溶連菌性咽頭炎の症例提示。発症から完治まで小児科専門医が徹底解説。

注意事項:個人情報保護の観点から、この記事の症例提示は架空のものとなっております。ここに登場する患者の名前・年齢・性別・検査データ・臨床所見などは、科学的な矛盾が生じないように配慮されつつ、すべて架空のデータであることをご了承ください。

たかし君は7歳、小学校1年生の男の子です。

今は2月です。
学校では一時期よりは減っているものの、まだまだインフルエンザが流行っています。

小児科専門医からのワンポイント
ネルソン小児科学によると溶連菌感染は5~15歳に多く、特に6~9歳に多いとされ、アメリカ北部地域では冬から早春にかけて多いと記載されています。日本での報告は、小児科診療2014年11月号の中山栄一先生の記事には、2~10歳に多く、春から初夏、秋から初秋に多いものの、年中みられると書かれています。

 

発熱1日目

ある夜、たかし君の元気がありません。
ご飯を食べたくないと言うのです。
熱を測ると、39.0℃もあります。

たかし君は熱が高いものの、水分は摂れます。
ただ、お茶を飲むときに「のどが痛いー」と言います。

お母さん
「インフルエンザかな……」

インフルエンザは熱が出てすぐ検査しても、分からないということを聞いたことがあります。

お母さん
「夜間応急診療所に行っても、すぐにはインフルエンザって分からないよね。明日の朝になったら、小児科医に連れていこう」

お母さんは今晩は様子を見ることにしました。

発熱2日目

翌朝、お母さんはたかし君を小児科に連れていきました。

小児科専門医
「なるほど、昨日から熱が出て、のども痛いんですね。咳や鼻水はどうですか?」
お母さん
「咳や鼻水はあまり気になりません」
小児科専門医
「そうですか。咳や鼻水が目立たないインフルエンザもありますから、なんとも言えません。診察をしてみましょう」
小児科専門医からのワンポイント
ネルソン小児科によるとインフルエンザの51~75%に咳が出て、26~50%に鼻閉や鼻炎症状が出るとされています。咳が出ないインフルエンザは珍しいです。いっぽうで、溶連菌は基本的に咳が出ません。しかし、溶連菌感染はウイルス性上気道炎(いわゆるカゼ)に伴って発症することもあるので、「咳があるから溶連菌ではない!」としていると、溶連菌を見逃します。

先生は、胸の音を聞いた後、口の中を診ました。

小児科専門医
「胸の音はきれいです。咳も目立ちませんから、肺炎ということはないでしょう。のどが真っ赤です。やはりインフルエンザかもしれませんね。さっそく検査をしてみましょう」
小児科専門医からのワンポイント

6歳以上の場合、胸の音がきれいでも、しつこい咳があれば、マイコプラズマの可能性があります。「胸の音はきれいなので肺炎ではないでしょう」と言っていいのは、せいぜい3歳までです。

典型的なマイコプラズマ肺炎の症例は、こちらの記事に書きました。同じ7歳ですが、溶連菌とは経過がぜんぜん違います。あとで読んでみると、参考になると思います。

マイコプラズマで肺炎に!?典型的な7歳の症例提示。

2017年1月6日

先生は、細い綿棒をたかし君の鼻に入れ、インフルエンザの検査をしました。

20分ほどして、検査結果が出ました。

小児科専門医
検査結果は陰性でした。インフルエンザにしては咳や鼻水が目立たず、インフルエンザではない可能性も十分にあります」
小児科専門医からのワンポイント
検査前確率が70%以上あれば、たとえ検査が陰性でもインフルエンザと診断してタミフルを出すことがあります。ここでは小児科医の先生はインフルエンザとは診断しませんでした。それは、咳嗽や鼻汁が目立たなかったことで、インフルエンザの検査前確率は70%未満だと考えたからです。この70%という基準については、こちらの記事も参考にしてください。

インフルエンザを検査すべきではない時。判断を左右する4%と70%の壁。

2017年2月19日

お母さんはインフルエンザだと思っていたので、安心したような不安なような複雑な気持ちになりました。

お母さん
「インフルエンザでないなら、診断はなんなんですか?」
小児科専門医
確率的に高いのは、いわゆるカゼです。カゼのウイルスによって、のどに炎症を起こしている可能性が頻度的には多いです。ただのカゼなら、明日には熱が下がっていることもあるでしょう。ですが、カゼ以外の病気であることも十分にあります。昨晩から熱が出たばかりなので、これから症状がいろいろ出てくることもあります。経過をみていくことで、これらの病気は診断できるようになります。幸いにも、たかし君は水分が摂れており、現時点で脱水を起こしていることはありません。明日になっても熱が下がっていなければ、もう一度受診してくれませんか?よりはっきり診断が分かるかもしれません」
お母さん
「分かりました」
小児科専門医
「今日は解熱鎮痛薬をお出ししますね。機嫌がよく、水分が摂れて、夜も眠れるようなら解熱薬は使う必要はありません。すごくしんどそうで、水分も摂れない場合は、解熱鎮痛薬を使ってください。熱が少し下がって、のどの痛みが取れたら、水分が摂れて、夜も眠れるようになるかもしれません」
お母さん
「はい!」

