生後3か月未満の尿路感染症では、髄液検査を省略していいですか?

以前、生後3か月未満の発熱に髄液検査が必要か論じたことがあります。
近年はプロカルシトニンを利用した基準があり、Step by StepとPECARNを紹介しました。

生後3か月未満の発熱における検査プラン。髄液検査は必要か?

2019年9月15日

Step by Stepの対象は日齢22から日齢90の児です。
次の所見が全てあれば、低リスクとされます。

  • PAT(意識、呼吸、循環で評価するトリアージ)に異常なし
  • 日齢21以上
  • 尿中白血球陰性
  • プロカルシトニン0.5μg/L未満
  • CRP2mg/dL未満
  • 好中球10000/μL未満

PECARNの対象は日齢60以下です。
次の所見をすべて認めれば、低リスクとされます。

  • 尿中白血球陰性
  • 好中球4090/μL未満
  • プロカルシトニン1.71μg/L未満

低リスクの場合、髄液検査は省略できます(もちろん全身状態が良いことが前提です)。

では、低リスクではない場合は髄液検査は必須なのでしょうか。

特に、「尿中白血球陽性」の場合は、尿路感染症と考えられます。
尿路感染症と診断した場合にも、念のため髄液検査をしておくべきなのでしょうか。

今回は、生後3か月未満の尿路感染症で、髄液検査を省略していいかどうかを考えます。

Up to dateでの生後3か月未満の発熱における髄液検査基準

Up to dateでの生後3か月未満の発熱における髄液検査基準をどうしているでしょうか。
まとまっているようで、まとまっていないのがUp to dateなのですが、頑張ってまとめてみました。

Up to dateでの生後3か月未満の発熱における髄液検査基準

  • ぐったりしている場合は全例
  • 日齢28以下では全例(仮にインフルエンザやRSウイルスの迅速検査が陽性であっても)
  • 日齢29以上では以下に該当する場合(注1)

・白血球 5000/µL以下または15000/µL以上
・桿状核球 1500/µL以上
・桿状核球/好中球 0.2以上
・プロカルシトニン 0.5ng/mL以上
・CRP 2 mg/dL以上
・胸部X線で肺炎像あり(注2)
・尿中白血球陽性(注3)

注1:インフルエンザやRSウイルスの迅速検査が陽性で、全身状態が良い場合は血液検査や髄液検査を省略できる。

注2:up to dateでは『呼吸器症状がある場合において』と限定しているが、軽度な鼻汁や鼻閉は多くの児に存在し、呼吸器症状がないと断言することは難しい。また呼吸器症状がはっきりしない潜在性肺炎も経験する。したがって本書では『呼吸器症状がある場合において』という限定を外す。

注3:up to dateでは『局所感染所見があり、尿中白血球陽性』の場合、髄液検査を提案している。その状況では経験的に抗菌薬が使用されるため、細菌性髄膜炎のリスクが高まるためである。しかし、その根拠は十分ではないため、髄液検査自体のリスクと、細菌性髄膜炎を見逃すリスクとを考慮して、家族の意向を含めて判断しなければならないと注釈されている。

Up to date: Febrile infant (younger than 90 days of age): Outpatient evaluation

up to dateはStep by Stepを基本に髄液検査を決めています。
そして、尿中白血球陽性は基本的に髄液検査を提案しています。

ですが、「根拠は十分ではないため、髄液検査自体のリスクと、細菌性髄膜炎を見逃すリスクとを考慮して、家族の意向を含めて判断しなければならないと注釈されている」というフワフワしたまとめに落ち着いています。
結局どうすればいいんですか。

というわけで、他に論文を4つほど読んでみました。

尿路感染症は髄膜炎を合併しない?

The Age-Related Risk of Co-Existing Meningitis in Children with Urinary Tract Infection. PLoS One. 2011; 6: e26576.

尿路感染症の新生児163人中2人で髄膜炎を合併しましたが、生後1か月以上12か月未満の尿路感染症499人に髄膜炎は1人もいなかった、という結果です。

Testing for Meningitis in Febrile Well-Appearing Young Infants With a Positive Urinalysis. Pediatrics 2019; 144: e20183979

3572人の日齢60未満尿路感染症のうち、主として日齢30以降で炎症反応がそれほど高くない児505人では髄液検査をしませんでしたが、トラブルは起きなかったという結果でした。
乳児期以降の尿路感染症については、髄液検査を省略してもいいのではないかと結論づけられています。

尿路感染症は髄膜炎のリスクを上げも下げもしない

さきほどの論文にはコメントが寄せられています。

Routine CSF Analysis May Not Be Indicated in Febrile Infants With a Positive Urinalysis. J Pediatr. 2020; 216: 242-245.

これらの後方視研究だし、尿路感染症は髄膜炎のリスクを上げはしないんだろうけど、下げもしないんだという注意をしています。
これは私自身の感覚とも同じです。

What Is the Risk of Bacterial Meningitis in Infants Who Present to the Emergency Department With Fever and Pyuria? CJEM. 2003 Nov; 5: 394-9.

尿路感染症の3か月未満211人中、140人が髄液検査をされたけど、1人も髄膜炎はいなかったという報告です。
その結果をふまえても、大規模スタディがなされるまでは、抗菌薬投与前に髄液検査をして髄膜炎を除外しておくべきだと結論づけています。
私も、生後3か月未満の発熱にはこれくらい慎重であるべきだと思っています。

結論:生後3カ月未満の尿路感染症は髄膜炎のリスクとはいえないが、髄液検査を省略できる根拠も十分ではない

論文をいくつか読んだ結果、up to dateと同じ結論になってしまいました。

「生後3か月未満の尿路感染症は基本的に髄液検査を提案するが、根拠は十分ではないため、髄液検査自体のリスクと、細菌性髄膜炎を見逃すリスクとを考慮して、家族の意向を含めて判断しなければならない」

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。