アトピー性皮膚炎の治し方。年間500人診療して気づいた12の治療法。

500人。

私が1年間に診ているアトピー性皮膚炎の子どもの数です。
のべ人数ですので、月に1回フォローしている子どもが約40人くらいいる計算です。

たくさん診ていると自負するつもりはありません。
週にたった10人しかアトピー性皮膚炎を診ていないわけで、アレルギー専門医を目指すにはまだまだだと感じています。

それでも一般的な小児科医から見れば、かなりたくさんのアトピー性皮膚炎を診ていると思います。

今回は、アトピー性皮膚炎の治療を成功させるコツを「アトピー性皮膚炎の治療法」として書きます。

アトピー性皮膚炎の基本治療

アトピー性皮膚炎の基本治療は、たった2点に集約されます。

  • 十分な保湿。
  • 適切なレベルのステロイド。

もちろん、石けんの使い方とか、紫外線対策とか、その他の薬物療法とかいろいろあります。
ですが、とにかく大事なのは保湿とステロイドです。

「保湿してステロイド塗るだけなんて、誰にでもできそう」

そうなんです。
アトピー性皮膚炎の診療はとても簡単に見えます。

でも、アトピー性皮膚炎の治療が本当に簡単だったら、世の中にこんなにもアトピービジネスが蔓延していないと思います。
なかなか治らないアトピー性皮膚炎の子どもをターゲットに、怪しげな薬品やサプリメントを売りつける商法をアトピービジネスと言います。

「アトピーを近くの皮膚科や小児科で診てもらっているけれど、なかなか治らない」

アトピーは治らないし、主治医の先生も信頼できないから、アトピービジネスに頼るのでしょう。

簡単そうに見えて、すごく難しい。
これがアトピー性皮膚炎の診療です。

アトピー性皮膚炎の治療を成功させる12のコツ

先に結論を書きます。

アトピー性皮膚炎の治療を成功させるコツは、ひとえに「継続した診療ができること」です。

保湿をして、ステロイドを塗って、でもアトピー性皮膚炎がなかなか治らなくて、病院をいろいろ変えて、それでも治らなくて、最終的に私の外来に来ている人もいます。
(私の外来はアレルギー専門外来ではありませんが、それでもアレルギー疾患が集まってきます)

私の治療方針は、基本的には保湿とステロイドです。
「脱ステロイド!」とか「お風呂を入るのをやめれば治る!」とかそういう奇抜なことはしていません。
アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2016年版を見ながら、ガイドライン通りの治療をしているだけです。

ガイドライン通りに治療していても、経過に難渋する子どもはいます。
なかなか湿疹がおさまらない子どももいます。

それでも、毎回欠かさず受診してくれます。
3年、4年とフォローすると、最終的にかなり寛解してくれています。

とにかく、受診さえ継続してくれれば、アトピー性皮膚炎は必ず治ります。
治療に失敗するのは、外来に来てくれなくなったときです。

つまり、アトピー性皮膚炎の治療のコツとは、診療を継続させるコツに言い換えられます。

とにかく、経過を追いましょう。
湿疹がどうなっていくのかを観察しましょう。
1か月、半年、1年、3年、ずっと見ていきましょう。
アトピー性皮膚炎が治る瞬間をお母さんと一緒に目撃しましょう。
必ずその日がやってきます。

診療を継続させるコツを書きます。

治ることを保証する

アトピー性皮膚炎が治ったという経験をしたことがありますか?

多くの小児科医が「アトピーが治った瞬間を見たことがない」と答えるでしょう。
アトピー性皮膚炎を治したことがないと、なかなか自信をもって「治りますよ」と保証できないかもしれません。

ですが、大丈夫です。
アトピー性皮膚炎は必ず治ります。

頼りない態度で診察していれば、その患者さんはそのうち来てくれなくなります。
診療を継続できなければ、治るアトピー性皮膚炎も治りません。

医者の態度は、お母さんのモチベーションにも影響します。
自信をもって、患者さんに治ることを保証しましょう。

距離感を大切にする

70~150cmくらいの距離感を大切にしましょう。
この距離感は、医者とお母さんとの距離です。
子どもが小学校低学年までであれば、子どもとの距離はあまり気にしなくてもよいでしょう。

