日本小児科学会学術集会で学んだこと。

2017年4月28日追記。
エムラクリームについて追記しました。

2017年4月14日から16日まで、第120回日本小児科学会学術集会がありましたので、参加してきました。

私の主な参加目的は、ポスター発表をすることでした。
「PSL+ミゾリビン+ACE-I+ARB治療が著効した半月体形成性IgA腎症の1例」について発表し、議論の時間も設けて頂き、重症IgA腎症はステロイドパルスの方向に行くのか、ACE-I+ARBの方向に行くのか、腎臓の専門家の先生を直接聞くことができました。

今回は、「何のために学会に行くのか」という点と、「今回の学会で何を学んだのか」という2点について書きます。

情報収集としての学会

学会に行くと、面白い知見に出会えます。

いろいろな病院のいろいろな研究に触れて、感化され、モチベーションが上がります。

ですが、わざわざ学会に行かなくても情報収集はできるという意見は当然ありますし、あってよいと思います。

岩田健太郎先生のブログでも、学会参加の意義について触れられています。

21世紀の現代、学会で得る「新たな情報」などほとんどなく、自分で自宅や職場で得る勉強のほうがはるかに効率的だしコストもかからない。
学会にいくことに本当に意味があるのか?
このくらいラディカルに考えてみるべきだ(同窓会と観光以上の意味はあるのか?)

岩田健太郎先生
「医局と学会の謎、について」

東京(学会によっては、北海道や沖縄であることもあります)まで行く費用、時間を考えると、家で勉強している方が効率的だという点に私も異論はないです。

臨床的に困っていることがあって、学会に参加したおかげで解決したということは、残念なことに私自身経験したことがありません。
(臨床的な疑問を解決してくれるのは、pubmedか医中誌か先輩のアドバイスです)

学会に対して、情報収集源としての価値だけを突き詰めると、限界を感じます。

何のために学会に行くのか

家で勉強している方が効率がいいかもしれないのに、兵庫県の小児科医が、土曜日と日曜日を使って、東京まで行くのは何のためでしょうか。

  • 自分の気づきを発表し、さまざまな意見をもらうため。
  • 意見をもらったうえで、論文にするため。
  • 最新の知見を情報収集するため。
  • 他の病院の小児科医と交流を深めるため。

日々患者さんを診ていると、あるとき貴重な症例を経験し、教科書にはない「気づき」を得ることがあります。

その「気づき」をリサーチクエスチョンという形に直して、研究し、論文にすると、医学の進歩につながります。

学会発表で、データの不備や解析の不備を指摘されることがあります。
考察の方向性について、アドバイスをもらえることもあります。

また同じような経験をした別の医師と繋がれる可能性があります。
同じような経験をした医師からは、貴重なアドバイスをもらえるでしょう。

学会発表というのは、論文にするひとつ前の状態に位置すると私は思います。
論文にするという目的のための、手段として学会発表があると思います。

逆に、論文として発表した自身の研究を広く知ってもらうために学会発表するのもよいと思います。

第120回日本小児科学会学術集会で何を学んだか

小児科学会に限らず、多くの発表が以下のパターンです。

  • ありふれた疾患が珍しい経過をたどったパターン。
  • そもそも珍しい疾患のパターン。
  • 新しい治療や検査の試みを紹介するパターン。
  • いくつかの症例をまとめて検討するパターン。

経験を共有できるというのは、本や論文でその疾患を学ぶよりも、臨場感があって私は好きです。

ですが、学会で得られる知識には限界があります。

学会発表の寿命は短い。
アーカイブで残るのも抄録だけだし、そもそも査読が甘々なので発表の質が低い(地方会とかやるから、さらに薄まって低いのが日本の特徴だ)。
患者や病気をゴチャゴチャ集めて「当院における何とか病の20例」みたいな「研究したふり」の発表が多く、その手の発表は学会が終わるとすぐに忘れられる。
そんな賞味期限の短い活動をするくらいなら、5年も6年もかけて妥当性の高いデータ解析をして、ちゃんと論文をパブリッシュすればよいのである。
たくさん発表をすれば業績だと(誤って)信じてくれるのは文科省くらいだ。
pubmedに入れる論文であれば、その寿命は(おそらく)未来永劫である。
労働の時間効率からいってもポスターを作る労力よりもよほどリターンが大きい。
いつも言っているが、論文化しないのであればポスターは作るべきではない(無駄だから)。

