コロナワクチン集団接種会場の「予診をする医師の役割」について考えてみた。

2021年7月、丹波市からの要請を受けて、新型コロナウイルスの集団予防接種会場に行ってきました。
6時間、ひたすら予診をし続けました。
結構疲れました。

今日は、集団予防接種における予診の役割について考えてみます。

予防接種前の予診とは

新型コロナワクチンに限ったことではありませんが、予防接種を受ける前には必ず予診票を書きます。

この予診票を確認しながら、医師はワクチン希望者1人ずつに予診をします。

予診の目的は、「ワクチンを接種しても問題ないか」を判断することです。
問題がなければ、予防接種を「可能」と判定し、医師はサインをします。

新型コロナワクチンの予防接種では、摂取後に通常15分の経過観察が必要です。
過去に重いアレルギー症状を起こしたことがあったり、注射や採血などで気分が悪くなったり失神したりしたことがあれば、30分の経過観察が必要です。

30分観察が必要かどうかも、予診をする医師が判定します。

予診で重視すること

集団接種会場で、ワクチンを受けに来られる人と予診をする医師とは「初めまして」の関係です。
どのような病気があって、どのような薬を飲んでいるのかは、予診票とお薬手帳とで判断します。

かかりつけ医の意見が予診票に書かれている場合もあります。
この場合は、かかりつけ医の意見を最優先にします。
「初めまして」の医師よりも、普段からずっとその人の様子を知っているかかりつけ医のほうが正しい判断ができるからです。

かかりつけ医からの意見がない場合は、予診をする医師に判断が求められます。
厚生労働省が新型コロナワクチン 予診票の確認のポイントを公開していますので、それを参考にしながら接種の可否を判定します。

コロワくんも助けになりました。
予診は本当に忙しく、予診をしながら読む時間はありませんでした。
事前にしっかり読み込んでおいてよかったです。

普段から予防接種については小児科で勉強しているので、「ワクチンを接種しても問題ないか」の判断には困りませんでした。
30分観察にするかについても、「重症なアレルギー歴」、「採血・注射で気分が悪くならないか」を確認するだけなので、難しくありません。

「やっぱり副反応が心配で……」という人には、「お気持ち分かります。30分観察することで、より安心できるかもしれません。30分休んで行かれますか?」と返していました。
これがベストアンサーというわけではないでしょうが、「初めまして」の状況下でワクチンのメリット・デメリットを1から説明し、「どうですか、打ちますか?」と確認することは、不安の解消に繋がらないのではないかと思いました。
それよりも、不安に寄り添うこと、自分にできることを提案することを心掛けました。

さらに私が重視したのは、挨拶と自分の名前を名乗ることでした。

「こんにちは。医師の岡本と申します。よろしくお願いします」

予診の最初に、必ずこう挨拶をしました。
予防接種は、自分が納得して接種するというのが前提です。
ですが、それは何か大きな有害事象が起きても、自己責任という意味ではありません。

医学はどうしても不確実性を伴います。
だからこそ、医師の仕事は、責任の一端を担ぐことだと思っています。
いわゆる共有意思決定、Shared Decision-makingです。

Shared Decision-makingについては、こちらにも書きました。

小児科における意思決定の特殊性。Shared Decision-makingの問題点。

2018年3月28日

集団予防接種会場では、医師と会話できるチャンスは、予診のときのみです。
だからこそ、この予診のときに、自分が医師であることを名乗るのは大切だと思いました。

実際の集団予防接種

実際の集団接種会場の様子です。

入口から予診を受け、接種ブースに座って、予防接種を受けます。
そしてそのまま15分待機します。

30分待機が必要な人は、30分用の摂取ブースに案内され、そこで予防接種を受けます。

綿密な事前打ち合わせがあり、予定通りに、スムーズに接種は進みました。

薬液を充填する作業です。
袖が赤い服を着ているのは、丹波医療センターの看護師です。

ストレッチャーやアドレナリンが置いてあります。
私はアドレナリンに使い慣れているので、必要があればすぐに注射できるよう準備していましたが、結局使いませんでした。

予診は6人の医師で行いました。
他の医師の予診スタイルはさまざまでした。
発熱の頻度、倦怠感の頻度など、毎回説明している先生もいました。

「2回目を接種して1週間もすれば、コロナへの抵抗力が上がりますよ」とか「これで少し安心が増えますね」とか声をかけている医師もいました。
予防接種のメリットについては当たり前のことなんですけど、その当たり前を繰り返すことで、予防接種の輪が広がるような気がしました。

「今日はお風呂に入っていいですよ!」と毎回声かけている先生もいました。
私は「お風呂に入っていいですよ」は魔法の言葉だと本にも書いたくらいなので、この先生に親近感を勝手に持ちました。

まとめ

  • 集団予防接種会場では、医師と会話できるチャンスは、予診のときのみ。
  • 予診のときに、自分が医師であることを名乗ることが重要だと思った。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。