自分の半径70cmはパーソナルスペースと呼ばれます。
70cmより近づくと、圧迫感があります。

150cm以上離れると、よそよそしさが漂います。

たかが距離ですが、されど距離です。
アトピー性皮膚炎に限らず、慢性疾患を診療するときは、距離を大事にしましょう。

胸から顔を柔らかく見る

患者さんの顔を見ない医者は思いのほか嫌われているようです。

ただ、目をじっと見るのも失礼です。
胸から顔にかけてを柔らかく見るのがよいでしょう。

子どもと話をするときは、目線を低くして診療しましょう。
後述しますが、子どもに好かれることは、受診が継続でき、外用薬も継続しやすくなるコツです。

服やおもちゃを褒める

服、靴を褒めましょう。
お母さんの服を褒めるのではありません。
子どもの服を褒めるのです。

診察室におもちゃを持ってくる子どももいます。
アトピー性皮膚炎で受診する子どもは基本的に元気ですので、いろいろなおもちゃを見せてくれます。
持ってきたおもちゃを褒めましょう。

子どもにとっても、病院は楽しいところと思ってもらえるようにしましょう。
好かれる医者が出した薬は、子どもも頑張って塗ってくれます。

外用薬を塗るのって、結構大変なんです。
お風呂あがりと朝と、1日2回塗布すると、子どもは薬を塗られているあいだは遊ぶことができませんから、嫌がって逃げるようになります。
子どもが逃げると、親も塗るのが大変で、外用薬を継続できなくなります。

子どもに好かれるように心掛ければ、もしかしたら子どものほうから自発的に薬を塗ってくれるようになるかもしれません。
(ダメなときはダメですが)

遠方からの来院を労う

お母さんに対しては、服や靴を褒めるのではなく、遠方からの受診を労いましょう。
待ち時間が長くなってしまった場合は、「お待たせしてすみませんでした」と謝罪しましょう。

たったこれだけのことで、次への受診に繋げられます。

遠方でもなく、待ち時間も長くないとき?
そういうときは、受診してくれたことをシンプルに褒めましょう。

「忙しいところ、欠かさず受診してくださってありがとうございます」

これだけで十分です。
お母さんのモチベーションは大きく上がります。

受容する

「湿疹がなかなか治らなく……。こんなに難渋するなんて、ただのアトピー性皮膚炎じゃなくて、もっと悪いものじゃないんですか?たとえば内臓の病気とか……」

こういう不安を訴えるお母さんはいます。
どう答えるのがよいでしょうか。

「内臓は関係ないです」

あまり良くはないです。
もう次から、この子どもは来ないかもしれません。

「全身のCTを撮りましょう」

これも良くないです。
Wiskott-Aldrich症候群を疑ったのだとしても、全身CTは意味がないと思います。

私であれば「内臓のことが気になるくらいに痒いのですね」と返答します。

もしくは「それは大変ですね」だけでもいいです。

オウム返しや要約、言い換えでいいのです。
お母さんが不安になっていることを共感しましょう。

沈黙を恐れない

「肘は痒いですか?ひざ裏はどうですか?ステロイドは使ってますか?しっかり濡れてますか?」

ついつい質問攻めにしていませんか?

イエスかノーで答えられる質問は、会話が弾まなくなります。
できれば自由に答えられる質問にしましょう。

「皮膚の調子はどうですか?」

「えっと……」

「たとえば肘ひざ裏はどうですか?痒くてステロイドを塗りますか?」

「あ、はい、そうですね」

こういう会話もよくありません。
外来が忙しいのは分かりますが、会話の先取りをすると、患者さんは自分の気持ちを伝えられなくなります。

ときには沈黙して、患者さんの言葉を待ちましょう。
そうすることで、患者さんが能動的に診療に関わっているという自覚が生まれます。

「どうして」や「なぜ」を使わない

日本は不思議なものです。
「どうして」という言葉には、非難の意味がにじみ出てしまいます。

「どうして毎日保湿剤を塗れないんですか?」

こんなことを言われたお母さんは、ひどく傷つくでしょう。
責められている感じがするからです。

「保湿剤を毎日塗れない理由はなんでしょうか?」

「きょうだいがたくさんいるので、朝の時間が十分とれないんです」

「なるほど、朝が忙しいのですね。朝は塗りやすいローションタイプを使ってみましょうか。この保湿剤であれば、手早く塗れますよ」

「どうして」ではなく「理由は何ですか?」という表現に変えるだけで、印象ががらっと変わります。
お母さんの気持ちを引き出し、解決策を医者と保護者が一緒に考えていくことができます。

