かなとくんは1歳2か月の男の子です。
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高熱でインフルエンザ疑い
かなとくんは、お昼の14時から、39度の熱が出ています。
かなとくんのきょうだいは、数日前にインフルエンザと診断されていました。
インフルエンザはすぐに検査しても「陽性」がなかなか出ないことをお母さんは知っていました。
かなとくんは熱は高いものの、テレビを機嫌よく見ています。
お母さんは、様子を見ることにしました。
発熱したばかりであれば、インフルエンザの検査の有用性は大きく下がります。
また、タミフルを早く飲んだとしても、脳症を防げたかどうかは分かりません。インフルエンザによる脳症を防ぐには、現時点ではインフルエンザを予防する以外に有効な予防戦略はありません。
どうすれば今回の事象を防げたかと考えると、「予防接種をすべきである」ということしか言及できません。インフルエンザに対する予防接種の有用性については、こちらの記事に書きました。
けいれんで救急車要請
熱に気づいてから約3時間ほど経ったころです。
16時40分、突然かなとくんの手足がガクガクと震え出しました。
目は大きく見開き、斜め上の方向を見ています。
呼びかけても反応しません。
顔色が悪く、口から白い泡が出ています。
お母さんはすぐに救急車を呼びました。
救急隊がすぐに駆けつけ、酸素を投与しながら、病院へ搬送しました。
病院に到着
17時7分、けいれんから27分経過したころに、病院に着きました。
小児科の先生はかなとくんの手の甲から点滴をとると、「セルシン」という名前の薬をゆっくり入れました。
17時20分、けいれんから40分経過したころに、見開いていたかなとくんの目は閉じ、手足の動きも治まりました。
救急外来で検査
かなとくんは頭のCT検査を受け、血の検査を受け、髄液検査も受けました。
検査中、かなとくんはずっと目を閉じたまま動きません。
1時間ほどして検査結果が出ました。
WBC15400、CRP0.3、AST31、ALT75、Cre0.48、Glu326、アンモニア109、静脈血液ガスでpH7.106、pCO2 47.8、HCO3 14.8、BE-14.3、Lac6.4という結果でした。
インフルエンザによるけいれんで入院
かなとくんは入院し、ラピアクタという抗インフルエンザ薬の点滴と、マンニトールという脳の浮腫を抑える点滴をしました。
意識がない子どもにタミフルを飲ませることも、リレンザやイナビルを吸入させることもできませんが、ラピアクタなら点滴で投与できます。インフルエンザの薬については、こちらの記事も参考にしてください。
22時、けいれんが止まってから5時間後、かなとくんは目を覚ましました。
最初はぼんやりとしていましたが、お母さんのことは分かるようです。
飲み物を欲しがり、あげると上手に飲みます。
二相性脳症(AESD)の予測スコア
聖マリア病院 横地らのAESD(二相性脳症)予測スコア
- pH<7.014 1点
- ALT≧28 2点
- Glu≧228 2点
- 覚醒までの時間≧11時間 2点
- Cre≧0.3 1点
- アンモニア≧125 2点
4点以上:AESD(二相性脳症)のハイリスク群。
AESD発症に対する感度93%、特異度91%、陽性的中率47%。
済生会習志野病院 多田らのAESD(二相性脳症)予測スコア
- 痙攣12-24時間後の意識レベル
GCS15 or JCS0 0点
GCS14-9 or JCS1-30 2点
GCS8-3 or JCS100-300 3点 - 1.5歳未満 1点
- 痙攣時間≧40分 1点
- 機械的呼吸器管理 1点
- AST≧40 1点
- 血糖≧200 1点
- Cre≧0.35 1点
4点以上:AESD(二相性脳症)のハイリスク群。
AESD発症に対する感度88.7%、特異度90%
本症例の予測スコア
入院5日目に2回目のけいれん
かなとくんは、両親と小児科医の相談のうえ、ガンマグロブリンを投与することにしました。
インフルエンザの熱はラピアクタが効いたのか、すぐに下がりました。
ご飯もよく食べます。
ただ、いつもよりかは少し元気がありません。
そして入院5日目、2回目のけいれんが起きました。
その日の朝、少し体がぴくつくことがあったのですが、すぐ治まるので様子を見ていました。
そして10時52分、全身ががくがくと震え、目が見開き、目線は斜め上という、初日とまったく同じようなけいれんが始まりました。
ベッドサイドにミダゾラムを点鼻用に用意してあったので、すぐに投与されました。
点滴セットも用意してあったので、すぐに手の甲に挿入され、セルシンを投与されました。
11時00分には、けいれんは治まりました。
かなとくんはMRIの拡散強調像で、左の頭頂前頭部に樹脂状陰影を認めました。
ステロイドパルスの期待されるメリット、副作用を十分に話し合った上、かなとくんはステロイドパルスも行われました。
2回目のけいれん以降、かなとくんは活気もよく、次第に笑顔も見られるようになりました。
入院から10日目に退院
かなとくんは元気にしています。
ステロイドパルスも無事に終わりました。
1か月後のMRIでは脳に異常がないことを確認できました。
症例に対する感想
横地のスコア、多田のスコアの有用性を実感しました。
ガンマグロブリンもステロイドパルスも有効だったかどうかは分かりません。
ただ、2度目のけいれんを速やかに頓挫できたのは、横地のスコア、多田のスコアで層別化し、「二相目のけいれんは必ず起きる」という準備で入院管理できていたためです。
2度目のけいれんを予知し、すぐにけいれんを止められたことが、後遺症を残さないという結果につながった可能性があります。
もっとも、AESDの予後を改善させるためには、2度目のけいれんをいかに阻止するかというアプローチも大切でしょう。
現時点では有効な手立てがなく、これからのエビデンスの集積が望まれます。