2021年7月7日、看護学校の授業用資料です。
看護学生の人も、そうでない人も、勉強に役立ててください。
このページの目次です。
病理学:先天異常と遺伝子異常
本日学ぶのは、次の5点です。
- DNA・遺伝子・染色体の違いを説明できる。
- 先天異常の原因を3つに分類できる。
- 常染色体劣性遺伝が近親婚に多い理由を説明できる。
- 口唇裂と口蓋裂の手術時期を言える。
- ダウン症候群の特徴を言える。
それでは、順に勉強していきましょう。
DNA・遺伝子・染色体の違い
同じような、違うような、うまく説明できないDNA、遺伝子、染色体。
本にたとえると、分かりやすいと思います。
- DNA:1つの文字。「ろ、み、お」
- 遺伝子:文章。「あなたはどうしてロミオなの?」
- 染色体:1冊の本。「シェイクスピア作、ロミオとジュリエット」
ヒトは46本の染色体がありますので、46冊の本でできていると考えるといいでしょう。
本はたくさんの文章から形成され、1つずつの文章は数種類の文字の順列で構成されています。
先天異常の分類
先天異常の分類 | 解釈 | 具体的な疾患 |
染色体異常 | 本が1冊多い
本が1冊ない |
ダウン症、クラインフェルター
ターナー症候群 |
遺伝性疾患 | 文章が一部改変されている | 血友病:X染色体劣性遺伝
フェニルケトン尿症:常染色体劣性遺伝 口唇口蓋裂:多因子遺伝疾患 |
外因による先天異常 | 本自体は正しいが、読者がおかしくなって、上手く読めない | 感染症:TORCH
薬剤、アルコール、喫煙 妊娠初期の放射線、葉酸不足 |
注意点1:常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝、X染色体劣性遺伝は「染色体」という言葉が入っているが、染色体異常ではなく、遺伝性疾患である
間違えやすいのが、常染色体優性遺伝の疾患は「染色体」という言葉が含まれますけれど、「染色体異常」とは言いません。
たとえばフェニルケトン尿症は常染色体劣性遺伝の疾患ですが、第12番染色体に含まれる遺伝子の異常ですから、「遺伝性疾患」に分類されます。
注意点2:多因子遺伝疾患
口唇口蓋裂の「多因子遺伝疾患」というものについて触れておきましょう。
多因子遺伝疾患とは、「遺伝性」と「外因」が混ざったものです。
上の表では「遺伝性疾患」に含めていますが、外因による先天異常に分類されることもあります。
たとえば、高血圧、糖尿病、心筋梗塞、がんなど、家族歴が重要だが、遺伝だけが原因ではないものを「多因子遺伝疾患」といいます。
先天異常の問題
問題1:遺伝性疾患はどれか。(出典:第99回看護師国家試験を筆者が改変)
- 川崎病
- 血友病
- B型肝炎
- マラリア
- サルコイドーシス
正解:2
血友病はX染色体劣性遺伝で、「遺伝性疾患」に分類される。
遺伝様式
常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝、X染色体劣性遺伝の遺伝形式を理解しましょう。
授業中にマスターしてください。
理屈を理解すれば、いくつか興味深いことに気づきます。
常染色体優性遺伝には、保因者はいません。(浸透率が100%の場合です。国家試験レベルでは浸透率は100%で良いです)
発症者と健常者の子どもは、50%発症します。
そして、発症者の親は、どちらか片方は必ず発症者ですので、「隔世遺伝」することはありません。
常染色体劣性遺伝では、保因者同士の子どもが25%の確率で発症します。
近親婚だと、保因者同士になる確率が上がります。
発症者の親は、発症者ではないことが多く、「隔世遺伝」したように見えます。
X染色体劣性遺伝は、母親が保因者で父親が健常者である場合、25%の確率で男の子の発症者が生まれます。
母親のきょうだいに発症者がいることもあり、「隔世遺伝」したように見えます。
遺伝様式の問題
問題2:先天異常で正しいのはどれか。(出典:第99回看護師国家試験)
- フェニルケトン尿症は遺伝性疾患である。
- 口唇口蓋裂は単一遺伝子疾患である。
- 近親婚はターナー症候群の発生頻度を高くする。
- ダウン症候群は13番染色体のトリソミーである。
正解:1
フェニルケトン尿症は常染色体劣性遺伝で、「遺伝性疾患」に分類される。
口唇口蓋裂は、多因子遺伝疾患である。
ターナー症候群は染色体異常なので、近親婚は関係ない。
先天奇形
先天異常が、染色体異常、遺伝性疾患、外因による先天異常の3つに分類されることを今までに説明しました。
中には「多因子遺伝疾患」と呼ばれる「遺伝」と「外因」の要素をともに受ける疾患があることも説明しました。
そんな先天異常のうち、奇形を伴うものを「先天奇形」と言います。
二分脊椎や、外性器異常、口唇裂、口蓋裂、合指症などがあります。
