食物経口負荷試験は「家で少しずつ増やして」より有効か?

お子さんが成長して離乳食の時期になると、新しい食べ物に日々挑戦することになります。

「今日から卵を始めてみよう」

という日が、必ずやってきます。

そのとき、ちょっと口周りが赤くなってしまったり、もしくはアレルギーが怖くてそもそも子どもに卵を与えられなかったり。
その結果、子どもが全然卵を食べていない!という状況に陥っている家庭はあると思います。

こうして子どもに卵を与えないでいると、かえって卵アレルギーのリスクが上がってしまいます。

鶏卵アレルギー発症予防に関する提言。大切な2ステップ。

2017年6月17日

上の記事で書いた通り、生後6か月頃から少しずつ卵を導入することで、卵アレルギーのリスクが1/4になります。
逆に言えば、1歳まで卵を除去し続けると、卵アレルギーのリスクは4倍になってしまいます。

食物経口負荷試験は、病院で、アレルギーの先生の前で、お子さんに卵を食べてもらうという検査です。
アレルギー症状が出れば、医師と看護師が速やかに必要な治療をしてくれます。
そのため、アレルギーが心配という親御さんとその子どもに、安心と安全を提供できます。

いっぽうで、食物経口負荷試験は、しばらく病院に待機しなければなりません。
病院で食べるよりも「家で少しずつ食べていく」のほうがストレスがないと感じる家庭もあるでしょう。

今回は、食物経口負荷試験は「家で少しずつ増やして」という指示と比べてどの程度有効かについて書きます。

鶏卵アレルギーが疑われる小児に対する2種類の食事指導法の有効性、安全性、および保護者の不安感

今回ご紹介する論文はこちらです。

Efficacy, safety, and parental anxiety in a randomized trial of two dietary instruction methods for children with suspected hen’s egg allergy. Kitamura K, et al. Allergol Int . 2021 Jan; 70: 114-120.

全文無料で読めます。
さっそく読んでみましょう。

背景

食物アレルギー診療の初期に、低用量での食物経口負荷試験(低用量OFC)がよく実施されます。
低用量OFCの結果が陰性であった後の対応は、非常に個別的です。
多くの場合、自宅でチャレンジドドーズを超えない量から摂取を開始し、一定期間後に段階的なOFCで閾値の確認をすることになります。
一方、アレルギー専門医の中には、家庭で徐々に量を増やすように指導する医師もいます。
段階的OFCと自宅漸増の有効性や安全性に関する研究はありません。

我々は、鶏卵導入のための2種類の食事指導法について、有効性、安全性、保護者の不安感を比較しました。

方法

参加基準
①    1-4歳

②    卵白IgEが陽性で、オボムコイドIgE < 3.5 kUA/L

③    卵を未摂取、または卵に対して即時型だが非アナフィラキシー型のアレルギー反応を起こしたことがある

④    参加時にベースラインの2gゆで卵白(加熱20分)OFCが陰性であることを確認できた

除外基準
①    卵に対するアナフィラキシー既往あり

②    1歳以前に血液検査が実施されたことがある

③    参加時にすでにゆで卵白を2g以上食べている

④    コントロール不十分なアトピー性皮膚炎や喘息を合併している

⑤    重症な基礎疾患を合併している

参加者はステップアップOFC試験(SOFT)群または自宅漸増群に無作為に割り付けられました。
主要アウトカムは、開始6か月後にゆで卵白20gを摂取できるようになった参加者の割合としました。

SOFT群

5、10、20gの卵白で単回投与による段階的なOFCを受け、無症状または軽い症状でOFCを通過すればチャレンジドドーズの摂取を継続しました。
受診間隔は5-8週ごとで、週4回以上の摂取が3週あれば「合格」となり、次のOFCに進みました。
つまり、2gの摂取を週4回以上続けられていれば、次の受診時に5gのOFCを受けられ、その後5gの摂取を週4回以上続けられていれば、次の受診時に10gのOFCを受けられます。

アレルギー症状が発現した場合、軽症の場合はそのままの用量を継続、中等症の場合は前回OFC前の用量に減量し、2週間以内に再チャレンジ(外来でするのか自宅でするのかは記載されていない)、重症の場合は試験を中止としました。

自宅漸増群

指示された用量を摂取できた場合、1週間ごとに自宅で用量を約20%増量しました。
具体的には、2gから5gまでは週0.5g、5gから10gまでは週1g、10gから20gまでは週2gの増量としました。

摂取頻度が週4回未満の場合は、増量せずに同じ用量を継続させました。

アレルギー症状が誘発された場合は、軽症の場合はそのまま継続、中等症の場合は指示された50%量、翌日75%量、翌々日100%量で再開としました。
同一用量で重症化1回または中等症3回以上は試験中止としました。

