「2020年版新生児蘇生法ガイドライン」の変更点11個に思うこと。

新生児蘇生法、NCPR。
そのガイドラインが、2020年版にアップデートされます。
2020年版の教科書も、2021年3月28日発売予定です。

私も一足先に、2020ガイドラインのアップデートをしました。

兵庫県立丹波医療センターのNCPR講習会は、3月のは2015年版で行いますが、以降は2020年版でします。
今回は、2020年版NCPRの変更点について思ったことを書きます。

2020年版アルゴリズム変更点

11個の変更点があります。

  1. 新生児蘇生法の本質である救命の流れの強調
  2. 出生前のステップとしてブリーフィングの表記の追加
  3. 人工呼吸に引き続く胸骨圧迫時の『+酸素』の表記の追加
  4. アドレナリン投与の優先順位から独立した表記へ変更
  5. 努力呼吸またはチアノーゼの『共にあり』から『どちらかあり』で安定化の流れに進むように変更
  6. 安定化の流れでは最初の介入は直ちに行うのではなく、『SpO2モニタを装着し必要時CPAPまたは酸素投与』に変更
  7. チアノーゼを『チアノーゼ(酸素化不良)の表記へ変更』
  8. CPAPまたはフリー酸素投与を開始した後、新たな評価基準として『改善傾向あり』を追加
  9. 介入後の評価で努力呼吸とチアノーゼ(酸素化不良)で『改善傾向なし』の場合は原因検索を行いながら対応を検討に変更
  10. 蘇生後のケアは『注意深く呼吸観察を継続』のみへ変更
  11. 注釈(a)、(b)の簡略化

詳しい解説は、新生児蘇生法普及事業のホームページを見るのが一番いいと思います。

ここでは、変更を知ったときの、私のリアクションを書いていきます。

救命の流れが直線化

最初のアルゴリズム表を見たとき、「なんか変わった!」と思えた変更点がこれです。
アイキャッチ画像のように、救命の流れが一本道になったのです。

変更した理由は分かるのです。
救命と安定化、もちろんどちらも大切ですが、「より大事なのはどっち!?」と聞かれたら救命です。
それが旧アルゴリズム表だと、救命の流れと安定化の流れが1対1の配分に書かれているようにも見えてしまいます。

でも私は、2015年までのアルゴリズム表も好きでした。

救命の流れと、安定化の流れ。
一次性無呼吸と、二次性無呼吸。
その大きな流れを決めるのが、呼吸の有無と心拍数100回です。
呼吸がない、または心拍数が100未満で、救命の流れへと移行します。
私はこのときの、心のギアを上げる感覚が好きでした。

「今、救命の流れに入ったからね!」という感覚です。

救命の流れに入るのは、生まれてくる赤ちゃんの5%ですので、95%のお産はギアを上げることなく終わります。
ですが、5%、決して稀とは言えないこの確率で、救命の処置が必要な赤ちゃんは誕生します。
このとき、60秒以内にギアを上げる。
アドレナリンが出て、感覚が研ぎ澄まされます。

いっぽう、新アルゴリズム表だと、最初から救命の流れにいることになります。
最初からギアを上げておいて、しっかりとした呼吸があって、心拍数100回以上あれば「ギアを落とす」ようなイメージでしょうか。

どんなお産であっても、トップギアで臨むという姿勢は、まさにプロフェッショナルだと思います。
ただ、毎回毎回トップギアでいると、それがいつの間にが通常運転モードになっていて、本当にトップスピードで駆け抜けなければいけないタイミングで危機意識なく蘇生が進行しないかなと思ってしまったり。

途中でギアを上げる感覚と、最初からギアを上げておいて途中で落とす感覚。
蘇生の処置自体は全く同じなので、感覚的にどっちが好きなのか、という話に過ぎません。
慣れたら感じ方もきっと変わると思います。

ブリーフィングの追加

2015年からPALSでも、最初に役割分担しておくことが大事って強調されました。

NCPRでも「赤ちゃんが生まれる前に、しっかり準備しておこうね」というメッセージがアルゴリズム表に加えられました。
それがブリーフィングです。

いかなる状況であっても、すぐにバギングができるような準備をしておくべきです。
バギングできない状況なら、いくら優秀な小児科医がそばにいても、何の役にも立ちません。
赤ちゃんが生まれる前に、必ず人工呼吸器具が正常に作動することを確認しておきましょう。

