新生児蘇生法講習会を開催するまでの8ステップ。

2017年7月1日に、兵庫県立柏原病院で「第1回新生児蘇生法講習会」を開催しました。

開催に至るまでのステップを記録として残します。
今後NCPRを開催しようとしている地域で役に立つかもしれません。

開催の意志を表明する

2017年4月5日、県立柏原病院に赴任して5日目です。
この日の小児科カンファレンスで、私は「この病院で新生児蘇生法の講習会を開きたい」と申し出ました。

小児科部長の先生に承認を得て、「3か月以内に講習会を開く」という目標を設定しました。

期限を決めるというのは、私が個人的に好んでいる「モチベーションの高め方」です。
とりあえず期限を決めておくと、それまでに達成しようというやる気につながりますし、間に合わなかったときも現在の進捗を報告する目安になります。

今から振り返れば、ここでの部長承認がとても迅速だったため、強い意欲を持って講習会開催に臨めたのだと思います。
部下のやる気を促す、素晴らしい上司です。(気恥ずかしいので本人には言えませんが)

既存の運営部会の協力を得る

講習会を一人で開催することはできません。
特に金銭のやりとりが発生する場合には。

収支報告、支出報告、それに関わる税金など、お金が関与することを始めようとすると、それなりの手続きが必要となります。

病院の事務の人の協力が必要不可欠となります。

また、せっかく講習会を開くのであれば、病院の実績にしたほうが病院に取って都合がよいでしょう。
病院長と連絡し、講習会の開催を病院から公式に認めてもらいましょう。

これをスムーズに行うには、既存の運営部会に加えてもらうのがもっとも効率的です。

たとえばICLSやJMECCを実施している救急運営部会がすでにあるのなら、そこに話を持っていき、新生児蘇生講習会の開催も含めて欲しいと立案しましょう。
既存の運営部に加わることで、事務の人の問題や、病院長とのやりとりがスムーズになります。

NCPRの実施要領を作る

救急運営部会に加わると、つづいて必要なのは実施要項です。

新生児蘇生法講習会の目的・開催する回数・インストラクターの数・受講生の数・参加費用・必要な物品・インストラクターを外部に依頼するときの謝金などを決めなければなりません。

この実施要領を救急部会が承認し、病院長が承認することで、講習会は病院公式のものになります。
小児科医でなくても理解できるように、分かりやすい実施要領を作りましょう。

たとえば、こんなのはどうでしょうか。

目的
新生児蘇生法講習会(以下、NCPR)は、日本周産期・新生児医学会が認定した「出生時に胎外呼吸循環が順調に移行できない新生児に対して、いかにして心肺蘇生法を行うべきか」を学ぶことを目標とした少人数制の救命処置に関するシミュレーション研修として、次の事項に資することを目的とする。
(1) 医師、看護師、助産師、医療技術者の新生児蘇生能力の向上
(2) 地域ネットワークづくり
(3) 地域産院を含めた新生児仮死の減少
(4) 新生児蘇生法「専門」コースインストラクターの養成

これに「運営組織について」「年間開催回数について」「インストラクター、受講生、インストラクター補助について」「経費について」の項目を加えました。

初回の運営部会が2017年5月11日でしたので、それに間に合うように実施要領を作成しました。

運営部会での1回目の調整

救急運営部会では、実施要領を説明し、承認をもらいました。
これで、新生児蘇生法講習会は病院の公式な活動になります。

同時に、実際の開催日程や必要な物品について協議します。

細かいところですが、調整が必要になったのは以下です。

  • 受講料をどうするか?
    当日持参か、事前振り込みか?
  • 昼食はどうするか?
    受講生は受講料に含めるか?
    インストラクターや補助からは昼食代を徴収するか?
    全員分用意するのか、希望者だけ用意するのか?
  • インストラクターは勤務扱いか?
    インストラクター補助は勤務扱いか?
  • 機材の返却は誰が行うか?
  • 経費はレシートでいいのか?
    もっとも大きな経費となる機材レンタル料を振りこむタイミングは、受講料を徴収した後でいいのか?
  • 当日の名札は誰が準備するのか?
    受験番号を名札に記載するなら、番号はどうするか?
  • 受講者やインストラクター補助の決定はどうするか?
    勤務の都合もあるので、看護師長が決定するか?

