理
必要に応じて、口腔内または鼻腔内の吸引を行う。
検体検査およびその他の検査(ウイルス検査、胸部X線撮影、動脈血ガスなど)を検討する。PALSプロバイダーマニュアル2015
細気管支炎というのは、重症な気管支炎という認識で私はよいと思います。
このような場合でも、鼻汁吸引は特異的な治療に位置付けられています。
ただし、鼻汁吸引が細気管支炎の管理の中心に位置している根拠は、PALSプロバイダーマニュアルには掲載されていません。
アメリカ小児科学会の声明も確認してみました。
Suctioning of the nares may provide temporary relief of nasal congestion. There is no evidence to support routine “deep” suctioning of the lower pharynx or larynx.
(鼻汁吸引は、一時的に鼻詰まりを改善させます。ルーチンで下咽頭や喉頭を”深く”吸引することを支持するエビデンスはありません)Diagnosis and Management of Bronchiolitis (Pediatrics 2006, VOLUME 118 / ISSUE 4)
上記の声明も、特に参考とする研究はありません。
鼻汁吸引が細気管支炎の転帰をどの程度改善させるかは、分かりません。
気管支炎に鼻吸引が有効だという研究はないのでしょうか。
どのような研究を立てるか
気管支炎に対して鼻汁吸引が有効かどうかを考えるには、次のような研究が思いつきます。
つまり、気管支炎の子どもに対して、いっぽうは鼻汁吸引をし、もういっぽうは鼻汁吸引をしないようにし、両者でたとえば72時間後の呼吸状態を比較するのです。
ただ、これは倫理的に大きな問題があります。
鼻水を吸ってもらえない子どもたちが明らかにかわいそうです。
こういうのを「倫理的に行ってはならない研究」といいます。
そうは言いつつも、誰か研究していないかなとpubmedで調べましたが、上記のような研究は見つけられませんでした。
ただ、その中でも「これは」と思った論文があるので、紹介します。
鼻吸引単独よりも、鼻うがいもしたほうが細気管支炎は早く治る
Chest physical therapy is effective in reducing the clinical score in bronchiolitis: randomized controlled trial (Rev. bras. fisioter. vol.16 no.3 2012)という論文です。
ブラジルの報告ですね。
生後4-5か月くらいの乳児で、RSウイルス細気管支炎になった児が対象です。
「Clearance rhinopharyngeal retrograde」というテクニックと鼻吸引を組み合わせて管理した場合と、鼻吸引だけで管理した場合とで、経過を比較しています。
Clearance rhinopharyngeal retrogradeは直訳すると「逆行性鼻咽頭洗浄」となります。
要するに「鼻うがい」に近いです。
これのやり方は別の論文のほうが詳しいです。
Subjects were submitted to the retrograde rhinopharyngeal clearance technique, performed by an experienced physical therapist. The retrograde rhinopharyngeal clearance is based on the inspiratory reflex that follows the slow and prolonged expiration (passive expiratory technique performed by a slow thoracoabdominal compression that begins at the end of a spontaneous inhalation and continues until the expiratory reserve volume) provoked by cough or crying. At the end of the expiratory time, the child’s mouth was closed by the hand of the therapist (raising the lower jaw), which accompanied the expiratory movement, inducing the child to perform a nasal aspiration. The saline instillation was performed before the maneuver, resulting in the inhalation of this substance during the forced inspiratory movement, contributing to the nasopharyngeal clearance.
熟練した理学療法士によって行われる手技です。
息をしっかり吐かせたあと、反動で吸いこむ力を利用して、生理食塩水を鼻から吸わせます。
口から呼吸しないように、下あごを持ちあげて、口をふさぎます。
どうでしょうか。
なかなか過激な印象を持ちます。
誤嚥が心配です。
そんなテクニカルな鼻うがいをすると、細気管支炎が早く治ったという結論になっていました。
まとめ
逆行性鼻咽頭洗浄、つまり鼻うがいを乳児に行う安全性は不明です。
個人的には誤嚥のリスクを感じます。
いっぽうで、上記の論文は「鼻を積極的に洗えば、気管支炎が早く治る」と間接的に示していると解釈することもできます。
そう捉えれば、鼻汁吸引も有効な処置だといえます。
また、鼻汁吸引と鼻噴霧の組み合わせが、鼻噴霧単独よりも上気道症状および下気道症状を緩和したという論文も存在します。
これについては、こちらの記事に書きました。
鼻汁吸引は自宅でも安全に鼻汁吸引を実施することができます。
鼻吸引器はどんなものでもかまいません、
参考までに、我が家にある吸引器はこれです。
(ピジョンのも持ってますが、使い勝手に差はありません。手に入るほうでしたらどちらでもいいと思います)
鼻汁吸引にはコツがあります。
鼻水吸引ドットコムの「鼻水吸引のコツ」がおすすめです。