子どもの便秘症。親と小児科医の考え方が違うのはなぜか。

「子どもが2~3日に1回しか便が出ないんです」

「2~3日に1回は便が出てるんですね。水分と食物繊維をしっかり摂るようにして、様子をみましょう」

「お薬とかは出ないんですか?」

「まだ必要ないと思いますよ」

小児科外来でよくあるやりとりです。
私も結構、こうい対応をしてしまいます。
この対応だけでも、私があまり便秘症を得意としていないことが分かるかもしれません。

今回、便秘について記事のリクエストを頂きました。

リクエストをもらう前から、便秘については知識をしっかり整理しなければならないなあと思っていました。
便秘は非常によく相談される主訴です。
1歳10か月の子どもを持つ両親の16%が、わが子は便秘だと考えているようです。

そんな頻度の高い便秘について、記事を後回しにしてきた理由は3点です。

  • 浣腸や綿棒刺激の指導、整腸剤、緩下剤、漢方薬のどれかを組み合わせているうちに、そのうち治ることが多い。
  • 食習慣の改善をアドバイスするには、医者の食品に対する知識が乏しく、お母さんに任せてしまいがちになる。
  • 一部の器質的疾患を除き、便秘で死ぬ危険性は低い。

一般的に小児科医は消化器疾患に苦手意識を持っている気がします。
便秘で鑑別すべき「ヒルシュスプルング病」と「直腸肛門の奇形」についても、手術という選択肢があるため、どちらかといえば小児科より小児外科のジャンルに属します。

ですが、苦手苦手とは言っていられません。
小児科は子どものことならなんでも診られないとだめです。

今日は便秘について書いてみます。

便秘についての概論

小児科診療の2014年11月号に窪田先生がとても簡潔に便秘をまとめてくださっています。
その要旨を引用します。

小児の慢性便秘の多くは、離乳食を開始する時期に発症する。新生児期から発症する便秘に関しては、Hirschsprung病や鎖肛などの先天性疾患との鑑別が重要である。最近、慢性便秘の診断基準としてRome IIIが用いられ、便秘の治療は年齢とその程度に合わせて治療を選択する。外科治療が必要となる重症例も存在する。

小児科診療2014年11月号
窪田正幸 新潟大学大学院医歯学総合研究科小児外科

この引用文で私が感じたのは2点です。

  • 窪田先生は小児外科医である。
  • 便秘が離乳食を開始する時期に多いって本当だろうか。

まず、便秘の記事を小児外科の先生が執筆してくださったことについては、やはり、消化器疾患は小児科には難しいのかな……と感じました。

でも、子どもが便秘になったとき、「よし、小児外科に行こう」と思うお母さんは珍しいと思います。
そもそも、小児外科がある病院もそれほど多くありません。
(明石医療センターも小児外科がありません)

やはり、小児科医も便秘について詳しくなければなりません。

次に、便秘症が多い時期についてですが、離乳食の時期に多くなると聞いて、私はあまりピンときませんでした。
私がよく相談を受ける便秘症は、生後すぐから5歳くらいまで幅が広く、特定の時期に多いという印象はなかったからです。

ちなみに、「離乳食」という言葉が適切かどうかは、今回の議論から外します。
(WHOでは離乳食を”Complementary feeding”という言葉で表現しています。離乳を進めるために食事を開始するわけではなく、母乳やミルクで足りない栄養素を”補う食事”という意味なのでしょうね。日本語では「補完食」という表現を使う人もいます。「補食」だと糖尿病の低血糖対策と同じになるからか、それとも「捕食」と間違えやすいからかは分かりませんが、赤ちゃん業界では補食ではなくて補完食というのが一般的のようです)

子どもの排便状況

小児科診療2010年1月号に、小野先生が「本邦乳児の排便状態に関するアンケート調査」を報告しています。

こちらも、要旨だけ引用します。

1,4,7,12か月健診の健常乳児1013名を対象に、母親へ排便状態に関するアンケート調査を行った。935名の児について有効な回答を得た。排便回数が多い(1日3回以上)児は1,4か月の母乳栄養児に多く、少ない(2~3日に1回以下)児は月齢・栄養法に有意差を認めなかった。1,4か月児では水様便、12か月児では有形・硬便が多かった。排便が4~5日に1回以下の児は全体で19名(2.0%)であった。これらの児では、嘔吐・腹部膨満・夜泣きを効率に認め、排便が4~5日に1回以下の乳児を便秘症としてとらえることの妥当性が示唆される。

小児科診療2010年1月号
小野真衣子 公立藤岡総合病院小児科

このアンケート結果からは、排便が4~5日に1回以下となる便秘症は、あらゆる時期に存在することになります。

離乳食の時期に多くなるという結果ではありませんでした。

便秘症の診断基準

国際的な診断基準として、Rome III基準があります。
(本当は、2016年にRome IV基準が出ています。手に入れられたら、更新します)
イタリアのローマで決めたから、Rome基準だそうです。

