私が医者になる前から、タミフルは10代に原則禁止となっていました。
それが、2018年から10代にもタミフルを処方できるようになる予定とのことです。
タミフルの使用制限で、私は2点困っていたことがありました。
今回の使用再開によって、この困っていたこと2点が緩和されると思います。
今回は、タミフル10代への使用再開に対する私の想いを書きます。
このページの目次です。
タミフル10代への使用が禁止になった経緯と対応
日本でタミフルが10代に使用禁止になった経緯と対応は、2007年3月20日に厚生労働省の指示にあります。
全文引用すると長いので、文意が分かりやすくなるように一部中略しています。
また元号や「今年」という表記は分かりにくいため、すべて西暦に置換しました。
経緯
(1) リン酸オセルタミビル(タミフル)は(中略)、2001年2月から販売されている。
(2) タミフルによる「精神・神経症状」については、因果関係は明確ではないものの、医薬関係者に注意喚起を図る観点から、2004年5月、添付文書の「重大な副作用」欄に「精神・神経症状(意識障害、異常行動、譫妄、幻覚、妄想、痙攣等)があらわれることがある(中略)」と追記した。
(3) 2007年2月に入り、タミフルを服用したとみられる中学生が自宅で療養中、自宅マンションから転落死するという痛ましい事例が2例報道された。このことなどを受け、万が一の事故を防止するための予防的な対応として、特に小児・未成年者については、インフルエンザと診断され治療が開始された後は、タミフルの処方の有無を問わず、異常行動発現のおそれがあることから、自宅において療養を行う場合、(1)異常行動の発現のおそれについて説明すること、(2)少なくとも2日間、保護者等は小児・未成年者が一人にならないよう配慮することが適切と考え、2月28日、その旨を患者・家族に対し説明するよう、インフルエンザ治療に携わる医療関係者に注意喚起した。
(4) 上記(3)のような予防的な対応を行ってきたが、2007年3月20日、タミフルの服用後に12歳の患者が2階から転落して骨折したとする症例が1例報告された。また、同日、2月上旬にタミフルの服用後に12歳の患者が2階から転落して骨折したとする症例についても報告がなされた。
これら個々の症例の評価は、今後の詳細な情報を受けて行われるが、タミフル服用後に発現したという事実が確認されたことから、(中略)更に医療関係者の注意を喚起するよう、中外製薬株式会社に指示したところである。
対応
(中略)現行の「警告」欄の記載を次のように変更し、あわせて「使用上の注意」を整備する。
(中略)
10歳以上の未成年の患者においては、因果関係は不明であるものの、本剤の服用後に異常行動を発現し、転落等の事故に至った例が報告されている。このため、この年代の患者には、合併症、既往歴等からハイリスク患者と判断される場合を除いては、原則として本剤の使用を差し控えること。
タミフル服用後の異常行動について
厚生労働省2007年3月20日
私が医者になったのは2009年ですから、その2年前にこのような出来事があったわけです。
タミフルが10代に使えない問題点2つ
2007年にはすでにリレンザがありましたし、2010年にはラピアクタ、イナビル、2018年にはゾフルーザができました。
「タミフル以外にも抗インフルエンザ薬はあるので、現場はそれほど困らなかったのでは?」と思われるかもしれません。
ですが私は、2点困っていることがありました。
リレンザ・イナビルは喘息患者で使いにくい
気管支喘息及び慢性閉塞性肺疾患等の慢性呼吸器疾患のある患者に本剤を投与する場合には本剤投与後に気管支攣縮が起こる可能性があることを患者に説明することとし、必要時に使用できるよう短時間作用発現型気管支拡張剤を患者に所持させること。
リレンザの添付文書
インフルエンザウイルス感染症により気道過敏性が亢進することがあり、本剤投与後に気管支攣縮や呼吸機能の低下がみられた例が報告されている。気管支喘息及び慢性閉塞性肺疾患等の慢性呼吸器疾患の患者では、患者の状態を十分に観察しながら投与すること。
イナビルの添付文書
リレンザの添付文書に書かれた「ハイリスク患者を対象とした臨床試験成績」を読む限りでは、喘息はそれほど大きなリスクではないように思えます。
ですが、やはり喘息の子どもにリレンザ・イナビルは処方しにくいところがありました。
アメリカ小児科学会は、喘息の児に対して抗インフルエンザ薬を使用することを推奨しています。
それについてはこちらに書きました。
喘息の子どもは抗インフルエンザ薬を推奨されているにも関わらず、喘息のために吸入薬が使いにくく、かつ10代であればタミフルも原則使用できないという状況に私は困っていました。
ちなみに、上記の記事にも書きましたが、アメリカでは10代の子どもにタミフルを制限してはいません。
タミフルさえ飲まなければ異常行動は起きないという誤解
タミフル制限で困っていたことはもう1つあります。
それは、タミフルさえ飲まなければ異常行動は起きないという誤解です。
インフルエンザ様疾患罹患時の異常行動と使用薬剤の関連に関する研究(日本医事新報 2015年 4781号 Page43-49)では、異常行動を起こした人と抗インフルエンザ薬の関係を次のように報告していました。
タミフル以外の抗インフルエンザ薬でも異常行動は起きていますし、そもそも抗インフルエンザ薬を使っていなくても異常行動は起きています。
「タミフルさえ使わなければ大丈夫」というのは誤解です。
ですが、タミフルだけ10代に禁止措置を受けているため、このような誤解を招くことになります。
まとめ
10代にタミフルが使用できるようになり、喘息の児への抗インフルエンザ薬の選択肢が増えました。
また、タミフルだけが危険という誤解が解け、「小児・未成年者がインフルエンザにかかった時は、抗インフルエンザウイルス薬の種類や服用の有無によらず、少なくとも治療開始後2日間は小児・未成年者を一人にしない」という原則を伝えやすくなりました。
いっぽうで、タミフルの制限が解除されたとはいえ、インフルエンザに伴う異常行動がなくなったわけではありません。
厚生労働省は異常行動による危険を回避するため、次のような対策をしています。
小児・未成年者が住居外に飛び出ないための追加の対策
(1)高層階の住居の場合
玄関や全ての部屋の窓の施錠を確実に行う(内鍵、補助錠がある場合はその活用を含む) 。
ベランダに面していない部屋で寝かせる。
窓に格子のある部屋で寝かせる(窓に格子がある部屋がある場合)。(2)一戸建ての場合
(1)に加え、できる限り1階で寝かせる。
今回のタミフルの改訂を機に、正しい対策が広まることが期待されます。