夜尿症とは「睡眠中に無意識のうちにおしっこをしてしまうこと」です。
夜尿症は小学校入学時でも10人に1人罹患しているというきわめてありふれた疾患です。
夜尿症が続くと、自尊心が低下するなど精神的な弊害があるとも言われています。
まずは夜尿症のことを知り、日常生活でできることや、受診の目安を知りましょう。
具体的な症例提示を知りたいときは、こちらも一読ください。
このページの目次です。
正常な排尿
子どもは2~4歳になると、排泄訓練ができるようになってきます。
お漏らししなくなるには4つの要素が必要です。
- 膀胱が大きくなり、尿がある程度貯められるようになる。
- 膀胱に尿がたまる感覚を理解する。
- 意識的に外括約筋をしめておしっこを我慢できるようになる。
- お漏らししたくないという気持ちが芽生える。
成長につれ、この4つの要素が十分育つと、お漏らししなくなります。
そして寝ているあいだにも、お漏らししないという条件付けができると、おねしょもしなくなります。
夜尿症の定義
夜尿症診療ガイドライン2016では以下のように定義されています。
- 5歳以上の小児の就眠中の間欠的尿失禁である。
- 昼間尿失禁や、他の下部尿路症状の合併の有無は問わない。
- 1か月に1回以上の夜尿が3か月以上続く。
- 1週間に4日以上の夜尿を頻回、3日以下の夜尿を非頻回とする。
夜尿症の有病率
小学校入学時に夜尿症は10%いると言われます。
10歳のときに夜尿症は3%います。
夜尿症は何も治療しなくても、1年に14~16%は自然治癒します。
積極的な治療をすることで治るスピードが2~3倍になります。
(つまり、治療すれば1年で30%、2年で50%くらいが治ります)
治療すると、治療しなかった場合よりも2年早く治ったと感じることが多いです。
夜尿症の受診のタイミング
5歳未満ではそもそも夜尿症ではありません。
4歳の子がおねしょをしても、それはまだ発達の段階といっていいでしょう。
5歳以上からは夜尿症の定義に当てはまります。
ですが、5歳のうちは、夕食から水分は控える、寝る前におしっこを済ませるという生活指導で様子をみてかまいません。
受診のタイミングは、6歳以上になってもおねしょが続くときです。
夜尿症の分類
夜尿は「一次性か二次性か」「単一症候性か非単一症候性か」の2つの分類がされます。
一次性夜尿
生まれたときからずっとおねしょをしている場合、一次性夜尿といいます。
おねしょがなかった期間はあってもいいですが、6か月未満です。
夜尿症の75~90%は一次性夜尿になります。
二次性夜尿
おねしょが半年以上治っていた期間がある場合は、二次性夜尿といいます。
こちらの夜尿には、何か原因が隠れているかもしれません。
尿路感染や二分脊椎、てんかん、睡眠時無呼吸、糖尿病、尿崩症、尿道狭窄、甲状腺機能亢進などがないかチェックします。
また両親の離婚、度重なる入院、虐待などストレスが原因で二次性夜尿になることもあります。
単一症候性夜尿
昼間にお漏らしがないケースです。
75%がこれです。
非単一症候性夜尿
- 排尿頻度が多い(1日8回以上)、または少ない(1日3回以下)。
- 昼間にお漏らしする。
- 突然尿意が襲ってきて、がまんできなくなる。尿こらえ姿勢がある。
- おしっこをしようとトイレに行っても、なかななか出ない。
- 尿が途中で止まる。そしてまた出だす。
- 尿の勢いが弱い。つよくいきまないと出ない。
- 残尿感がある。
- トイレに行ったあとに、パンツをはくと、そこでまたおしっこが出てしまってパンツが汚れる。
- おしっこするときに痛い。
以上を認めるときは、非単一症候性夜尿に分類されます。
そして非単一症候性夜尿は、過活動膀胱が原因であることが多いです。
排尿障害プラクティス Vol.23 No.2 2015によると、小学生の17.8%が過活動膀胱であり、子どもの過活動膀胱は多いです。
治療は定時排尿(決まった時間にトイレに行く週間をつける)、排便コントロール(過活動膀胱は便秘症を合併しやすく、便秘を治療すると治ることが多い)、そして抗コリン薬(プロピベリンやトルテロジン)です。
まず過活動膀胱を治さないと、非単一症候性夜尿は治りにくいです。
夜尿症の原因
前述の通り、二次性夜尿や非単一症候性夜尿には原因があります。
ネルソン小児科によると、両親が夜尿症でない場合に子どもが夜尿症になるのは15%ですが、両親のいずれかが夜尿症だと子どもは44%、両親いずれも夜尿症だと子どもは77%夜尿症になります。
また一卵性双生児で片方が夜尿症だともう片方も68%で夜尿症になります。
以上から、夜尿症には遺伝的な要因があると言われています。
夜尿症の治療
二次性夜尿や非単一症候性夜尿は、その原因をまず治療します。
小さな診療所ではこれらの鑑別が難しいので、大きな病院に紹介されることもあるでしょう。
一次性夜尿で単一症候性夜尿であれば、診療所でも十分に治療できます。
