インフルエンザ検査が陰性だったときの私の対応4つ。

毎年毎年、浴びるほどインフルエンザを診ています。
自分がインフルエンザにならないのが奇跡です。

これだけたくさんのインフルエンザを診ていていれば、検査をしなくてもインフルエンザかどうか診断できる「熟練した小児科医」になれそうな気がしますが、私のインフルエンザ診療に検査は基本的に欠かせません。

しかし、検査をすればすべて上手くいくのかというと、そうでもありません。
特にインフルエンザ検査が「陰性」だった場合は。

今回はインフルエンザ検査が陰性だったときの私の葛藤について、葛藤しながら書きます。

インフルエンザ診療の難しさ

インフルエンザにはいくつかの顕著な特徴があるにもかかわらず、RSウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルスなど、ほかの呼吸器ウイルスによって引き起こされる疾患と区別できないことが多い。

ネルソン小児科学

 

インフルエンザ流行期であっても、小児では他のウイルスにより、咳や鼻汁に高熱を伴う症状を呈する場合が多々みられる。問診と理学的所見からインフルエンザを診断することは不可能である。

日本医事新報 4830号 Page28-32(2016.11)
【そこが知りたい!インフルエンザ検査】 インフルエンザウイルス抗原検出キットの実力

インフルエンザに対する私の臨床的な診断確度は、せいぜい70%程度だと思います。
上記の文献でも引用した通り、インフルエンザを問診と診察だけで確実に診断することは非常に難しいのです。

「検査なんて不要! 私、誤診しないので」という大門未知子のような小児科医はいてもいいですけど、私はきっとその医者と仲良くなれないと思います。

以前書いた記事で「”私のインフルエンザ診療は熟練の域に達した”などという医者は多くの場合未熟だ」という皮肉を書きましたが、この考えは今も変わっていません。

インフルエンザを検査すべきではない時。判断を左右する4%と70%の壁。

2017年2月19日

基本的には検査キットの診断を信用する

診断が難しいからこそ、検査を有効活用します。

結果が陽性であれば迷うことはありません。
抗インフルエンザ薬を処方します。
(抗インフルエンザ薬は肺炎や脳症のリスクを低下させると私は臨床的に感じています)

問題は検査結果が陰性だったときです。
私が取りうる対応は次の4つのどれかになります。

  1. よかった、インフルエンザではなさそうですね。
  2. インフルエンザの可能性は低いです。念のため麻黄湯を出しておきます。
  3. インフルエンザの可能性はあります。明日もう一度検査してみましょう。
  4. 検査は陰性ですが、きっとインフルエンザです。タミフルを出します。

私はこの4つの対応を状況に合わせて行っています。
一つずつ解説します。

よかった、インフルエンザではなさそうですね。

発症から12時間経過していて、さらに私の検査前確率が50%以下である場合、検査結果の陰性を支持します。
以前のインフルエンザ検査の感度は62.3%、特異度は98.2%と報告されていました。(Accuracy of rapid influenza diagnostic tests: a meta-analysis.Ann Intern Med 2012)

もちろん、検査感度は発症から検査までの時間に大きく影響を受けます。
Performance characteristics of a rapid immunochromatographic assay for detection of pandemic influenza A (H1N1) virus in children.(Eur J Pediatr. 201; 170: 511-7)で、発症から12時間までの検査感度は35%、12時間から24時間までの検査感度は66%、発症から24時間から48時間の検査感度が92%であると報告されました。

もっとも感度が良好だったのは発症24時間から48時間での検査ではありますが、発症から12時間あればまずまずの感度と言えるでしょう。
日本のインフルエンザ診断キットは上記の報告よりももっと優秀かもしれません。

優れたキットと適切な鼻汁検体を使用すれば、A型ウイルスに対する感度は90~95%である。ところが、いかなる方法を用いてもB型ウイルスに対する感度は90%未満である。

日本医事新報 4830号 Page28-32(2016.11)

日本のインフルエンザ診断キットはおおむね感度90%といえる成績があります。
これは前述の論文の検査感度が全体で64%であることを考えると極めて優秀な数字です。

以上から、私は発症から12時間経過していた場合の「検査陰性」は信用してもいいと思っています。

もし偽陰性だったらどうしましょう?
そのときはインフルエンザを見逃すことになります。
ですが、その見逃しは少ないと考えられるからこそ、この対応になります。
さらに、インフルエンザを見逃したとしても、全身状態が悪くなければ抗インフルエンザ薬の投与は必須ではありません。

健常児に対しては「基礎疾患を有さない患者であっても、症状出現から48時間以内にインフルエンザと診断された場合は各医師の判断で投与を考慮する」「一方で、多くは自然軽快する疾患でもあり、抗インフルエンザ薬の投与は必須ではない」としており、全例投与は推奨していません。

その一方で、24時間以内に治療を開始された幼児においては、解熱短縮期間(のちに有症状短縮期間に訂正されました)が3.5日にも上ることが報告されており(Heinonen S, et al. Clin Infect Dis 2010; 51: 887-94)、本邦における診療を鑑み、健常児に対する抗インフルエンザ薬の使用法については医師の自由裁量権を尊重とした推奨としています。