4歳未満の器質的な疾患が除外された小児において、下記の1-6までの症状のうち、2つ以上が1か月間持続する場合

  1. 1週間に2回以下の排便
  2. トイレ週間獲得後に、少なくても週1回は便失禁がある
  3. 過剰に便をためた既往がある
  4. 痛みや排便困難の既往がある
  5. 直腸に巨大な糞塊形成がある
  6. トイレを詰まらせるような巨大な便塊排泄の既往がある

ROME III診断基準

私は、1か3か4で便秘症と診断するケースが多いです。

2~3日に1回の排便があれば、1週間に2回以下の排便とは言えないでしょうから、排便時痛や切れ痔がない限りは便秘症とは診断しません。

前述のアンケート調査で、4~5日に1回以下の排便が2.0%の子どもでみられ、臨床的にも児に腹部症状が見られました。
こういう場合は便秘症として、医療的な介入をしっかりしてあげなければなりません。

便秘に対する親と医者の意識の違い

1歳10か月の子どもを持つ両親の16%が、わが子は便秘だと思っています。
そして、離乳食の時期に便秘が増えると考える親は多いようです。

いっぽうで、ROME基準で診断される便秘症は約2%です。
少なくても私は、離乳食の時期に便秘が増えるとは思っていません。
(離乳食の時期に便秘を相談にくる親は多いですが、その子どもの多くは便秘ではないと私は感じています)

親は便秘だと思っていても、医者は便秘だと思っていないケースがたくさんあります。
この意識の乖離はどうしてでしょうか。

小野先生のアンケート調査と、16%という確率を照らし合わせて考えると、親は「子どもが2~3日に1回しか便が出ない時、便秘症と考える」という仮説が成立します。

まだ離乳食開始前の赤ちゃんは、たとえ人工栄養児であっても、1日に1~2回の排便があるものです。
それが、離乳食開始時に2~3日に1回しか排便をしなくなり、「便秘症になった」と考えるのだと思います。

いっぽうで、医者は「子どもが4~5日に1回しか便が出ない時、便秘症と考える」という意識ですので、離乳食を開始されて2~3日に1回しか排便をしなくなったとしても「まだ便秘症ではない」と考えます。

こうした意識の違いが、親の方が子どもの便秘を感じており、離乳食の時期に便秘が増えたと考える原因なのではないでしょうか。

便秘の1歩手前の状態

2~3日に1回しか排便しない状態は、Rome基準でも便秘症の項目に含まれず、前述のアンケート調査でも、児が困っていないケースが多いです。

では、治療は不要なのでしょうか。

2~3日に1回しか排便しない状態は、それ自体は治療がいりません。
ですが、4~5日に1回しか排便しない状態への1歩手前とも言えます。

お腹のマッサージ、オリーブオイルを使った綿棒の刺激などの処置は指導してあげたほうがいいでしょう。

また、よく吐いてしまって体重の増えが悪いときや、お腹がパンパンで苦しそうなとき、お尻が切れて血が出てしまうときは、便秘症として治療したほうがいいでしょう。

便秘症の治療

便秘症と診断した場合、小児科医が最初に確認するのは「ヒルシュスプルング病」と「直腸肛門の奇形」です。
あと「潜在性二分脊椎」の有無も簡単にチェックできるので、診察します。
体重増加が乏しいときは、便秘のせいで母乳が飲めないというケースと、母乳が出てないから哺乳不足のせいで便秘になっているというケースが想定されます。

甲状腺機能低下症やミルクアレルギーなども鑑別に入りますが、便秘症からこれらが診断されることは、まずありません。

基本的には浣腸や緩下剤、漢方薬の効果を見ながら、治療に抵抗する場合はゆっくりと検査を進めて行きます。

便秘症はすぐには治りませんので、根気強く治療を継続していく必要があります。

病気ではない便秘

最後に、治療の必要がない、安全な便秘を紹介しておきます。

母乳性の便秘

母乳栄養が主体の子どもに見られます。

元気で、よく飲んで、体重もよく増えるのですが、便が出ません。

母乳は吸収が良すぎて、便にならないんですと説明しています。

さすがに10日間も排便がなければ、心情的な意味で浣腸しますが、1週間くらいの便秘であれば様子をみるように伝えます。

離乳食が始まると、この便秘は治ります。

乳児排便困難症

RomeIII分類では、生後6か月未満の乳児において、排便時にいきんだり号泣したりしたあとに軟便が排出され、他に健康上の問題がない状態です。

数週間で自然に治りますので、特に治療は必要ありません。

まとめ

排便状況のアンケート結果と、便秘症の診断基準を挙げて、便秘症に対すると親と医者の意識の違いを書きました。

書きながら考えていたのは、「便秘症の1歩手前の状態」に対して、いかにうまく説明ができるか、です。

「お母さんが便秘だと考えていることは、実は医学的には便秘ではないんですよ。Rome基準と言いましてね……」

こういう指導は、意味をなさないと思います。

「2~3日に1回しか排便が出ないのですね。これは本格的な便秘症の1歩手前の状態です。今から排便をしっかり促していくことで、便秘症になるのを防げますよ。いいですか、効果的な対策として……」

こういう指導がよいと私は思いました。
便秘症で外来に相談に来る人がいましたら、さっそく実践してみます。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。