新型コロナウイルス感染症の妊婦さんから赤ちゃんが出生するケースでは、日ごろのシミュレーションが大切ですね。

胸骨圧迫時に「+酸素」を追加

胸骨圧迫時の酸素投与。
意識してないと、本当に忘れますよね。
心停止状態だとSpO2がなかなか表示されないので、余計に忘れやすい。

アルゴリズム表にしっかり記載されたのは、とても良いアイディアだと思いました。

ちなみに、安定化の流れで「酸素投与」がありますけれど、本当に酸素が投与されているかどうかも気を付けてくださいね。
ときどき、酸素21%を吹き流して「酸素投与したつもりになっている」人がいます。
私は「それはただのそよ風だね」と指摘します。

アドレナリンの臍帯静脈投与が第一選択

私は、挿管してアドレナリンを気管内投与するのが、もっとも慣れています。
だから、臍帯静脈確保が遅れてしまいます。

ただ、ガイドライン的には「血管確保ができないときには気管内投与をしてもいい」というスタンスです。
もし気管内投与をした場合、血管アクセスできた時点で再投与します。(3-5分たっていなくても)

努力呼吸とチアノーゼが「どちらかあり」へ

安定化の流れで評価される、努力呼吸とチアノーゼ。

今まで、ガイドラインがアップデートされるたびに表現が変更されてきました。

2010年では「あり」でした。
2015年では、「あり」では「共に」なのか「どちらか」なのか不明瞭という理由で、「共にあり」に変更されました。
そして2020年では「どちらかあり」に変更されました。

大きな変更にも見えますが、実際にアルゴリズム通りにやってみると処置の内容は変わりません。
今まで「蘇生後のケア」の内容が盛りだくさん過ぎましたし、赤ちゃんの努力呼吸に気づかないプロバイダーが速攻で「蘇生後のケア」に進んでいるのがあまり好きではなかったので、「どちらかあり」となったのは良い変更だと思います。

「必要時には」CPAPと酸素投与

「共にあり」から「どちらかあり」に変わったことで、呼吸が落ち着いていて中心性チアノーゼがあるだけの赤ちゃんにCPAPや酸素投与が検討されます。

ただ、生後5分までの赤ちゃんはSpO2 80%未満であることが多いです。
Hb15としたとき、SpO2 82%以下で中心性チアノーゼが出ますから、正常の赤ちゃんであっても生後5分までは中心性チアノーゼがあります。

この正常な赤ちゃんに対して、CPAPや酸素投与は過剰な介入です。
そのため「必要時には」という文言がアルゴリズム表に入りました。

具体的には、努力呼吸がないのであれば、SpO2値を目安に酸素投与の適応を考えます。
努力呼吸があるのなら、呼吸補助が必要でしょう(理想的にはCPAPであるべきと私は考えます)。

ただ、このあたりの判断が、若干難しいのではないかなと思います。
「必要時には」という表現は便利なのですが、ふわふわっとしていて、分かった気になって実は分かっていない人を生み出します。

「何かあったら受診してください」というのと同じですね。
「何かあったら」って何ですか、って話です。

こういうコミュニケーション系の話は、キリンさんの本に盛り込みました。
読み物としては面白いと思います。

チアノーゼと酸素化不良

上述したように、チアノーゼとはSpO2 82%以下の目安です。
ただ、生後5分まではSpO2 82%以下であることは異常ではありません。

したがって、チアノーゼは生後5分までは異常所見とはいえません。

SpO2をしっかり計ってくださいね、ということです。
生後3分でチアノーゼがあっても異常とは言えませんが、SpO2 63%であるなら異常の可能性が高いです。

注釈から「新生児仮死であっても急いで挿管しなくてよい」というメッセージが消えた

私、好きだったんですよ、このメッセージ。
お産の現場で小児科医がいないことも多く、新生児仮死に対して助産師や看護師が最初のファーストタッチをする機会は多いです。

このとき、「挿管できないから、蘇生なんてできない……」と思って手を出さない助産師や看護師が少しでも減るように、「新生児仮死であっても急いで挿管しなくてよい」というメッセージは素敵だと思ってました。
でも、なくなってしまいましたね。

理由は分からないのですが、今度は逆に挿管へ抵抗感が高まりすぎている、のでしょうか。
それとも、単なるスペースの問題なのでしょうか。

まとめ

2020年版新生児蘇生法ガイドラインの変更点11個に対して、私が思うことを書きました。

こうしてみると、良い変更だなと思ったのが半分、前のほうが好きだったなというのが半分という感じでした。
新しいガイドラインに慣れてきたら、解決することだろうと思います。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。