親や保育園の先生の手をきれいにすると、園児のかぜを予防できますか?

「家に帰ったら、まず手を洗いましょう」

子どものとき、そう教わったと思います。
「外で遊んだ子どもの手にはばい菌がいっぱいいて、ばい菌が手についたままだと病気になるんだ」と小さいときに教わりました。

これって、本当なんでしょうか。
手をきれいにしていれば、かぜは予防できるのでしょうか。

今回は、手指衛生でかぜを予防できるかについて書きます。

親や保育園の先生の手をしっかり洗ってみた結果

今回紹介する論文はこれです。

Effectiveness of a Hand Hygiene Program at Child Care Centers: A Cluster Randomized Trial. (Pediatrics. 2018 Nov;142(5). pii: e20181245)

「手指衛生の効果」というシンプルなタイトルの論文です。
さっそく読んでみましょう。

背景

5歳未満の子どもはよくかぜをひきます。
そして、保育園に通っているとさらにかぜをよくひきます。

手洗いはかぜ予防に有効だとする論文はいくつもあります。
ですが、親や保育園の先生をしっかり手指衛生することで園児のかぜが減るかどうかを調査した論文はほとんどありません。

今回の研究は保育園と家庭の両方でしっかりと手指衛生することで、園児のかぜが減るかどうかを調査します。

方法

スペインの25の保育園で911人の園児が参加しました。
期間は2013年11月から2014年6月までの8か月間です。

対象となったのは0-3歳の保育園児です。
少なくても1週間に15時間以上は通園しています。

これらの園児は3つのグループに分かれます。

  1. トイレのあとや、手が目に見えて汚れているときなど、いつも通り手を洗うグループ
  2. いつも通りに加えて、昼食の前後、外で遊んだあと、帰宅時、咳や鼻水があったとき、おむつを替えたあとに液体せっけんで手を洗うグループ
  3. 上記のときに、除菌ジェルで手を消毒するグループ

ちなみに手を洗うのは、園児ではなく、親や保育園の先生のほうです。

主要結果は、かぜをひいた回数とします。
かぜとは2日以内に鼻水、鼻づまり、咳、熱感、咽頭痛、くしゃみのうち2つ以上が出現した場合とします。

結果

1人の園児が1か月あたりにどれくらいかぜをひくのかを示したグラフです。

青色は、トイレのあとや、手が目に見えて汚れているときなど、いつも通り手を洗うグループです。
赤色は、いつも通りに加えて、昼食の前後、外で遊んだあと、帰宅時、咳や鼻水があったとき、おむつを替えたあとに液体せっけんで手を洗うグループです。
緑色は、上記のときに、除菌ジェルで手を消毒するグループです。

上側のAのグラフを見てください。
緑色のグラフ、すなわち親や保育園の先生が除菌ジェルで手を消毒すると、園児のかぜが減ることが分かります。
かぜをひく確率を23%下げており、特に11月、12月、5月、6月に効果があります。

ちなみにBのグラフは、抗菌薬を出された回数です。
かぜをひく回数が減れば、抗菌薬を出される回数も減ります。

考察

今回の研究では、保育園の先生や親が除菌ジェルで手を消毒すると、園児のかぜが予防できることが分かりました。
手洗いの回数をしっかり増やすことがポイントで、1日6-8回の手指消毒が有効です。

しっかり消毒するためには、保育園の先生や親を教育することも重要です。

私の感想

たとえば手ピカジェル300mlが600円だったとして、1プッシュで2ml使用し、1日10回消毒するとして、月に1200円の出費になります。
ですが、かぜをひく確率が23%減るのであれば、費用対効果は高いと感じます。

医療者であれば、1日50回とか100回とか手指消毒することになると思いますが、患者さんのかぜ予防にきっと役立っていると思いました。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。