おたふくかぜの予防接種は何回すべきですか?

突然ですが、「おたふくかぜの予防接種」をお子さんは何回接種しましたか?
または何回する予定ですか?

  • 0回
  • 1回
  • 2回
  • 3回

0回という人もいるでしょう。
おたふくかぜワクチンは定期接種ではなく、「任意接種」です。
任意接種とは受ける必要がないワクチンだという意味では決してありませんが、接種を希望しない人は確かに存在します。

1回という人もいるでしょう。
おたふくかぜの予防接種は1歳以上からでき、1回0.5mlを皮下に接種するのが通常です。
ネルソン小児科学には、1回の接種での有効率は64%であったとあります。

2回という人もいるでしょう。
日本小児科学会は1歳と小学校就学前1年間の2回接種を推奨しています。
世界保健機関(WHO)も1回接種のおたふくかぜワクチンで予防効果が不十分であるとして、2回接種を推奨しています。
ネルソン小児科学には、2回の接種での有効率は88%であったとあり、1回接種の64%より高い数値です。
おたふくかぜを定期接種で行っている117か国中、110か国(94%)が2回接種を行っています。(予防接種に関するQ&A集2016)

それでは、3回接種はどうでしょうか?
おそらく日本でおたふくかぜの予防接種を3回受けたという人はいないと思います。
ですが、アメリカではおたふくかぜワクチン3回接種に関する報告も出ています。

今回は、おたふくかぜワクチンの3回接種の有効性を述べた論文を紹介します。

おたふくかぜの大流行に対するワクチン3回接種の有効性

Effectiveness of a Third Dose of MMR Vaccine for Mumps Outbreak Control(N Engl J Med 2017; 947-956)を紹介します。
New England Journalといえば、医学の世界でトップジャーナルです。

背景

アメリカでは麻疹・風疹・おたふくかぜ混合ワクチン(以下、MMR)の2回接種を定期接種するようになって、おたふくかぜが99%減少されたと2005年に報告されました。
しかし、いまだにおたふくかぜは毎年報告されており、2006年、2009年、2010年、2016年、2017年には数千件単位の集団発生が生じています。
集団発生はMMRを2回以上接種している大学生の間で起きています。
これは、年月が経過することでMMRの効果が落ちていくこと、MMRの有効率は65-90%であって100%ではないこと、感染の可能性がある若年者が高密度に存在することが原因と考えられます。

2015年の夏から秋にかけて、アイオワ大学でおたふくかぜが大流行しました。
アイオワ大学は学生に3回目のMMRを接種するキャンペーンを行いました。

われわれは3回目ワクチン接種の有用性を検討しました。

方法

アイオワ大学には22000人の学生が在籍しています。
おたふくかぜが大流行した期間は2015年8月24日から2016年5月13日までとしました。
この期間内に、希望する学生は3回目のMMRを接種することができます。

3回目の接種を行わなかった学生と、3回目の接種を行った学生とで、おたふくかぜの罹患率を比較します。
なお、おたふくかぜの潜伏期間(約16-18日)や、予防接種による免疫が確立するのに要する日数を考慮して、解析が行われています(少し表現が複雑なので詳細は省きます)。

2回目の接種から何年経過したかもデータとして集めました。

結果

20496人の大学生のうち、2015年8月24日までにMMRを2回接種していた学生は19705人で、そのうち4783人(24.3%)が2016年5月13日までに3回目のMMRを接種しました。

おたふくかぜに罹患したのは259人(1.3%)でした。
3回接種した学生は0.67%、2回接種の学生は1.5%であり、有意差がありました。

また、2回接種から13年以上経過している学生はおたふくかぜにかかりやすいという結果でした。

議論

本研究は、3回目のMMRがおたふくかぜの流行に有効であることを示しました。
3回目のMMRはおたふくかぜの感染リスクをさらに60-78%低下させました。

また、13年以上前にMMR2回目を接種した学生は、より直近に接種した学生よりも感染リスクが9-14倍高い結果でした。

本研究では3回目接種をした学生は4人に1人しかいなかったにも関わらず、感染を大きく減らせました。
これは大きな注目に値します。

また2回目のMMR接種が13年以内であれば有効率は89%でしたが、13年以上だと有効性は32%にまで低下しました。

おたふくかぜの流行を制御するために、MMRを3回接種するというのは新たな選択肢になりえます。

まとめ

おたふくかぜワクチンの3回接種の効果を述べた論文を紹介しました。
アメリカでは3回目への動きすら感じられます。

もちろんアメリカと日本ではおたふくかぜワクチンのタイプが違います。
アメリカで使われているJeryl‒Lynn株は、無菌性髄膜炎の頻度が0.0001%とされており、日本のHoshino株またはTorii株と比べて安全性が高い反面、長期効果が乏しいのではないかという指摘もあります。
単純に、日本のおたふくかぜの予防接種も3回にすべきだとは言えません。

おたふくかぜの予防接種を何回すべきかはまだ結論が出ていません。
ですが、本論文は日本でのおたふくかぜの予防接種の立ち位置にも影響を与える報告だと感じました。

3回目の接種にも有用性があったという報告がある以上、「2回は接種しておいたほうがよい」と考えるのは自然なことだと個人的に考えます。

なお、そもそも接種すべきかどうかの話はこちらに書きました。

おたふくかぜの予防接種はすべき?有効性と副作用の観点から。

2018年1月11日

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。