すぐに決定できることもあれば、確認が必要なこともありました。
とりあえず新生児蘇生法講習会の開催に関しては承認され、2017年7月1日開催に向けて、次回の運営部会を6月8日としました。
それまでに受講生募集のチラシを作り、受講生を集め、6月8日に受講生を決定することにしました。

チラシは運営部会のスタッフに作って頂きました。

新生児蘇生法普及事業に事前公認申請などをする

開催日が決定しましたので、新生児蘇生法普及事業に事前公認申請を行います。

事前公認申請は開催日の30日以上前までに行わなければなりません。
受講料やタイムスケジュール、インストラクター補助について記載しますが、これらは開催後の実施報告で修正できますので、現時点での予定でよいでしょう。

レンタル機材も申し込みます。
実は、このステップがもっとも肝を冷やしました。
というのは、レンタル機材がもうあと残りわずかだったのです。

もし土曜日または日曜日に講習会を開催するのであれば、レンタル機材の確保は要注意です。
レンタル機材が在庫切れしてしまうと、レンタルできなくなります。
そうなると、受講生も集まって、会場も予約したのに、機材がなくて講習会が実施できないという事態になります。
今回は運良くレンタル機材を借りられましたが、次回からはまずは機材の確保を優先して開催日を決定したいと思っています。

また、講義用のスライドも購入します。(新生児蘇生法普及事業のホームページで購入できます)

運営部会での2回目の調整

2017年6月8日に2回目の運営部会調整を行いました。

前回の部会からの進捗状況を報告し、受講者を決定しました。
準備担当の人は、当日は何時に集合すればいいのかなどさらに細かいことを決定しました。

  • 受験番号の決定。
  • 名札の作成。
  • お弁当の発注。
  • 受講者への案内(受講証)の作成。
  • カメラ係の決定。
  • おやつ係の決定。
  • 器材返却係の決定。
  • パソコン・音響・プロジェクターの準備係の決定。
  • アンケート係の決定。
  • 講義用スライドのリハーサル(準備するパソコンで再生できるか、音が鳴るかのチェック)

講義用スライドチェックは大事です。
多くの場合、講義用スライドは正常に動作しません。
正常に動作させる方法を書きます。

コントロールパネルから、「システムとセキュリティ」をクリックします。

Flash Playerの項目があるはずです。
もしなければ、Adobe Flash Playerをダウンロードするところから開始して下さい。

Flash Playerの項目があれば、クリックして下さい。

上のタブの「高度な設定」をクリックし、「信頼されている場所設定」を押してください。

「追加」を押してください。

「フォルダーを追加」を押してください。

DVDドライブを選択し、「OK」を押してください。

Dドライブが追加されているはずです。
ここまで確認できれば「閉じる」を押して、設定を終了して下さい。

続いて、DVDドライブに、講習会講義スライドのDVDを入れてみましょう。

「start」をダブルクリックすれば始まるのですが、Chromeでは再生できません。
もしChromeが標準の再生ソフトになっている場合は上図のように「start」を右クリックし、「プログラムから開く」から「Internet Explorer」を選択すれば再生できます。

NCPR開催当日

開催日までに私が行ったことは、受験番号の決定したのと、器材返却係になったのと、講義用スライドのリハーサルをしたくらいです。
また、開催当日のテストでは、開催年月日や講習会公認番号、会場名などを記載する欄がありますので、それを受験者に伝えるためのスライドを1枚作りました。

あとは運営部会のスタッフにお願いし、うまく手配して頂けました。
特に、おやつ係が用意してくださったロールケーキがすごくおいしかったです。

しっかりとした準備をしていたおかげで、7月1日開催当日は何も問題がありませんでした。

NCPR実施後

実施後、いくつかしなければならないことがあります。

注意点を列挙します。

  1. プレテストの点数を報告しなければならないので、テストを郵送する前に実施報告したほうがよいでしょう。
  2. 受験生が看護師か助産師かを記載しなければなりません。
  3. 受験生はフリガナが必要です。
  4. 受験生が周産期・新生児医学会の会員かどうか記載しなければなりません。2-4については、受講生決定時に確認しておくべきでしょう。
  5. レンタル器材の返却はヤマト運輸に持ち込めば1844円でした。
  6. テストの返却は380円切手が必要です。
  7. 受講者8人分の結果をまとめて返却してもらう場合、400円切手を貼った角0の封筒が一枚と、受験者の名前を書いた人数分の角2封筒(こちらは切手不要)が必要です。
  8. 集合写真は撮っていますね?

これでようやく新生児蘇生法講習会は終わりです。
おつかれさまでした。

まとめ

今回、兵庫県立柏原病院で初めて新生児蘇生法講習会を実施しました。
運営部会のスタッフおよび、小児科・産科のスタッフのおかげで、とても迅速に、かつトラブルなく開催することができました。

この新生児蘇生法講習会で、県立柏原病院での出産がさらに安全なものになると思っています。
この講習会を継続するとともに、県立柏原病院の産科、小児科、運営部会が一丸となって、丹波市の周産期医療に貢献していきます。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。