発熱していてもお風呂に入っても良い理由を一小児科医が考える。

子どもが病院を受診するもっとも多い理由は発熱です1)
したがって、小児科医は発熱時の対応を上手に説明できることが求められます。

私の印象では、多くの保護者が「熱があるときはお風呂に入ってはいけない」と思っています。
そのため、医療者が「熱があるときは、お風呂はだめです」と説明することは、シンプルで、保護者にとって受け入れられやすく、簡単です。

ですが、小児科医が子どもの体調を本当に考えるのであれば、一律に「熱があるときはお風呂に入ってはいけない」と説明するのではなく、入浴しても良い状況や、入浴したほうが良いと考えられる状況についても理解し、説明すべきだと私は思っています。

今回は、発熱していてもお風呂に入っても良い理由を書きます。

なお、サウナが風邪を予防したという論文は存在しますが2)、発熱時に入浴すべきか否かのエビデンスはありません。
そのため、本記事はエビデンスを交えた私の意見という程度で解釈頂ければ幸いです。

また「お風呂に入る」や「入浴する」というのは、「湯船に浸かること」を指すのか、「シャワー浴のみ」をも含めるのかあいまいです。
ただ、ここをしっかり分けて考えたとしても、「湯船に30秒浸かった場合は?」とか「湯船に5分浸かった場合は?」とか「湯船に10cmお湯を張って、上からシャワーを浴びた場合は?」とか境界線がどうしても不明瞭です。
ですので、本記事では「浴室に入ったら入浴」と定義します。

読むのが大変なので動画を見てください

本記事の内容は、アマネちゃんが動画にしてくれています。

分かりやすくまとめてくれているので、動画を見てしまった方が早いです。

発熱と入浴の歴史:その昔、発熱時は入浴しないのが一般的だった

私が子どもの頃、発熱したらお風呂に入ってはいけないと親から教わりました。
その親もまた、その親から教わっています。

1994年の小児科医が発熱時の入浴問題をどのように考えていたか調査した論文があり3)、非常に興味深いですので紹介します。
269人の小児科医(平均56.1歳)に対してアンケートした結果、88%の医師が「風邪をひいていてもお風呂に入ってもよい」と答えました。
しかし、そのうちの72%が「ただし熱がなければ」と付け加えています。
つまり、熱があっても入浴を認める医師は少数派だったという結果でした。

脈々と受け継がれてきた「熱があるときはお風呂に入ってはいけない」という教えは、家庭での入浴が一般的ではない時代、いわゆる銭湯の時代にまで遡ります。
銭湯では入浴後の帰路に湯冷めするリスクがあります。
冷えが感冒に影響するかどうかは実はエビデンスがありませんが、少なくても気道が冷えることで咳嗽は増強します。
入浴の結果、感冒症状がひどくなったと考える人はいたでしょう。

現在の入浴の状況は、昔とは異なります。
銭湯に出向く必要はなく、帰路で湯冷めする心配はありません。
浴室も脱衣室も暖房器具で温めることができます。
昔とは異なり、ストレスなく入浴することが可能となっています。
過去の教えを現在に適応すべきではないと私は考えます。

入浴の利点と欠点:清潔・爽快感vs脱水

小児内科に記載があった入浴の利点と欠点を引用します4)

利点 欠点
皮膚を清潔にする

身体を暖め末梢循環を改善する

汗の蒸発により体温を下げる

ぬるま湯ならば体温を下げる

リラックス

体温を上げる

身体が消耗する、疲れる

脱水が進む

子どもは不快に感じる

私は、体温を下げる目的での入浴には懐疑的です。
Up to dateによると、約30度のぬるま湯をスポンジに浸して体を洗うことで、体を物理的に冷却できるとありますし5)、コクランレビューでも「少数の小さな研究がぬるま湯によるスポンジングで体温を下げることを示した」とあります6)
ですが、一般的な風邪において、このように体を冷却しなければならない状況は熱中症を除いて思いつきません。
NICEガイドラインでも、「ぬるま湯によるスポンジングは推奨しない」とあります7)

