「優れた指導者となるためには、優れたプレイヤーである必要がありますか?」
天才的プレイヤーが天才的指導者になることは、もちろんあるでしょう。
いっぽうで、プレイヤーとしては天才的であっても、指導者としては今一つというケースあります。
逆にプレイヤーとしては目立たなくても、指導者としては優秀だった人もいます。
実践することと指導することは、必ずしもイコールではないのでしょう。
ですが私は、やはり指導者には指導者自身が指導内容を実践し、成功しているという経験があって欲しいと感じています。
つまり、タバコを吸っている医者に禁煙外来でいくら指導されても、「いやいや、あなただってタバコ吸ってるじゃないですか」となって、なかなか指導内容を受け入れられないかもしれません。
「偉そうに指導していますけど、あなた自身はどうなんですか?」という疑問は、必ずあって然るべきです。
前置きが長くなりました。
ようやく本題です。
兵庫県立柏原病院は肥満の子どもたちに対して真剣に向き合っています。
子どもの健康を願って、肥満の教育入院(チャレンジキッズ)も行っています。
私自身も、肥満の子どもを診ています。
肥満の指導をする医師が、自分の体重をコントロールできなかったとしたら、どう思いますか?
今回は、真剣に肥満外来を取り組むため、私自身が手本となって体重コントロールを実践してみました。
このページの目次です。
治療開始前の私の体重
2018年3月4日。
丹波市は冬の味覚も豊富です。
猪鍋と地酒の相性は最高です。
その結果、私の体重は右肩上がりに上昇しました。
身長 181.3cm。
体重 79.8kg。
体脂肪率 23.2%。
BMI 24.3。
そういえば、最近白衣のズボンが苦しい。
健康診断でも、LDLコレステロールが上がってきている。
自分の健康も心配ですが、この状況で子どもの肥満外来をやっても、説得力が全くない!
「これはまずい……」
私は焦り、ダイエットを決意しました。
肥満外来のノウハウ
私の肥満外来の流れは、以前この記事に書きました。
根気強く体重曲線を書きつつ、栄養指導を行い、上手くできれば褒めて、上手く行かない時は原因を一緒に考えて、支えていきます。
子どもは比較的運動をするものですから、大事なのは食べ過ぎを防ぐことでしょう。
とにかく根気強く。笑顔が好き。
普段、肥満外来で子どもたちに指導していることを私自身も実践してみましょう。
上記の中で私が実践できそうなものは、次の4つです。
- 体重曲線を書く。
- 栄養指導をし、食べ過ぎを防ぐ。
- 運動する。
- 根気強く。
一つずつ見ていきましょう。
体重曲線を書く
私の肥満外来では、電子カルテと体重曲線が連動しているので、患者さんの体重と身長を打ち込めば、体重曲線と肥満度の推移がすぐにグラフとして出力されます。
私自身に対して電子カルテを使うことができないので、代わりに仕えそうなスマートフォンアプリを探してみました。
なんだかいっぱいあります!
どれでもいいと思います。
(ちなみに私は、かわいいイラストに惹かれて、右上のウサギのアプリにしました)
体重曲線を書くことは、ダイエットのモチベーション維持に有効です。
私の肥満外来でも、体重曲線を書くことは治療の第一歩です。
ちなみに、子どもの肥満の場合は、体重を落とすことよりも、体重を維持できることを重視したほうがいいでしょう。
身長は伸びますので、体重が維持できれば肥満度は下がるはずです。
したがって、子どもの肥満外来でモチベーションを保つためには、肥満度をグラフにすることが大事です。
栄養指導し、食べ過ぎを防ぐ
栄養指導。
炭水化物、たんぱく質、脂質のバランス。
野菜をたくさん食べる。
30回かんで食べる。
などなど……。
私が肥満外来で指導していることはいくつかあります。
ですが、私がとにかく重視しているのは「1日の総カロリー」です!
炭水化物制限ダイエットというのがありますが、私は総カロリーさえ減るのであれば、炭水化物を減らそうがたんぱく質を減らそうが脂質を減らそうが、どれでも良いと思います。
その根拠となる論文はいくつかありますが、分かりやすいものの一つとして、Comparison of Weight-Loss Diets with Different Compositions of Fat, Protein, and Carbohydrates(N Engl J Med. 2009; 360: 859-73)を挙げます。
この論文では、811人の太った成人に対し、2年間の食事内容を次の4グループに分け、比較検討しました。
- 炭水化物65%、たんぱく質15%、脂質20%
- 炭水化物55%、たんぱく質25%、脂質20%
- 炭水化物45%、たんぱく質15%、脂質40%
- 炭水化物35%、たんぱく質25%、脂質40%
総カロリーはいずれのグループも体格に合わせた理想カロリーとされました。
結果は、いずれのグループも2年間で平均4kg痩せました。
以上から、私は「重点的に炭水化物を減らそう!」とは考えませんでした。
総カロリーが減れば、炭水化物制限食であろうが脂肪制限食であろうが、ダイエット効果は十分だと考えられるからです。
私が自分のために課した食事指導は以下です。
- 普段なんとなく飲んでいるビールをやめる。
- ご飯のお代わりをしない。
- 主菜・副菜は残さず食べる。
- ジュースやスポーツドリンクは飲まない。
- 週に1回は「お菓子を食べてもいい日」を作る
ビールをやめる
ビールは350ml缶でも約150kcalあります。
前述の論文では、1日225kcalのカロリー制限ができれば、6か月で6.5kgの体重減少が期待できるとあります。
習慣的に飲んでいるビール1本を辞めるだけで、ダイエットの7割は達成できたようなものです。