ネルソン小児科の治療計画が興味深いので引用します。
- 就寝の3時間から3時間半前にとる夕食では水分を200ml以上とらないようにし、それ以降は水分をとらない。
- 睡眠前に膀胱を空にする。
- 就寝時に夜尿をしない「決意」をする。
- 薬剤の作用機序、湿度アラーム、薬剤の副作用について考える。投薬するか、アラームを用いる。
- 投薬またはアラームは「コーチ」であり、小児は「プレイヤーである」と助言する。
- 体内および体外の正のバイオフィードバック信号により、膀胱の中枢神経系コントロールが加速することを助言する。
- カレンダーに夜尿の有無を記載する。
- 小児が積極的に自分の衣類や寝具をきれいにするよう促す。
- 少なくても2週間ごとに外来通院するか、電話をかける予定を入れ、夜尿しなかったときや、夜尿しないよう努力したときには正の強化を行う。
- 28日間連続夜尿をしなくなるまで、アラームの使用を継続し、その後使用を中止し、指示通りに薬剤を使用する。
- 薬剤またはアラームを漸減、中止すると夜尿が再発する場合は、夜間のみ薬剤またはアラームを再開する。
- モチベーションをもって努力したにもかかわらず、小児が毎晩夜尿をする場合は、代わりの薬剤もしくは追加の薬剤を処方するか、アラームを用いる。そして中間遺尿の有無を再確認する。
上記をまとめると、水分のとりかたや寝る前のトイレなどの生活指導と、お薬やアラーム療法などの積極的治療と、「決意」や「プレイヤー」など心の持ち方の3点が重要です。
夜尿症診療ガイドラインを見ると、様式トイレに子どもが座ると、足が地面に着かなくて、その不安定な姿勢では骨盤底筋が収縮してしまい、最後までおしっこが出にくいようです。
足が浮かないように、便座の前にステップをおいて、その上に足を置くようにすると、膀胱を空っぽにしやすいでしょう。
「心の持ち方」という意味では、おねしょしなかった日は褒めてあげましょう。
子どもはカレンダーにシールを貼るのが大好きなので、「よくできたシール」をカレンダーに貼るのもいいかもしれません。
薬物治療
デスモプレシン(商品名ミニリンメルト)はおしっこの作られる量を減らす薬です。
夜に飲むことで、夜間のおしっこの作られる量が減り、おねしょしなくなります。
6歳以上の子どもに適応があります。
薬物療法は即効性があります。
効果を感じると、子どもの自信にもつながります。
私個人の推察ですが、「おねしょしなかった!」「褒めてもらえた!」という感情が、精神面での治療につながっていると思います。
また、夜はおねしょをせずに何か月もたつと、そのうち脳が「夜はおしっこをしないもの」と条件づけられて、1年2年もすれば薬を中止できるようになる可能性が高いです。
アラーム療法
水分を感知して鳴るアラームを寝る前にパンツにセットします。
夜間にアラームが鳴れば、アラームをとめて、トイレに行き、残りの排尿を済ませ、パンツやパジャマやシーツを替えて、寝ます。
無意識のうちに出てしまっているおしっこをセンサーによってバイオフィードバックすることで、そのうち夜間におしっこをしなくなります。
ネルソン小児科によると、8~12週間の使用で、75~95%で有効されています。
薬物療法がなぜ夜尿症に有効なのかは、こちらの記事を参照ください。
薬物とアラームどちらがいいか
ネルソン小児科ではアラーム療法のほうが推奨されており、薬物療法はアラーム療法では効果が不足する場合に考慮されています。
国際小児尿禁制学会では夜間が多尿で、膀胱の容量は正常な場合には薬物療法を第一選択とし、それ以外の症例ではアラーム療法を第一選択としています。
夜尿症診療ガイドラインではどちらの治療の推奨度も同じです。
アラーム療法は間違いなく有用な治療法ですが、夜間に子どもがアラームで起こされるのがかわいそうという気持ちが出てきます。
治療を途中でやめてしまう子どももいます。
またアラームの購入に費用がかかります。
薬物療法は効果がすぐ出るので、治療を途中でやめてしまうことが少ないです。
ですが、お薬をやめるとまた夜尿症が出るという再発率の高さや、水中毒や低ナトリウム血症からけいれんを起こす副作用があり、注意が必要です。
アラーム療法は睡眠不足になる可能性がありますが、それ以外に副作用はありません。
どちらがいいかは一概には言えません。
お薬とアラームのいい面と悪い面を理解した上で、小児科の先生と相談して決めましょう。
リンク
夜尿症について詳しいサイトを紹介します。
まとめ
- 6歳になってもおねしょが続くときは小児科に相談しましょう。
- 小学校入学時の夜尿症は10%います。焦らなくても大丈夫です。
- 治療をすると、2年早く治ります。
- 生活指導と、精神的な支持と、積極的治療の3つの治療法が大切です。
- 積極的治療にはお薬とアラーム療法があります。どちらも一長一短ですので、小児科の先生と相談して決めましょう。