6歳以上の毎晩おねしょは治療可能。夜尿症の症例です。

注意事項:個人情報保護の観点から、この記事の症例提示は架空のものとなっております。ここに登場する患者の名前・年齢・性別・検査データ・臨床所見などは、科学的な矛盾が生じないように配慮されつつ、すべて架空のデータであることをご了承ください。

もうすぐ小学生なのにおねしょが続く

6歳のとおる君はいつも元気です。
ですが、お母さんには心配事があります。

お母さん
「ああ、今日もおねしょかあ」

とおる君は毎晩おねしょをしてしまうのです。

とおる君は3歳頃からトイレでおしっこができるようになりましたので、日中はおむつをしていません。
しかし、夜寝ていると必ずおねしょをしています。

寝る前にトイレに行かせたり、夜ご飯を食べ終えたから水分は控えたりしています。
それでも、おねしょはいっこうに減りません。
おむつではなく、パンツで寝かせたこともありました。
しかし、パンツとパジャマとお布団がおしっこで濡れただけです。

そういうわけで、とおる君は寝るときはいつもおむつをして寝ています。

お母さん
「どうしても、周りのお友達と比べてしまうな……」

周りのお友達は、3歳でおむつが外れた子が多いようです。
5歳になると、8割くらいのお友達がおねしょをしていませんでした。

とおる君が5歳のとき、お母さんは小児科に相談に行ったことがありました。
小児科の先生は、寝る前の水分制限と、寝る前にトイレに行くこと、そして「起こさない・焦らない・怒らない」ことを指導しました。

お母さん
「先生は焦らないでと言ってたけれど、もうすぐ小学生だし、いつまでもおねしょをしていたら恥ずかしいわ……」

6歳でおねしょをしているなんて、うちの子どもだけかもしれません。
お母さんは心配になって、とおる君を連れて1年ぶりに小児科を受診しました。

小児科専門医からのワンポイント
夜尿症ガイドライン2016によると、夜尿症とは5歳以上の子どもが3か月以上連続で月に少なくても1回以上睡眠中に排尿することです。まだ5歳であれば様子を見ることが多いですが、6歳以上で週に3回以上のおねしょが続き、寝る前に水分を制限したり、トイレ行ったりしても治らない場合は、小児科や泌尿器科を受診することが望ましいとされます。

 

小児科を受診

小児科専門医
「「1年ぶりですね。夜尿の様子はどうですか?」
お母さん
「それが、まったく変わらないです。毎晩のようにおねしょをしてしまって。周りのお友達はみんなおねしょをしていないと思うんです。なんでうちの子だけ治らないのでしょうか」
小児科専門医からのワンポイント
実は6歳児の約13%が月に1回以上のおねしょをしています。10歳になると、月に1回以上おねしょするのは3%になります。兵庫県には自然学校といって小学5年生のときに4泊5日の合宿をします。このとき、夜尿症の相談に来られるお子さんが多いです。10歳の夜尿症は3%ですから、一学年100人であれば、実は3人くらい夜尿症を持っています。「うちの子どもだけ……」と心配になる必要はありません。
小児科専門医
「なるほど、お母さんは心配になりますね。とおる君は、おねしょが治っていた時期はありませんか?」
お母さん
「いえ、治っていた時期はありません」
小児科専門医
「とおる君は昼間にお漏らししてしまって、パンツを汚してしまうことはありますか?」
お母さん
「昼間は大丈夫です。夜だけなんです」
小児科専門医からのワンポイント
この2つの質問はとても大事です。おねしょが治っていた時期が6か月以上あるとき、二次性夜尿症といって、なんらかの基礎疾患(例えば二分脊椎による神経因性膀胱、糖尿病や尿崩症のようにおしっこがすごく増える病気など。両親の離婚などのストレスでも二次性夜尿になりえます)があって夜尿症を起こしている可能性があります。二次性夜尿は治りにくく、原因となる疾患をまずは治さなければなりません。いっぽうで、生まれてからずっと夜におしっこが出てしまうことを一次性夜尿症といい、夜尿症の75~90%を占めます。一次性夜尿症のほうが治りやすいです。
また、日中にもお漏らししているときは、非単一症候性夜尿症と分類され、尿路感染や排尿筋不安定などがある場合があり、こちらも治りにくい夜尿症です。
とおる君は生まれてからずっとおねしょがあり、昼間はお漏らししないので、一次性夜尿症でかつ単一症候性夜尿症となります。これは治りやすいタイプです。

先生は他にもいくつか質問をしてきました。

  • 1日のおしっこの回数。
  • おしっこが途中で止まって、何回かに分けて出ることがないか。
  • かかとを股に当てたり、足をクロスしておしっこを我慢していることはないか。
  • 便秘はないか。
  • 腎臓の感染症をしたことはないか。

とおる君は1日4~7回くらいおしっこに行きます。
おしっこが途中で止まることはありませんし、我慢してこらえる姿勢もとりません。
1日1回くらい排便があり、便秘はありません。
腎臓の感染をしたことはありません。

身体診察と尿検査

続いて、小児科の先生はとおる君を診察しました。
口の中や背中、お腹、おちんちんをよく診ていました。

小児科専門医
「特に扁桃も腫れていませんし、お腹に便を触れません。背中にくぼみもありません。尿道下裂や包茎もありません。発達も正常ですし、身体診察に異常はなさそうです」
小児科専門医からのワンポイント
扁桃腫大による睡眠時無呼吸で夜尿を認めるケースがあり、アデノイドの24~42%を夜尿症を合併したという報告もあります。同じ理由で肥満も夜尿の原因になります。また、夜尿症の約10%が便秘症であり、便秘を改善させることで夜尿が改善する可能性があります。背中を診るのは、潜在性二分脊椎という神経の病気がないかを診ています。尿道下裂や包茎も夜尿症の原因となります。