ゴールを決める

ゴールが見えないとモチベーションは上がりません。
アトピー性皮膚炎のゴールを設定しましょう。

まずは、とにかく痒みを抑えることをゴールにしましょう。
痒くて痒くて夜中ずっと皮膚を掻きむしって、睡眠すらできないような子どもが、痒みが取れてすやすやと眠れるようにしてがえることを最初の目標としましょう。
適切なステロイドをしっかり使って、湿疹をとってあげましょう。

次の目標は、湿疹が悪くなったとき、ステロイドを使えばすぐに湿疹が治るというレベルを目指しましょう。
保湿だけである程度コントロールでき、時々皮膚の一部に湿疹が出るけれども、3日から7日ステロイドを塗ればおさまる、というところを目指しましょう。

その次の目標は、ステロイドをほとんど塗らずに寛解を維持できることを目指しましょう。
保湿のみで皮膚の炎症をコントロールでき、「そういえば最近、ステロイドを使ってないなあ」と思えるところをゴールにしましょう。

そして最後に、保湿すらしなくても湿疹が出ないところを目指しましょう。

ゴールを4段階で示し、そのゴールまであとどれくらいなのか見通しを伝えると、治療のモチベーションになります。

皮膚のきれいなところを見つける

どんなにアトピー性皮膚炎が強い子どもでも。全身を探せば、皮膚のわずかにいいところは見つかるはずです。

綺麗な皮膚があれば、「ここの皮膚はきれいですね。スキンケアを頑張れば、全身の皮膚がここのようにすべすべになりますよ」と伝えましょう。

健常な皮膚についての具体的なイメージが共有できます。
ゴールをイメージしやすくなると、モチベーションのアップに繋がります。

保湿剤を塗れていることを褒める

子どもに1日2回、全身にたっぷりと保湿をすることはとても大変です。
ただでさえ、お母さんは家事に追われています。
保湿を塗ってくれたことを感謝しましょう。

塗り薬を出すとき、「前回出した薬はまだ残ってますか?」と聞きます。

「もうあと1本しか残ってません」

という答えが返ってきたら褒めるチャンスです。

「しっかり塗ってくれているんですね。頑張っていますね」

この一言が、お母さんの外用薬に対する意識を大きく変えます。

実際に外来で塗ってみる

お母さんに、外用薬を持ってきてもらいましょう。
そして外来中に子どもに実際に塗ってあげましょう。

外用薬をどれくらい使うのか、ステロイドをどう使うのか、お手本を見せてあげましょう。

お手本を見せれば、医者の信用度がぐんと上がります。

まとめ

アトピー性皮膚炎の治療は、保湿とステロイドです。
しかし、医者は薬を出すだけであれば、アトピー性皮膚炎の治療は成功しません。
保湿剤とステロイドを処方するのは医師ですが、実際に塗るのはお母さんです。

12のコツは、言うなればコミュニケーションスキルです。
適切な声掛けで、お母さんの心のレセプターを開いてあげましょう。

アトピー性皮膚炎の治療はお母さんとともに進んでいきます。
お母さんを労いつつ、丁寧に診察していれば、必ずアトピー性皮膚炎は治ります。

1 個のコメント

  • […] 1年間で500人のアトピー患者を診ているという小児科の医師の方は「アトピーの基本治療はたった2点。十分な保湿と適切なレベルのステロイド。そして、治療を成功させるコツは継続した診療ができること」と断言しています。難しいことはありませんね。とにかく根気強く、専門医の診断を仰ぎながら治療を続けていくことが、アトピー性皮膚炎を治す一番の近道です。また、色素沈着に関しても、症状が重かった方でも「色素沈着はトランサミンを一日3回内服して薄くして、3年以上かかりましたが、今はほとんど目立ちません」というよう方がいらっしゃるように、シミの原因物質を抑制する効果を持つトランサミンを服用することで色素沈着を改善した方も多くいらっしゃいます。そうです、迷わずに専門医の診断を仰ぎましょう。 (参照:アトピー性皮膚炎の治し方。年間500人診療して気づいた12の治療法。) […]

  • ABOUTこの記事をかいた人

    小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。