いっぽうで、体温を上げるという欠点についても、私は懐疑的です。
銭湯や五右衛門風呂の時代とは異なり、家庭用の入浴では適切な温度設定が可能です。
湯の温度が40℃以上だと体温が1℃上昇するという報告はありますが8)、38℃であれば直腸温がわずかに上がっただけだとする報告もあります9)
湯の温度を熱すぎないようにし、入浴時間も長時間にしなければ、入浴によって体温が上がることは回避できるでしょう。

また浴室や脱衣所での冷えがシバリングを起こし、体温を上げるという危惧もあるかと思います。
しかし、現代の暖房設備によって回避可能です。
これらは入浴に伴う不快感をも和らげれます。
さらには、Up to dateにも書かれている通り、入浴の30分前に解熱薬を使用し、体温調節システムのセットポイントを下げることで、シバリングによる体温上昇を防ぐことができます4)
浴室や脱衣所を暖めておくことや、入浴前に解熱薬を使用することは、入浴のストレスを軽減させることにもなります。

さらには、入浴による体力の消耗にも筆者は懐疑的です。
東洋医学では、たとえば麻黄湯の適応は「熱はあるが比較的元気があって水分が摂れ、まだ汗の出ていない状態」であります10)。体力があることを「実証」といいますが、子どもは原則的に「超実証」でして11)、体力はあると考えられ、小児では基本的にあらゆる状況で麻黄湯は適応があります10)
入浴による体力の消耗の可能性はもちろん否定できませんが、私は「超実証」である子どもにとって入浴による体力の消耗はそれほどリスクとならないと考えます。

したがって、入浴の利点vs欠点は、清潔・爽快感vs脱水という構図で、私はシンプルに理解しています。

発熱時であっても入浴を勧める状況:脱水がなく、水分が摂れるなら入浴したほうが良い

入浴の利点vs欠点が、清潔・爽快感vs脱水という構図であると理解すると、発熱時であっても入浴を勧める状況は容易に想像がつくでしょう。
すなわち、脱水がなく、水分が摂れるのなら、入浴をしたほうが良いと私は考えます。

入浴を快適に実施する方法は前述した通りです。

  • 湯温を熱くしすぎない(一つの論文では38℃が良い)
  • 浴室、脱衣室は暖めておく
  • 入浴の30分前に解熱薬を使用する

入浴を終えれば、速やかに体をタオルで乾燥させ、寝やすい服に着替え、布団に入ります。
汗を流した爽快感により、子どもの睡眠の質が上がり、十分な休息を得れば、風邪が早く治るというのが私の持論です。

いっぽうで、脱水状態であり、経口補水療法を外来で行っているケースでは、入浴をお薦めできません。
この場合は、清拭で代用します。
私は「熱があってもお風呂に入っていいですか?」と聞かれた場合、診察上入浴が問題ないと判断されれば「入ったほうよいですよ」と説明しています。
そして、一般的な風邪による発熱で脱水状態に陥ることはそれほど多くないので、私が入浴を制限することはほとんどありません。

繰り返しますが、本記事はエビデンスのない問題に対して、私の矜持を書いただけです。
入浴と風邪診療に対するエビデンスが高まり、この問題に決着が着く日を望みます。

参考文献

1)      ネルソン小児科学 第19版 p325-327
2)      Regular sauna bathing and the incidence of common colds. Ann Med. 1990; 22: 225-7.
3)      Japanese paediatricians’ judgement of the appropriateness of bathing for children with colds. Fam Pract. 2000 Aug;17(4):334-6.
4)      横山美貴; 発熱しているときは入浴しないほうがよいのですか. 小児内科 2011 vol43 増刊号 p391-392
5)      Up To Date; Fever in infants and children: Pathophysiology and management
6)      Physical methods for treating fever in children. Cochrane Database Syst Rev. 2003;(2):CD004264.
7)      NICE guideline. Clinical guideline [CG160]
8)      Miwa C, Iwase S, Matsukawa T et al. Effects of bathing at 40℃ on thermoregulatory function in humans. Environ Med 1993; 207–210.
9)      Aihara M, Aihara H. Oral temperature with consideration of measurement conditions [in Japanese; English abstract]. Clin Therm 1989; 9: 76–82.
10)    黒木春郎、木元博文:インフルエンザと漢方 漢方と免疫・アレルギー 2006 20 p32-43
11)    成相 昭吉:麻黄湯・葛根湯 小児科診療 2014 vol77 8号 p1011-1016

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。