たかし君は家でも相変わらず39℃くらいの熱が続きました。

しんどそうではありましたが、水分は摂れ、夜も眠れていましたので、解熱鎮痛薬は使いませんでした。

発熱3日目

翌朝も熱が続いています。

お母さんはたかし君を再び小児科に連れていきました。

小児科専門医
「今日で発熱3日目ですね。ただのカゼでも熱が3日続くことはありますが、そろそろ色々な病気を検査しかなければなりませんね。のどが真っ赤ですので、熱の原因はやはりのどだと思います。もう一度インフルエンザの検査をするとともに、溶連菌とアデノウイルスも調べてみましょう。それでもし診断がつかなければ、採血もしてみましょう」
小児科専門医からのワンポイント

いわゆる学童期の発熱では、インフルエンザ、アデノウイルス、溶連菌の迅速検査3点セットになりがちです。なお、乳児の場合、インフルエンザ・RSウイルス・ヒトメタニューモウイルスの3つを迅速検査したくなりますが、保険の問題でどれか2つまでしかできませんので注意です。

インフルエンザと溶連菌を同時に検査した症例として、こちらの記事も参考にしてください。こちらでは、インフルエンザが陽性になっています。

インフルエンザで熱性けいれん!?症例提示part1。

2017年1月5日

たかし君はインフルエンザの検査で鼻をぐりぐりされたあと、アデノウイルスの棒と溶連菌の棒でのどの検査を2回されました。

小児科専門医
溶連菌が陽性です。診断は溶連菌性咽頭炎です
小児科専門医からのワンポイント
溶連菌の迅速検査は、感度90%、特異度95%以上とされます(出典:小児科診療2014年11月号)。古典的猩紅熱(典型的に発熱と苺舌と発疹が見られるケース)で検査が陰性になったときは偽陰性(本当は溶連菌感染だが、検査は陰性になった)と考えてもいいかもしれませんが、それ以外のときは検査結果に従って診断をすべきでしょう。
お母さん
「溶連菌って、なんですか?」
小児科専門医
「溶連菌とは、正式には溶血性レンサ球菌と呼ばれる細菌です。カゼやインフルエンザはウイルスの仲間ですが、溶連菌はウイルスではなく細菌です」
お母さん
「治るんですか?」
小児科専門医
「安心してください。細菌ですので、抗生剤がよく効きます。抗生剤を飲めば、24時間で熱が下がることが多いです。人にもうつらなくなります」
お母さん
「よかったです。家で気をつけることはありますか?」
小児科専門医
「溶連菌は移りやすい病気です。潜伏期間が2~5日ありますから、きょうだいやお母さん・お父さんも2~5日で熱が出る場合は、のどの検査を受けてください。のどが痛いときは、熱いものや辛いもの、すっぱいものは避けましょう。明日には熱が下がっていると思いますから、そうなればお風呂に入って大丈夫です」
お母さん
「そうなんですね」
小児科専門医
「あと、大切なことを伝えます。抗生物質は10日間しっかり飲んでください。リウマチ熱の予防になります。リウマチ熱は関節や脳や皮膚に症状が出る病気です。多くが肘や手首、膝や足首に痛みが出ますので、そういうときは病院に来てください。また、溶連菌のあとに糸球体腎炎を起こすことがありますので、2週間後におしっこの検査をしましょう」
小児科専門医からのワンポイント
尿検査には賛否両論があります。肯定派の意見としては無症候性の腎炎を発見できることや、検尿が正常であれば家族を安心させてあげられること、検尿は痛い検査ではなく簡単にできることが挙げられます。いっぽう、否定派の意見としては尿検査をして正常であってもその後腎炎にならない保証がないことや、早期に腎炎を見つけてもあまり意味がないこと、腎炎発症がまれであることが挙げられます。私は、尿検査自体は必須とは思いませんが、腎炎の可能性はしっかり説明すべきで、たとえば顔がむくまないか、血尿がでないかなどに注意が必要だと思います。その注意の一環として、尿検査をしておくことはよいのではないかと考えます。
お母さん
「分かりました!」

その後の経過

抗生剤を飲んで、たかし君は翌日には熱が下がりました。
学校には熱が下がったその次の日から行きました。

抗生剤を10日間飲んで、その後の尿検査にも異常はありませんでした。

症例のまとめ

  • 7歳の子どもが高熱で発症した。
  • 当初はインフルエンザやカゼが疑われたが、発熱3日目に溶連菌性咽頭炎と診断された。
  • 抗生物質で速やかに解熱した。
  • 解熱した翌日には元気に学校に行った。
  • 抗生剤は10日間内服し、2週間後には尿検査で急性糸球体腎炎がないかチェックした。

溶連菌は、とてもありふれた疾患ですが、臨床的には診断しづらいです。
私もアデノウイルスなら咽頭所見のみでかなりの確度で当てられますが、溶連菌は古典的な猩紅熱でない限り、検査してみるまで分かりません。

溶連菌は小児科医泣かせだと私は感じています。
よろしければこちらの記事も読んでみてください。

溶連菌感染症の再発では発疹が出ない。診断に苦慮する多彩な症状。

2017年2月25日

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。