続いてとおるくんはおしっこの検査がされました。

小児科専門医
「糖尿病や尿崩症、水中毒や感染ではなさそうですね。次は、排尿日誌をつけてみましょう」

排尿日誌

先生はお母さんに日誌を渡しました。

小児科専門医
「これに毎日の飲んだ水分の量、おしっこの回数、おしっこの量、おねしょがあったか、昼間にお漏らしがあったか、便が出たかを書いてください。摂取した水分の量は、水筒にお茶を入れて、毎回そこから飲むようにしておけば計算しやすいですよ。紙パックのジュースなども全体の量が書いてありますから、飲み残した量を引き算すれば、飲んだ量が分かります。おしっこは1日1回限界まで我慢したときの尿の量も測ってください。100円ショップで計量カップを買うと、おしっこの量が測れますよ。あと、夜は必ずトイレに行ってから寝てください。そして、夜におむつに出てしまったおしっこの量と、起床時のおしっこの量を足し合わせて、夜間尿量というのも計算してください」
お母さん
「結構大変そうですね……」
小児科専門医
「そうですね、ちょっと大変だと思います。でも、とおる君の夜尿症を詳しく診断するために大切な情報ですので、7日間頑張ってみてください」
お母さん
「分かりました!」

7日後、排尿日誌をつけて小児科を再診しました。

小児科専門医
「1日1200mlくらい水分を摂っていますね。6歳の子どもにはちょうどいい量です。毎日排便があって、昼間のお漏らしはないですね。おしっこは日中に1日6回くらいで、がまんさせたときのおしっこで120mlくらいですね。夜のおしっこの量は全部で230mlくらいです」
お母さん
「どうなんでしょうか」
小児科専門医
「とおる君は膀胱が小さめで、また夜中に作ってしまうおしっこの量も多いみたいです。ですが、診察や検査でとおる君には大きな異常がありませんでしたので、とおる君の夜尿症は比較的なおりやすいタイプだと思います。これなら診療所でも診ていけますよ」
お母さん
「そうなんですね」

先生の言葉に、とおる君のお母さんは安心しました。

治療

小児科専門医
「まず、おねしょは子どもの失敗ではありません。おねしょをしたことに対して、お母さんがとおる君を叱っても、おねしょは治りません。おねしょは時間がかかりますが、やがて治ります。焦らず、怒らず、行きましょう。また、夜中にとおる君を起こして、トイレに行かせても、夜尿症自体は治りません。夜中起こすことは必要なことではありません」
お母さん
「起こさない、焦らない、怒らない、ですね」
小児科専門医
「その通りです。17時以降の水分は少なくしたいところです。とおる君が1日1200ml飲むのなら、午前中に500ml、午後に500ml、そして17時以降は200mlくらいが目安ですね。また17時以降の甘いものや、カフェインも控えてください。できれば夕食は塩分控えめがいいですね」
お母さん
「分かりました。他にできることはありますか?」
小児科専門医
「膀胱訓練というのもやってみましょう。日中、とおる君がトイレに行きたくなったら、テレビを見せたり絵本を読んだりして、10~30分ほどトイレに行くのを我慢させてみましょう。また、夜中冷えるとおねしょしやすいものです。冬は電気カーペットを使ってみてもいいかもしれませんね。そして、ミニリンメルトというお薬も始めてみましょう。舌の上に置くと、自然に溶けますので、水なしで飲んでくださいね」
お母さん
「はい、やってみます!」
小児科専門医からのワンポイント
アラーム療法という治療もあります。パンツの中に水分を感知すると鳴るアラームをセットしておき、夜尿があるとアラームが鳴って、子どもが起きます。これを3~4か月続けると、条件付けがされて、夜中におねしょしなくなることがあります。アラーム療法は夜尿症の2/3に有効とされています。

 

その後

先生から教わった生活指導と、ミニリンメルトを飲むことで、夜尿の回数が大きく減りました。
毎日おねしょしていたのが、週に1回くらいになりました。
そのため、オムツはもう外しています。

とおる君も、オムツが外れたことで、顔つきがお兄さんっぽくなったような気がします。

ミニリンメルトは夜尿が完全になくなるまで続けるようです。
半年から2年くらい投与しても問題ないということでした。

小児科専門医
「夜尿症の治療は気長にみていきましょう。生活指導や薬をすれば、治療しなかった場合よりも2年早く治るというイメージです。必ず治りますから、安心してみていきましょう」

まとめ

  • 6歳で生活指導をしても改善しない夜尿が毎日続いた。
  • 診察と尿検査と排尿日誌の結果、治りやすいタイプの夜尿症と診断された。
  • 生活指導とミニリンメルトで、夜尿の回数は大きく減った。

おねしょはありふれた子どもの症状です。
もし夜尿があっても、子どもやお母さん自身を責めたりしないでください。
そして夜尿のなかった日はしっかり褒めてあげましょう。
本人の治そうという意欲が大事ですので、家族全員が協力して「夜尿症は治るのだ」ということを本人に自覚させ、安心させてあげましょう。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。