インフルエンザワクチンの有用性と安全性。予防接種は受けるべき?

2018年4月更新(2歳未満におけるワクチン有効性を追加)

インフルエンザワクチンは任意接種です。
予防接種するのも自由ですし、予防接種しないのも自由です。
接種するかどうかをお父さん・お母さんが決められる。
これが任意接種です。

ただ、「自由」としつつも、一人の小児科医としては、ぜひインフルエンザワクチンは受けて欲しいと考えています。
というのは、私はインフルエンザワクチンの有用性・安全性を知っているからです。

今回は、インフルエンザの予防接種について、ぜひお父さん・お母さんに知って欲しいことを書きます。

インフルエンザ予防接種は受けたほうがいいの?

外来で患者さんによくされる質問の一つがこれです。

「先生、インフルエンザワクチンの予防接種って受けたほうがいいんですか?」

この質問にはいろいろな疑問が含まれていいると思います。

  • 接種スケジュールが分からない。
  • 予防接種にどれくらい効果があるか分からない。
  • 予防接種の副反応が分からない。
  • インフルエンザがどれくらい怖い病気なのか分からない。

この4つの疑問を払しょくできたとき、きっとあなたは「インフルエンザワクチンを接種しておこうかな」と思うはずです。
一つずつ、この疑問に答えていきましょう。

接種スケジュールは?

生後6か月以上~13歳未満は2回、13歳以上は1回です。

13歳以上に関して、2009年の検討で1回接種と2回接種で抗体価の上昇に差がなかったことが報告され、1回接種でよいことになっています。

13歳未満については1回の接種では十分な免疫が得られないため、2回接種となっています。
接種間隔は2~4週間です。
1984年の医事新報によると、接種間隔は3-4週のほうが効果が高い可能性を報告されています。

いつまでに接種すればいいの?

季節性のインフルエンザは通常12月末から翌年3月まで流行しますので、遅くても12月の中旬までに接種が終了すべきです。
2回接種であるならば、10月と11月に1回ずつ、または11月の初めと終わりに1回ずつ接種するのが理想です。

ただ、インフルエンザの予防接種はなかなか予約が取れず、2回目の接種が1月になってしまうこともあります。
すべての子どもが一斉に10月11月12月に接種しようとするわけですから、やむをえないという現状です。
もっと効率の良いインフルエンザ予防接種の体制作りが求められています。

毎年予防接種したほうがいいの?

インフルエンザは毎年変異しながら流行しており、ワクチンも毎年そのシーズンの流行を予測して製造されています。

また、インフルエンザワクチンの予防効果は接種から3か月で効果が減弱し、5-6か月で効果を失います。
参考:Intraseason Waning of Influenza Vaccine Protection: Evidence From the US Influenza Vaccine Effectiveness Network, 2011–2012 Through 2014–2015(Clinical Infectious Diseases, 2017, 544–550.)

ですから、毎年予防接種を受けることが大切です。

何歳から受けたらいいの?

生後6か月から接種できるインフルエンザワクチンですが、乳児や1歳児も接種したほうがいいのでしょうか?

「乳幼児に対するインフルエンザワクチンの効果に関する研究」で、インフルエンザの発病阻止率は2歳以上では有効率33%だったのに対し、1歳未満では有効性が確認できなかったと報告されました。
ただし、この報告は2001年のものであり、ずいぶん古いデータです。(この頃は1歳未満には0.1mlしか接種していませんでした。現在の接種量は以前より多いですので効果も異なると推察されます)

また2012年のコクランレビューでも次のように書かれています。

Influenza vaccines are efficacious in preventing cases of influenza in children older than two years of age, but little evidence is available for children younger than two years of age.

Vaccines for preventing influenza in healthy children
Cochrane Database Syst Rev. 2012

インフルエンザワクチンは2歳以上の子どもには有用でしたが、2歳未満では有用とする根拠に乏しかったとコクランレビューでは書かれています。

ちなみに、これは現時点では2歳未満での有用性を確認できる論文がなかっただけであり、2歳未満でのインフルエンザワクチンの無効性が確認されたわけではありません。
今後、2歳未満への新しい知見が出てくるのは間違いありません。

→バングラデッシュから新しい知見が出ました(ランダム化比較試験)。
2歳未満でもインフルエンザワクチンは有効です。
Efficacy of trivalent influenza vaccine against laboratory-confirmed influenza among young children in a randomized trial in Bangladesh(Vaccine 2017, 6967-6976.)

この新たな報告の結果、インフルエンザワクチンは生後6か月以上であれば接種するメリットがあります。

 

予防接種にどれくらい効果があるの?

2歳以上の子どもに関しては有効率33%であったとされています。
2歳未満に対しても、さきほどのバングラデッシュの論文では有効率31%とされています。

発症しても重症化を抑えることができます。
死亡率も減少させます。
周りにうつす確率も下げますので、周囲にもよい効果があります。

みんなが予防接種することで、有効率はもっと上昇するかもしれません。

予防接種の副反応は?