生活習慣病とはよくいったものだ、とあらためて感じました。
ただ、ビールが飲めないというのも精神的に辛く、続けられないと感じたので、トクホのノンアルコールビールを買いました。
なかなかおいしいです。
ノンアルコールビールの中で、個人的にもっとも気に入りました。
主菜・副菜は普段通り食べるが、ご飯をお代わりしない
ご飯はお代わりしないようにし、代わりに主菜・副菜は普段通り食べました。
これは「そうしよう!」と思ったわけではなく、自然とそうなりました。
「ダイエット中だから」とおかずを残すと、せっかく作ってくれた妻に申し訳ないように思ったのです。
妻の作ってくれた料理をおいしそうに食べることも大事な夫の役目……なんていうと絶対に怒られますが。
(実際のところ妻の料理はおいしいので、主菜・副菜を制限するのは私にはできそうにありませんでした)
要するに、カロリーを制限するために、主菜・副菜・ごはんのどれを減らすのがもっとも簡単かと考えたら、ごはんを減らすのが簡単だったという話です。
ご飯が少なくて物足りないなーと思うときは、ゆっくりよく噛んで食べると満足感が得られます。
私が肥満外来で指導していることを実践して、なるほどと感じました。
ジュースやスポーツドリンクは飲まない
ジュースやスポーツドリンクは、ビールと同じで悪しき習慣です。
のどが渇いたときに必要なのは水分です。
のどが渇いたときの水分補給に、糖分も摂取する必要はありません。
ただ、私たちが何かを飲むとき、それはただ水分を補充したいわけではないですよね。
たとえ喉が渇いていなくても、ちょっと休憩して一息つきたいときに、何か飲みたいと思うことはあります。
私はコーヒー(ブラック)が好きなので、飲み物の問題はあまりありませんでした。
週に1回は「お菓子を食べてもいい日」を作る
私は甘いものが好きで、兵庫県三田市にあるes koyamaというケーキ屋さんに2時間並んだこともあるくらいです。
丹波市、篠山市のケーキ屋をめぐるのも、趣味の一つです。
この趣味を失うと、私の人生の質は大きく低下します。
QOLが大きく低下します。
それに、今後自分の子どもたちと一緒にアイスクリームを食べられなくなるのであれば、ダイエットは続けられないと思ったからです。
そのため、土曜日か日曜日かは「お菓子を食べてもいい日」にしました。
これは「週末は家族で出かけるから、今週はシュークリームをやめておこう」とモチベーションの維持につながりました。
週に1回ご褒美があると、続けられます。
運動する
肥満外来では、私はあまり運動を指導しません。
というのは、子どもはある程度運動しているものだからです。
(登下校、休み時間、体育などで)
とはいっても、それは子どもの話。
私は車通勤だし、体育もありません。
そのため、意識的に体を動かすようにしました。
といっても、外来や病棟の往復を「早歩き」で移動することと、「エレベーターを使わない」ことを心がけたくらいです。
3年ほど前にトレーニング・ジムに通ったことがありますが、続きませんでした。
仕事もあり、子どももいる状況で、ジムに通うのは不可能です。
妻の視線が冷たくなります。
もうちょっと子どもが大きくなって、手がかからなくなったら、夫婦そろってジムを再開するかもしれませんが、現状ジムに通い続けることは不可能です。
根気強く
肥満の治療は、半年で終わるものではありません。
一生続けるべきことです。
ですので、続けられることが大切です。
体重曲線をつけ続ける。
主菜・副菜は減らさない。
週に1回はお菓子OK。
運動はできる範囲で、ジムには通わない。
これらは根気強く続けるのに大切だと思います。
5か月続けた結果
2018年3月4日の時点でのデータを再確認します。
身長 181.3cm。
体重 79.8kg。
体脂肪率 23.2%。
BMI 24.3。
そして5か月後、2018年8月2日の時点のデータが以下です。
身長 181.3cm。
体重 71.7kg。(-8.1kg)
体脂肪率 17.1%。(-6.1%)
BMI 21.7。(-2.6)
良い結果でした。
無理せずに続けられていますので、このまま維持できると思います。
体重コントロールして気づいたこと
ご飯をお代わりしない、基本的にはお菓子を間食しない、というルールを設けたため、食事前に空腹を強く感じるようになりました。
最初はこの空腹感がすごく不快でしたが、今は慣れたのか、むしろ心地いいくらいに感じます。
といっても、時々忙しすぎて昼ごはんを食べる時間がなかったりするのも医師の仕事の特徴でして、空腹なのにご飯が食べられない時はなかなか死にそうになれます。
そういうときは、15秒でランチパックを食べて耐えました。
(とても30回噛めません)
あとは、ベルトの穴が1個サイズダウンしたり、白衣のズボンが緩くなったり、健康診断が楽しみになったりしました。
まとめ
肥満外来で私が指導していることを私自身も実践してみました(ノンアルコールビールは除く)。
その結果、少なくても私には効果がありました。
総カロリーをほんの少し減らし、それを継続できれば必ず効果があります。
減らすカロリーは200Kcalほどで十分です。
間食をしない、ご飯をお代わりしない、ジュースを飲まないなどで、十分達成できると思います。
あとは継続するだけです。
次の6つがモチベーションを高めるでしょう。
- 体重曲線をつけ続ける。(小児では肥満度曲線もつける)
- 主菜・副菜は減らさない。
- 週に1回はお菓子OK。
- 運動はできる範囲で。
- 肥満外来に通う。
- 定期的に採血を受ける。
18歳までに肥満を改善させることは将来の2型糖尿病のリスクを低下させます。
それについてはこちらに書きました。
肥満改善に取り組んでいる子どもたちのためにも、小児科医として良い見本であり続けたいと思います。