卒乳・断乳の違いは? 時期は? 補完食って? 一小児科医の私見。

卒乳、断乳。
小児科医をしていると、よく相談されます。

今回は、卒乳・断乳について私がどう答えているのか、という経験的なお話です。

卒乳と断乳の違い

大人の都合で授乳をやめるのが断乳、子どもが主導でやめるのが卒乳というのでしょうか。先生はどう思われますか?

断乳や卒乳は、母乳または育児用粉ミルクを「完全にやめた状態」を指すのだと思われます。

ちなみに、断乳や卒乳という言葉は正式には定義されていません。
断乳という言葉の雰囲気を嫌がって、避ける人もいます。
そういう人は断乳という言葉を使わず、親が主導で母乳をやめることを「計画的卒乳」、子どもが主導で母乳をやめることを「自然卒乳」と表現します。
ただ、断乳と言おうが、計画的卒乳と言おうが、その本質は同じであるように私は感じます。
親が主導になっても、子どもが主導になっても、いずれも問題ではなく、「断乳」や「卒乳」、「計画的卒乳」、「自然卒乳」という言葉に敏感になる必要はありません。

ちなみに私は、断乳という言葉も卒乳という言葉もあまり使いません(後述しますが、限定的なケースで使うことがあります)。
よく使うのは「離乳」です。

2019年度に改訂された「授乳・離乳の支援ガイド」の読んでも、断乳や卒乳という言葉は出てきません。
使われているのは「離乳」という言葉です。

離乳とは、「形のある食物を噛み潰すことができるようになり、エネルギーや栄養素の大部分が母乳または育児用ミルク以外の食物から摂れるようになった状態」を指します。
その目安は、食事が1日3回となり、その他に1日1~2回の補食(おやつ)を食べるようになった時期です。
言い換えれば、離乳とは、母乳または育児用ミルクを「完全にやめた状態」を指すわけではありません。
栄養の補助として、またはスキンシップとして母乳やミルクを飲んでいても、大部分の栄養を母乳以外から摂取できていれば、それは離乳といえます。

離乳の時期、母乳またはミルクを「完全にやめる時期」

「1才になったので離乳する」という話をよく聞きます。離乳はいつまでにすればいいんですか?

わが国では、離乳の完了時期は「生後13~15 か月」に多く、遅くても生後18ヵ月までに完了します。
いっぽうで、離乳を完了していても、母乳または育児用ミルクを継続してかまいません。
上記でも述べたように、大部分の栄養を母乳以外から摂取できていれば、それは離乳です。

WHO(世界保健機構)は、食事から栄養を補いながら2歳以上まで母乳育児を勧めています。
アメリカ小児科学会は、母乳育児の継続には上限がなく、3歳以上まで継続しても発達に悪影響はないと明記しています。

以上から、生後12か月から18ヵ月に離乳を完了し、食事から様々な栄養を摂取していくべきですが、母乳または育児用ミルクは継続してかまいません。
特に母乳が子どもの欲するままに与えてよく、これをやめる時期は親と子どものそれぞれのペースで決めてよいです。

1歳6カ月。離乳はできたのですが、夜泣きがひどく、添い乳をねだられ、夜全然眠れません。母乳を完全にやめてもいいですか?

離乳が完了していれば、母乳やミルクはいつやめてもいいと書きました。
長く続けてもいいと書きました。

では、早くやめてもいいのか。

実際のところ、家庭の事情は各家庭ごとにあります。
仕事を始めたい、保育園に入れたい、次子の妊娠希望、お母さんへの投薬など、さまざまな理由で親が主導となって母乳をやめなければならないことはあります。
他にも、たとえば1歳半を過ぎても夜間に母乳を欲しがって子どもが泣く場合、ママも子どもも睡眠が中断されてしまい、状況的に好ましくありません。
母乳を与える代わりに手を握ったり、優しく体をさすりながら、寝かせることができれば、ママも子どももぐっすり眠れるようになるかもしれません。

このような状況に対応するため、母乳または育児用粉ミルクを「完全にやめた状態」にしなければならないことがあります。
このときだけ、私は「そろそろ卒乳する時期なのかもね」というように、「卒乳」という言葉を使います。

繰り返しますが、離乳が完了さえしていれば、母乳や育児用ミルクをやめる時期はいつになっても構いません。
ゆっくりやめても大丈夫なように、早くやめても大丈夫です。

離乳食と補完食

最近、補完食という言葉を聞きます。離乳食とは何が違うのですか?

「離乳に向けて、母乳やミルク以外の栄養素を摂取するための食事」を離乳食といいます。
「母乳やミルクでは足りない栄養素を補うための食事」を補完食といいます。

ちょっと違うように見えるかもしれませんが、私は同じ意味だと思っています。
補完食のほうが、意図が分かりやすいかなとは思いますが(裏返せば、離乳の意味を卒乳・断乳と同じだと勘違いされるケースがある)。
離乳が「完全に母乳やミルクをやめる必要はない」ということを理解できていれば、ほとんど同じ意味です。

離乳食にせよ、補完食にせよ、生後5-6カ月から始まります。
いずれにしても、母乳や育児用ミルクに不足する栄養素を補う必要があります。
そして「母乳やミルクをやめるための食事」という意味ではありません。

たとえば鉄分は母乳栄養では不足しやすい栄養素の一つです。
私はフォローアップミルクを用いた離乳食・補完食に一考の価値があると思っています。

母乳とフォローアップミルクの併用。鉄欠乏性貧血の見地から再考する。

2017年3月8日

まとめ

  • 断乳や卒乳は、母乳または育児用粉ミルクを「完全にやめた状態」を指す。違いは気にしなくていい。
  • 離乳とは「形のある食物を噛み潰すことができるようになり、エネルギーや栄養素の大部分が母乳または育児用ミルク以外の食物から摂れるようになった状態」を指す。
  • 離乳できていれば、断乳・卒乳はいつになってもいい。早くても遅くてもいい。家庭の事情に合わせる。
  • 離乳期は、鉄分を意識。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。