予防接種のあとは、揉まないほうがよい?科学的根拠。

お子さんが予防接種を受けた後、あなたは接種部を揉みますか?

  1. 2分以上揉み、夜に温湿布をする。
  2. 1分揉む。
  3. 揉まないか、揉んでも数回だけ。
  4. 皮下注射だと揉まないけれど、筋肉注射だと揉む。

おそらく、3か4だと思われるはずです。
では、答えはどれでしょうか。(最後に答えがあります)

各国の対応

ワクチンに対するガイドブックとして、アメリカ小児科学会が出している「red book」や、米国疾病予防管理センターが出している「Pink Book」には、ワクチン接種後は軽く数秒間圧迫するだけでいいと書かれています。

日本でのインフルエンザ予防接種ガイドライン2012には、以下の記載があります。
(現在の最新版はインフルエンザ・肺炎球菌感染症(B類疾病)予防接種ガイドライン2016年度版です)

接種後は接種部位を清潔なアルコール綿で押さえる。同部位を液が漏れ出さないように注意しながら揉まずに血が止まる程度に抑えるだけでよく、揉む場合でも、数回程度にとどめる。この時点であまり強く揉むと皮下出血をきたすこともあるので、特に血管の脆弱な高齢者や出血傾向のある被接種者ではこの点注意を要する。

インフルエンザ予防接種ガイドライン(2012年度版)

日本の予防接種の場合は、軽く揉んでも良いことになっています。
軽く揉む理由は、おそらく皮下の注射液が軽く揉むことで広がり、注射穴から液漏れすることを防ぐためではないかと推察します。

各国の対応を見ると、注射後に揉む必要はなく、揉んだとしても数回だけというのがよいようです。

揉まないほうがよいという科学的根拠

pubmedや医中誌で調べてみましたが、結論としては揉まないことを推奨する科学的根拠に見つけられませんでした。

1987年の小児科臨床に山本博章先生が「揉む、揉まないで論争されている」と書いてありますので、30年以上前からの小児科医たちはこの問題で悩んでいるようです。
ちなみにこの論文では、揉んでも揉まなくても、副反応にも免疫効果にも差がなかったと報告されています。

Hsu Cyらが、1995年にLocal massage after vaccination enhances the immunogenicity of diphtheria-tetanus-pertussis vaccine.という論文を発表しました。
327人の子どもに三種混合ワクチン(全菌体ワクチンで、今の成分ワクチンとは少し違います)を接種します。
注射後に1分間揉む人たちと、揉まない人たちに分けて、痛みや発熱がどうなるか、そして百日咳の抗体がどうなるかを調べました。

結果は、揉んだ方が痛みや熱が強くなり、抗体もより上がったということです。
予防接種後に揉むと、免疫効果がアップする代わりに、副反応も強くなると彼らは結論付けました。

その4年後、1999年に彼らは違う試験をしてみます。
揉めば揉むほど免疫効果がアップするのでないかと考えたのでしょう。
Effect of local massage on vaccination: DTP and DTPa.という論文で、808人の生後2か月の赤ちゃんに三種混合ワクチンを接種しました。
そして、接種後何もしない子どもと、接種後2分間しっかりマッサージし、さらに夜に30分間の接種部の温湿布までしてみました。
すると、マッサージしたほうが痛みや発熱などの副反応がたくさん出ましたが、免疫効果は変わりませんでした。
あまりに強いマッサージは、ワクチンの副反応を増やすだけで、効果はないと彼らは結論付けました。

以上の論文からは、強く揉むのは科学的に推奨されないようです。
しかし、1分程度揉むことは、副反応が増えるものの、もしかしたら予防接種効果を高めるかもしれません。

予防接種に求められていること

病気の子どもに投与される薬は、多少の副作用があっても、効果が高ければ許容されるケースが多いです。

しかし、予防接種は元気な子どもにされます。
求められているのは、効果よりも安全性です。

接種後に1分揉むことは、予防接種の効果を高めるかもしれません。
しかし、副反応も増えるため、安全性は落ちます。
揉まないほうがよいという科学的根拠はないものの、揉むと副反応が出やすくなるという報告がある以上、揉まないほうが相対的にまだましだというのが現在の推奨に繋がっています。

筋肉注射では揉むほうがよいのか

「筋肉注射では」と限定づけるところが、まさに日本らしさです。
日本で筋肉注射するワクチンはほとんどありません。
子宮頸がんワクチンと、髄膜炎菌ワクチンくらいです。
A型肝炎ワクチンや、10歳以上のB型肝炎ワクチン、23価肺炎球菌ワクチン、破傷風ワクチンは筋肉注射してもよいことにはなっていますが、皮下注射でもよいので、日本では皮下注射を選択されるでしょう。

実は、海外では、例外をのぞいて予防接種は筋肉注射でされます。
Hsu Cyらは台湾の人だと思いますが、台湾も筋肉注射です。
アメリカもすべてのワクチンが筋肉注射であり、それでいてred bookにもpink bookにも揉む必要性について書いてありません。

筋肉注射だから揉むほうがよいという科学的根拠はありません。

まとめ

  • 予防接種後は揉まないか、揉んでも数回だけにしましょう。
  • 1分揉むと免疫効果アップだが、副反応が増え、2分揉むと副反応だけが増えるという論文があります。
  • 安全性を考えると、揉まないほうがよいでしょう。
  • 筋肉注射は揉んだほうがいいという科学的根拠はありません。海外では筋肉注射がメインですが、揉んだほうがよいという勧告もありません。

皮下注射をしているのは日本だけという事実は、おそらくみなさん知らなかったのではないでしょうか。
筋肉注射のほうが、予防注射の副反応が少ないようです。
日本もおそらく近々、海外と同じように筋肉注射主体になると思います。

冒頭のクイズは、「3」が正解になります。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。