医師の当直バイトの診療姿勢はどうあるべきか?

当直バイト。

医師の世界では、普通に存在する働き方です。
「当直」「バイト」という意味です。

今日は、当直バイトについて思うところを書きます。

医師の当直バイトとは?

夜間働くことを「当直」といいますが、土曜日や日曜日、祝日などの休日の昼間に働く場合は「日直」といいます。
休日の朝から翌朝まで24時間働くことを「日当直」といいます。

「バイト」は非常勤として働くことを指します。
普段働いている病院とは別の場所で働くのがバイトです。
常勤として働いている病院を持たない医師は、常にバイトになります。

つまり、当直バイトとは「非常勤で夜間に働くこと」です。
非常勤で休日の昼間だけ働けば「日直バイト」になります。

当直バイトの仕事とは?

夜間や休日の救急患者を診るのが、当直業務の基本的な仕事です。
夜間や休日に入院中の病棟患者が急変した場合も、当直医師が診療します。

当直医師がバイトである場合、普段からその病院で働いているわけではないので、細やかな診療ができないことが多いです。
そのため、通常は「常勤の医師」がいつでも連絡できる状態で待機しています。
その常勤医のことは、「バックアップ医師」とか「オンコール」とか「セカンド」とかいろいろな名称で呼ばれます。

当直バイトの問題点

普段働いていない病院で診療するというのは、なかなか難しいものです。
医療はチームでするものですが、看護師、薬剤師、検査技師との信頼関係がない環境では、普段の診療能力が発揮できないでしょう。

さらに、患者を継続してフォローすることもできません。
当直バイトで診た患者さんは、もうそれっきりです。
当直バイトと患者の関係は、一期一会です。
「明日また診せて」とも、「入院して経過を診せて」とも言えません。
明日見てくれる医師は、バイトではない常勤の医師です。
そしてその常勤の医師は入院時の状態を実際には診ておらず、入院時の状態を診ていたバイトは翌日にはもういません。

当直バイトの診療姿勢はどうあるべきか?

このような背景がある当直バイトにおいて、診療姿勢はどうあるべきでしょうか。

私は、当直バイトでは、検査や入院のハードルが下がる傾向にあります。
(県立病院で働くようになってからはバイトをしていませんが)
よく言えば「慎重」な、悪く言えば「過剰」な医療になります。

慣れない環境での診療は、自分の診療能力が低下させているでしょう。

ふだんなら「これは大丈夫!」と思えるようなケースでも、当直バイト中は「本当に大丈夫か?」という姿勢になります。
経過を診ながら判断するということが当直バイトではできません。
この患者に今後何かあったとき、自分はそこにはいないのです。
初診時の状態、という大事な情報を目撃した当直バイトは、今後その患者の医療に携わることができないのです。

そう思うと、当直バイトは普段の診療よりも「慎重で丁寧な診療」に自然となってしまいます。

ですが。

そうならない医師もいるように思います。
いつも以上に、軽率な診療になっている医師。
よく言えば「豪胆」とも言えますが。
腹痛患者が来たら、痛み止めだけ出して「明日また来てください」とか。
発熱患者が来たら、解熱薬だけ出して「明日また来てください」とか。
カルテの評価は「全身状態は悪くない」とか書かれていますが、本当に悪くなかったのかどうかはもう分かりません。
だって、この当直バイト、もう明日にはいないのですから。

なぜ、こんなにも「豪胆」でいられるのでしょうか。

当直バイトで軽率な診療をする医師を勝手に分析

私は、当直バイトではより慎重になります。
ですが、より「豪胆」になってるとしか思えない医師もいます。

理由を勝手に想像してみます。

まずは、「当直バイト中の患者とは一期一会なのだから、今後何かあっても、そこに自分はもういない。だから大丈夫」と思ってしまうのかもしれません。

プロフェッショナリズムのかけらも感じません。
とりあえず、当直バイトには二度と来ないで欲しいです。

次に、「当直業務とは、そもそも普段の診療をするものではない。翌朝までとりあえずの応急手当ができればいい。だから大丈夫」と思ってしまうのかもしれません。

確かに、夜間はマンパワーが低下します。
日中は医師も看護師もたくさんいますが、夜間は医師1人と数人の看護師だけで、たくさんの患者さんを全部診なければなりません。
普段の診療を当直中にするのは難しいでしょう。

でも、それって、患者さんの数が多くて捌けなくて、やむにやまれず応急手当だけになってしまう、ということでしょう?
あまり患者さんが来てなかった時間帯でも、応急手当しかしないっていうのは、納得できません。

こう言うと、こんな言い訳をされそうです。
「ある患者さんはしっかり診て、ある患者さんは応急手当だけしたら、不公平だ。みんなが公平になるように、当直中は応急手当しかしないんだ」

こうなってくると、「私とは価値観が違います」としか言えません。
私はいつもいつでもベストを尽くしたいと思っているだけです。
でも、公平や平等が大事だと言われたら、「私とは違いますね」となります。

でも、単純なイデオロギーの違いではないとも思うんですよね。
私の場合、もう最近は当直バイトをしていなくて、常勤医としての当直ばかりです。
だから、「翌朝までとりあえずの応急手当」をしたところで、次の日にどうせ自分が診るんですよ。
その患者さんが良くなるまで、ずっと私が診続けるんです。
だから、「翌朝までとりあえずの応急手当」をしてしまうと、結局自分に跳ね返ってくる。

でも、当直バイトは、「翌朝までとりあえずの応急手当」をすれば、もうそれで終わりです。
次に日に診ることもありませんし、良くなるまでフォローすることもありません。
一期一会からくる、責任感の欠如です。

結局、「翌朝までとりあえずの応急手当ができればいい」という主張は、当直バイトがどんな理由をつけても正当化できないと思ってます。

まとめ:自戒を込めて

当直バイトは、難しいです。
チーム医療は困難で、患者の経過を追うこともできません。
初診の一瞬に、ベストパフォーマンスを尽くさなければなりません。
ベストを尽くした結果、救急外来では応急手当てだけになってしまうこともあります。

いっぽうで、軽率な行動も目につきます。
一期一会からくる、責任感の欠如が背景にあると私は思っています。

当直バイトをする医師へ、そして自分自身への戒めを込めて、「責任感を持って診療してほしい」と今の気持ちを書き残しておきます。

 

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。