看護師国家試験を通して、少なくても口唇裂と口蓋裂の手術時期は言えるようになりましょう。
先天奇形の問題
問題3:外性器異常が疑われた新生児の親への対応として適切なのはどれか。(出典:第106回看護師国家試験)
- 出生直後に性別を伝える。
- 内性器には異常がないことを伝える。
- 出生直後に母児の早期接触を行わない。
- 出生届は性別保留で提出できることを説明する。
正解:4
染色体検査で確定する必要がある。
問題4:二分脊椎の子どもに特徴的な症状はどれか。(出典:第第104回看護師国家試験)
- 排泄障害
- 体重増加不良
- 言語発達の遅延
- 上半身の運動障害
正解:1
二分脊椎は膀胱直腸障害をきたす。
問題5:先天奇形と初回手術時期との組合せで正しいのはどれか。(出典:第第94回看護師国家試験)
- 口唇裂 ─ 2週~1か月
- 口蓋裂 ─ 1~1歳半
- 合指症 ─ 2~2歳半
- 胆道閉鎖 ─ 3~3歳半
正解:2
口唇裂の手術は生後3か月ごろ。見た目に直結するので早い方がいいが、体が大きい方がきれいに仕上がるし、合併症も少ない。
口蓋裂はあまり早期にすると上あごの発達が悪くなって受け口になる。遅くしすぎると言語障害が出る。1歳半ごろがベスト。ホッツ床や口蓋裂用乳首も有効である。
合指症は1歳前後で手術する。見た目と機能の問題。
胆道閉鎖は2か月までに葛西手術。母子手帳の便の色大事。
問題6:4か月の乳児。口唇裂の術後1日。創部の保護に最も適切なのはどれか。(出典:第第96回看護師国家試験)
- おくるみ
- 指なし手袋
- 肘関節抑制帯
- 体幹ジャケット
正解:3
1はやりすぎ。体まで押さえつける必要はない。
2と4は意味がない。
体幹ジャケットは体は動かせなくなるが、腕は動くので、口を触れてしまう。
3は必要最小限の身体抑制である。
有名な染色体異常・遺伝性疾患の症状
看護師国家試験では、染色体異常・遺伝性疾患の症状まで聞かれることはあまりありません。
ですが、数年に1度の頻度で問われますので、基本だけはさらりと覚えておきましょう。
特に頻出なダウン症候群は、必ず押さえておきましょう。
有名な染色体異常・遺伝性疾患の症状の問題
問題7:先天異常で正しいのはどれか。(出典:第108回看護師国家試験)
- 軟骨無形成症は低身長になる。
- ターナー症候群は高身長になる。
- クラインフェルター症候群は低身長になる。
- ピエール・ロバン症候群は巨舌症がある。
正解:1
軟骨無形成症は指定難病の一つで、四肢短縮型の低身長症のある骨系統疾患で、遺伝性疾患である。常染色体優性。
ターナー症候群は低身長、不妊症などがある染色体異常である。45x
クラインフェルター症候群は男性のみにみられる染色体異常である。症状としては高身長、思春期来発遅延、女性化乳房、無精子症などがある。47XXY
ピエール・ロバン症候群は舌根沈下、小下顎症、気道狭窄などがある遺伝性疾患である。常染色体優性。
問題8:先天異常と症状の組合せで正しいのはどれか。(出典:第99回看護師国家試験)
18トリソミー ─ 巨舌
クラインフェルター症候群 ─ 多毛
ターナー症候群 ─ 高身長
マルファン症候群 ─ 低身長
ダウン症候群 ─ 筋緊張低下正解:5
18トリソミーとは、第18番染色体が1本多い染色体異常。精神遅滞、小頭、耳介低位、後頭部突出、多毛など。
マルファン症候群とは、常染色体優性遺伝病である遺伝性疾患。高身長、長い手足、大動脈弁異常などの症状がみられる。
ダウン症候群とは、第21番染色体が1本多い染色体異常。精神遅滞、低身長、巨舌、筋緊張低下などの症状がみられる。
問題9:染色体異常と症状との組合せで正しいのはどれか。(出典:第96回看護師国家試験)
- ダウン症候群 ─ 筋緊張低下
- ターナー症候群 ─ 高身長
- 13トリソミー症候群 ─ 高身長
- クラインフェルター症候群 ─ 内眼角贅皮
正解:1
問題10:生後1、2か月のダウン症候群の乳児にみられる特徴はどれか。(出典:第105回看護師国家試験)
- 活気があり機嫌が良い。
- 体重増加は良好である。
- 筋緊張が強く抱っこしにくい。
- 舌が小さく吸啜が困難である。
- 哺乳の途中で眠ってしまうことが多い。
正解:5
生後1、2か月のダウン症候群の児は、筋肉の発達が緩やかで、筋緊張が弱く、授乳時間が長くなり、結果的に眠ることがあるため、体重増加は緩やかなことが多い。
ダウン症候群は舌が大きい。巨舌。
まとめ
•DNA・遺伝子・染色体の違いを説明できる。
•先天異常の原因を3つに分類できる。
•口唇裂と口蓋裂の手術時期を言える。
•常染色体劣性遺伝が近親婚に多い理由を説明できる。
•ダウン症候群の特徴を言える。
試験問題はこの中から3つ出しますので、よく勉強しておいてください。