岩田健太郎先生
「医局と学会の謎、について」

確かに、学会で学んだことはすぐに忘れてしまいます。

情報の信頼性というのも各医師の良心に委ねられています。
(これは論文でもそうですが、論文の場合は査読が入るので信頼性は増します)
間違った解釈による偏った意見も当然ありますから、発表の質を担保することは難しいでしょう。

学会で得た知識は、すぐに忘れてしまいがちで、振り返ろうにも抄録には要旨しか書かれず、情報の正確さは担保されていません。
こう書くと、学会に行く意義は、論文を書かないのであればあまりないように感じられるかもしれません。

ですが、たとえ論文を書かないのであっても、学会参加にはメリットがあります。
何かしら感化されるというメリットです。

感化されることがメリットなのかどうかは議論になるでしょうが、新しい刺激を受けることはモチベーション向上につながりますから、私はメリットだと思っています。

今回私がもっとも感化を受けたテーマは2点です。

  • 小児ピロリ菌診療Update
  • 子どもの痛みについてもう一歩踏み込んで考える

少し紹介します。

小児ピロリ菌診療Update

ささやま医療センターの奥田真珠美先生の「小児ピロリ菌診療Update」はとても面白い講演でした。

私自身、小児科をやっていて、小児のピロリ菌を2例診断したことがあります。
どちらも十二指腸潰瘍の症状があったため、ピロリ菌検査を行いました。

そういう背景から、私は(自分でも気づいていませんでしたが)、ピロリ菌に非常に興味を持っていたようです。

兵庫県篠山市は中学1年生のときにピロリ菌検査を無料で受けることができます。
これは、篠山市のホームページにも書いてあります。

ピロリ菌検査の意義については、賛否両論があるので、一言では語れません。

ですが、私がもっとも知りたいと思ったのは、「どうやって病院と市役所が提携して、市の行政を変えることができたのか」というエピソードについてでした。

奥田先生の講演が終わった後、直接質問にうかがわせてもらい「もし仮に私が丹波市でもピロリ菌をスクリーニング検査できるようにしたいと思ったら、どのようなアプローチをすればいいのですか?」と聞きました。

篠山市ではこういう事情でピロリ検査がはじまったことや、もし篠山市の隣の丹波市も参加したいのであれば、こういう手法が一例としてあるなどを具体的に教えてもらえました。

子どもの痛みについてもう一歩踏み込んで考える

北海道大学病院小児科の長先生がエムラクリームを紹介されました。

「子どもの人権を無視していませんか?」という問いかけは、心に刺さるものがありました。

エムラクリームは塗ってもすぐに効果はありません。
60分以上待たないと麻酔効果が出ないのです。

なかなか使いづらいという印象を持っていましたが、うまくエムラクリームを使いこなせている施設の体験談はとても勉強になりました。

ちなみにこのセミナーでは、神戸大学の小児科で初期研修していたときの恩師である早川晶先生の隣の席につきました。

早川先生はエムラクリームを使った経験があり、「エムラクリーム導入に大切なのは、外来スタッフと仲良くすること」というアドバイスを頂きました。

確かに処置の時間が長くなるので、外来はいっそう大変になります。
外来スタッフ、特に外来看護師さんとうまく意思疎通がとれていないと、エムラクリーム導入は難しそうです。

エムラクリームについてはこちらの記事にも書きました。

エムラクリームの使い方。実際に効果を確かめてみた。

2017.04.28

まとめ

  • 学会には医学情報の収集目的以外に、論文を書くための手段としての価値がある。
  • 感化されることでモチベーションが上がる。
  • 医学に対する自分の興味を再認識できる。
  • 発表者と直接交流することで、論文には書けないような裏話を知ることができる。

そういえば、私はピロリ菌の患者さんを2回も診ていたな、ということをあらためて思い出しました。
除菌によって十二指腸潰瘍はもちろんよくなったのですが、その後胃がんになるかどうかまでについては深く考察していないことをこのとき初めて気づきました。

学会参加は、この「感化される」という感覚が楽しいと思います。
私は感化された発表を書きとめて、病院に持ち帰って「今回の学会で学んだこと」というレポートを毎回書き、小児科内で情報共有するようにしています。

ただ、楽しいからといって、病院機能が落ちては本末転倒です。
申し送りや学会参加中の連絡手段の徹底はもちろんのこと、病院を代表して学会に来ているんだという自覚をもって、決して旅行や観光目的にならないように肝に銘じ、そして学会を終えたら留守をしてくれた先生に学会で得た情報を提供をしなければなりません。