日本小児科学会
抗インフルエンザ薬使用方法に関する要望書に対する回答書
2014年12月22日

都合のいい解釈で申し訳ありませんが、「多くは自然軽快する疾患」という点を心のよりどころとして「よかった、インフルエンザではなさそうですね」と説明します。

インフルエンザの可能性は低いです。念のため麻黄湯を出しておきます。

検査前確率が50-70%くらいだと見積もっていたのに、検査が陰性だった場合がこの対応になります。

たぶんインフルエンザではないと思うのです。
ですが、万が一インフルエンザであってもいいように麻黄湯を出すことがあります。

麻黄湯は子どもでも意外と飲めます。
(飲めない子は飲めませんが)

インフルエンザでなくても、麻黄湯は風邪の諸症状を緩和してくれるので、処方しやすい薬だと思っています。

インフルエンザの可能性はあります。明日もう一度検査してみましょう。

個人的にはあまり好きではない提案です。
インフルエンザ検査って結構痛いんですよね。

でも、インフルエンザはできるだけ正しく診断されるべき疾患です。

インフルエンザは、インフルエンザウイルスを病原とする気道感染症であるが、「一般のかぜ症候群」とは分けて考えるべき「重くなりやすい疾患」である。

国立感染症研究所

かぜの原因がライノウイルスなのかRSウイルスなのかヒトメタニューモウイルスなのかパラインフルエンザウイルスなのかその他のウイルスなのかを診断する必要はないと私は思っています。

ですが、インフルエンザは別です。

正しく診断しようと思うと、翌日再度検査をお願いすることがあります。
初回のインフルエンザ検査が発症から12時間以内であればなおさらです。

このとき、抗インフルエンザ薬をとりあえず1日分だけ出しておくかは議論になります。
私の持っているデータ(サンプル数は10程度です)では、抗インフルエンザ薬投与後も3-8日は検査陽性が続きます。
1日抗インフルエンザ薬を出したからといって、偽陰性が極端に増えるとは思えません。
1日だけタミフルを出して、翌日も検査陰性であればタミフルは終了するというのも選択肢としてはいいのかもしれません。

ですが、私は1日だけタミフルで翌日再検査というのはしたことがありません。

タミフルを出すとなると、確定したインフルエンザ診断が必要です。
次の日再度検査をする意義がないのです。

確定していないインフルエンザだとなれば、やはり麻黄湯が使いやすいと思ってしまいます。
麻黄湯を出して翌日再検査であれば、私は時々します。

ですが、翌日再検査はやはりあまりしたくないですね。
痛いですし。
一度目の検査が陰性だったのなら、その結果を信じて2度目の検査をしないというのもありかもしれません。
この議論はいつも堂々巡りです。

インフルエンザは「一般のかぜ症候群とは分けて考えるべき重くなりやすい疾患」という要素と「多くは自然軽快する疾患」という要素が相反しているため、このようなことになるのでしょう。

検査は陰性ですが、きっとインフルエンザです。タミフルを出します。

検査前確率が70%以上で、検査が陰性だった場合はこの選択肢が登場します。
または検査前確率が50-70%であっても、基礎疾患があれば考慮します。

「検査が陰性でもタミフルを処方するなら、検査しなくていいのでは?」

このような疑問があるでしょう。
おっしゃる通りだと思います。

ただ、自身の検査前確率をフィードバックする意味合いで、私は検査前確率が高くても基本的にはインフルエンザ検査をします。
その患者さんだけを考えれば検査は不要だったかもしれませんが、優れた医療を提供し続けるために、フィードバックは必要です。

注意点としては、保護者のすべてが「インフルエンザとしてタミフルを処方して欲しい」と思っているわけではないことでしょう。
保護者が仕事をしていて、「インフルエンザと診断されて約5日間の登園禁止になったら非常に困るので、ぜひともインフルエンザではないことを証明して欲しい」というケースでは、この選択肢は危ないです。
場合によっては翌日再検査を考慮してもいいでしょう。

まとめ

以上、インフルエンザ検査陰性だったときの4つの対応を書きました。
ここまで長文になったことから、私がいかに葛藤を抱えながらインフルエンザ診療をしているのかが伝われば幸いです。

今回はインフルエンザ検査をして結果が陰性だった場合という状況に限定しています。
実際は、インフルエンザ検査をするかどうかも問題になります。
たった今発熱したばかりの患者さんに対して、検査すべきでしょうか?
発熱から12時間経っていない場合の検査感度が低いことは、前述した通りです。
それでも検査する?それとも検査しない?
検査しない場合は検査前確率に応じて抗インフルエンザ薬を出す?それとも翌日再診してもらって検査する?
明確な答えはなく、いつも葛藤します。

ちなみに、どう考えてもインフルエンザではないのに、保育園が検査を依頼してくるときも葛藤があります。
それはこちらの記事に書きました。

RSウイルスやインフルエンザの検査。保育園に指示された時の11の対応。

2017年2月18日

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。