いずれの群の参加者にも、発熱、喘息発作、急性胃腸炎など一部の条件下では摂取を控えるよう指導しました。

結果

2016年9月から2018年8月までに、55人が参加した。SOFT群(n=33[60%])と自宅漸増群(n=22[40%])に無作為に割り付け、51名を解析対象としました。
4名の患者はフォローアップできず除外しました。

月齢の中央値(四分位範囲、IQR)は、SOFT群で17.5(14-23)、自宅漸増群で17(15-23)で、患者背景については、アトピー性皮膚炎の有無・重症度、卵に対する即時反応の既往などに両群で差はありませんでした。

自宅漸増群の1名は、家庭で初めて2gの卵白を摂取した際に重篤な副作用(多発性じんましん)が発生しました。
この患者は有害事象の2週間後に2g卵白のOFCを繰り返したが、再び多発性じんましんが発生し、試験を中止しました。

SOFT群32人中31人(96.9%)、自宅漸増群19人中12人(63.2%)が6か月以内にゆで卵白20gを達成しました(p=.003)。

副作用に関連する摂取の割合は、SOFT群よりも自宅漸増群で有意に高く(SOFT群26件[0.83%]、自宅漸増群49件[4.04%]、p<0.001)、主に軽症例が有意に多かったです(SOFT群21件[0.67%]、自宅漸増群45件[3.71%]、p<0.001)(表4)。
ただし、自宅漸増群の45件の軽度の症状のうち、2名の参加者が口腔周囲の発赤をそれぞれ27件と10件報告し、特定の参加者によって症状報告数が増えたという背景がある。中等度症状の数については、両群間に有意差はありませんでした。
両群とも重篤な有害事象はありませんでした。

保護者の不安は両群とも治療中に有意に改善しました。

ディスカッション

SOFT群における主要アウトカム成功者の割合はintention-to-treat解析で96.9%となり、予想以上に高い結果でした。
自宅漸増群の63.2%ですら、既報より高かったです。

アドヒアランス(プロトコールを遵守できた人の割合)は、SOFT群で摂取率が有意に高かったです。
SOFT群では、次のステップOFCまで同じ量を続けるという指導の煩雑さがないため、摂取率が高く、その結果、主要評価項目の達成率も高くなったものと思われます。

両群ともに重篤な有害事象はなく、アドレナリンの使用も緊急入院もありませんでした。
初回OFCに2gという低用量の卵白を使用したことも、このプロトコルの安全性に寄与している可能性があります。
一部の参加者では卵白IgE値が非常に高かったが(50 kUA/L以上、SOFT群4名、自宅漸増群3名)、今回の研究では試験プロトコルは安全に実施できました。

本研究の限界
①      参加者には卵に対するアレルギー反応の既往がない子どもが含まれていた。これらの参加者は、開始時に20gのOFCを通過していたかもしれず、不必要な卵の連続摂取を避けることができたかもしれない。介入前の診断が確定していないことは、本研究の大きな欠点といえるかもしれない。しかし、医師は現実世界でこのような患者を診療している。ここでは、卵アレルギーが疑われる患者に対して卵を導入する手順のモデルを提案した。

②      本研究は専門病院における単一施設でのデザインであり、その結果は卵アレルギー患者の大多数を代表していない可能性がある。今後、多施設共同研究を実施し、卵アレルギーが疑われる患者に対する卵導入のための食事指導の有効性と安全性を確認する必要がある。

③      本研究はオボムコイドIgE値が比較的低い参加者を対象に行われたものであり、重度の卵白アレルギー患者においても同様の結果が得られるかどうかについては、さらなる研究が必要である。

④      群間のプロトコルの違いが主要アウトカムに影響を与えた可能性がある。両群とも受診間隔は5-8週間であったが、SOFT群の参加者は1日1回の摂取が4日以上続いた週が3週以上あれば次の段階的OFCに進むことができた。一方、在宅増量群の参加者は週当たり20%の増量率を考慮すると、次の段階的OFCの同量に到達するには少なくとも5週を必要とした。

結論

卵アレルギーが疑われる小児に対する卵導入のための食事指導として,SOFT 法は自宅漸増群よりも効果的でした。

感想

「本研究の限界」が結構強力なので、この論文結果をそのまま使える状況はあまりありません。

ですが、「家で少しずつ増やして」よりも、食物経口負荷試験を重ねる方が、6か月後に大きくステップアップできるというのは、実際のアレルギー外来でも実感します。

食物アレルギーに不安がある家庭は多く、負荷試験を実施できるアレルギー科医は少なく、この不均衡が現在のアレルギー診療の大きな問題点です。
すべてのケースで「負荷試験を重ねましょう」というのは、マンパワーの問題で実行できません。

リスクが低い家庭では「家で少しずつ増やして」を基本として、うまく増やせないケースやリスクが高いケースでは負荷試験を重ねるというのが、実践的な運用だとあらためて感じました。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。