インフルエンザワクチンは不活化されていて、病原性を失っていますので、インフルエンザの予防接種が原因でインフルエンザになることはありません。

接種した場所が赤く腫れて、かゆくなることがあります。
また熱が出たり、筋肉や関節が痛くなったりすることがあります。
通常2~3日で治ります。

稀ですが、急性散在性脳脊髄炎やギラン・バレー症候群、Stevens-johnson症候群の報告もありますが、インフルエンザを発症してけいれんや脳炎を起こすリスクと比べれば、副反応のリスクのほうが小さいです。

卵アレルギーの子に接種していいの?

インフルエンザワクチンは鶏卵の尿膜腔で増殖したインフルエンザウイルスを原材料として製造されています。
高度に精製されていますが、微量の鶏卵成分が残存する可能性があります。

ですが、アレルギー外来を専門的に行っている私の実体験からは、卵アレルギーの子どもにインフルエンザの予防接種をしても、特にアレルギー反応は起きていません。
インフルエンザワクチンには卵白蛋白が数ng(1ngとは0.000000001gです)混入している可能性あるとされていますが、これほど微量な卵成分に反応する卵アレルギーの子どもは、まずいません。

したがって、卵アレルギーであっても、インフルエンザワクチンは多くの場合で安全に接種できます。
これについては、こちらの記事に詳しく書きました。

卵アレルギーでも多くの場合インフルエンザの予防接種は可能です。

2017年11月4日

ちなみに、もしインフルエンザワクチンでアレルギー反応が出た場合も、卵による反応とは言えません。
卵の成分による卵によるものなのか、卵ではない成分によるものなかのか見極めなければいけません。
(Vaccine Safety Datalinkの研究によると、インフルエンザワクチンによるアナフィラキシーの頻度は100万回に1回であり、卵とは関係なかったそうです)

現状の日本では、卵で「アナフィラキシー」という重篤なアレルギー症状を起こしたことがある場合はインフルエンザ接種ができません。
逆に言うと、じんましん程度の卵アレルギーであれば、注意して接種できます。
小児科医は万が一アナフィラキシーが起きたとしても対応できるように準備した上で予防接種をしますので、安心してください。

なお、アメリカではどれほど重症な卵アレルギーであっても、インフルエンザワクチンは問題なく接種できるようになっています。
詳しくはこちらの記事を確認ください。

アメリカでは卵アレルギーにインフルエンザワクチンを接種できますか?

2017年10月18日

インフルエンザはどれくらい怖いの?

インフルエンザで熱性けいれんを起こして、救急車で救急外来にやってくる子どもは毎年います。
また、けいれん後になかなか意識が戻らず、脳炎や脳症と診断されるケースも少なくありません。
脳炎・脳症は後遺症を残す可能性の高い、怖い病気です。

インフルエンザワクチンをすることで、脳炎や脳症を予防できる可能性があります。
The Spectrum and Burden of Influenza-Associated Neurological Disease in Children: Combined Encephalitis and Influenza Sentinel Site Surveillance From Australia, 2013–2015 (Clinical Infectious Diseases, 2017, 653–660.)
インフルエンザから脳炎・脳症にいたった子どもたち10人は、全員予防接種をしていなかったとのことです。
有意差は出ていませんが、注目される結果です。

インフルエンザはやはり怖い病気だと私は実感しています。
予防接種で100%予防できるわけではありませんが、少しでもかかりにくくするための手段として、予防接種はぜひおすすめします。

まとめ

  • インフルエンザワクチンは2歳以上の子どもにはメリットがコクランレビュー(世界でもっとも権威のある医学情報)で証明されています。
  • 2歳未満の子どもにも有効だということが、質の高い論文で報告されています。
  • 有効率は30%前後です。
  • 12月の中旬までに接種を終えるのが理想です。
  • 卵アレルギーのお子さんも接種できます。
  • 脳炎・脳症を予防できる可能性が示唆されています。

私はインフルエンザワクチンを接種することに、肯定的な立場でいます。
というのは、インフルエンザ脳症で後遺症を残してしまった子どもを何人も見てきたからです。

インフルエンザワクチンの効果は100%ではありません。
ですが、最悪の結果を防いでくれる可能性があります。

「他の予防接種もたくさんあるから、これ以上注射するのはかわいそうです」

このように感じる親御さんもいるはずです。
0-1歳の子どもには、インフルエンザワクチン以外にもたくさんの予防接種があります。
小児科医として、これ以上注射を増やしたくないという気持ちに強く共感します。

そのため、「お父さん・お母さんや、お兄ちゃん・お姉ちゃんはしっかり予防接種して、小さな子どもさんにうつさないようにしてあげましょうね」と指導することもあります。

とにかく、インフルエンザワクチンを接種するか接種しないか迷ったら、小児科に相談ください。
強制的に接種するなんてことはないので安心して下さい。
お父さん・お母さんの意向と、小児科医の知識とで、子どもにとってもっともいい決断ができるようにしましょう。

なお、このような意思決定方法をShared Decision-makingと言います。
Shared Decision-makingについては、こちらに詳しく書きました。

小児科における意思決定の特殊性。Shared Decision-makingの問題点。

2018年3月28日

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。