「アセトン血性嘔吐症」のイメージ。自家中毒という言葉を使いますか?

「アセトン血性嘔吐症」という言葉を聞いたことがありますか?

7歳の男児。腹痛、頻回の嘔吐および全身倦怠感を主訴に母親に連れられて来院した。この数日間、運動会の練習があり易疲労感を訴えていた。昨夜はほとんど食事をとらずに就寝した。今朝から腹痛と頻回の嘔吐とが出現し、徐々に元気がなくなり、表情に乏しく歩行もできなくなったため受診した。5歳ころから今回と同様の経過を数回繰り返している。身長122cm、体重18kg。体温36.4℃。脈拍92/分、整。顔面は蒼白。咽頭に発赤を認めない。呼気に酸臭を認める。心音と呼吸音とに異常を認めない。皮膚のツルゴールは低下している。

検査で高値を示すのはどれか。

a 血糖
b 血清Na
c 血清Ca
d 尿ケトン体
e 血清総ビリルビン

第110回医師国家試験 I56

上記のように、「アセトン血性嘔吐症」は医師国家試験でも出題されることがあります。
研修医でも知っている有名な病名です。

「病名です」と言ったばかりなのですが、「アセトン血性嘔吐症」が本当に病名なのかどうかは微妙です。
アセトン血性嘔吐症にはガイドラインがなく、国際的な病名でもなく、up to dateでも検索されず、pubmedでも1949年のドイツ語の論文がわずかにHITするような程度です。
「アセトン血性嘔吐症」には明確な定義すらないように思います。

それでも、小児科医にとって、少なくても私にとって「アセトン血性嘔吐症」はよく使う言葉です。

今回は、アセトン血性嘔吐症について書きます。

私がアセトン血性嘔吐症について抱いているイメージ

最初に、私がアセトン血性嘔吐症について抱いているイメージを図示します。

私のイメージでは、アセトン血性嘔吐症の中に、周期性嘔吐症候群が含まれます。
そして、周期性嘔吐症候群(ときどき吐く病気)と腹部片頭痛(ときどきお腹が痛くなる病気)と小児良性発作性めまい(ときどきめまいがする病気)は、「小児周期性症候群」というカテゴリーに含まれます。
小児周期性症候群は片頭痛とリンクします。

アセトン血性嘔吐症と周期性嘔吐症候群の共通点

アセトン血性嘔吐症も、周期性嘔吐症候群も、ときどき吐くけれど脱水症に気を付けていれば数日で治るという点で共通しています。
胃腸炎などの嘔吐する他の疾患がある場合は、アセトン血性嘔吐症や周期性嘔吐症候群とは言いません。

ICDというWHO(世界保健機関)が定めた病気の分類では、アセトン血性嘔吐症と周期性嘔吐症候群は同じコードで分類されています。
最新のICD-10という分類では、アセトン血性嘔吐症と周期性嘔吐症候群は「R11」というコードです。

余談:ICDとDPCの話
ICDのRで始まるコードは、病名というよりも、徴候や症状を意味します。
たとえば「発熱」というのは病名ではなく、ただの症状であり、ICD-10では「R50」というコードに該当します。
「R11」であるアセトン血性嘔吐症と周期性嘔吐症候群は、「嘔吐という症状」を指す言葉であって、病名ではないとICDでは考えられています。

病名ではないとなると困るのがDPCです。
略語ばかりで申し訳ありませんが、DPCとは診療群分類包括評価のことです。
「この病名なら、これくらいの医療費になるでしょう」というように、病名によって医療費がおおむね決まるという仕組みがDPCだと私は理解しています。

「発熱」はRコードであり、病名ではなく症状です。
ですので、「発熱の治療なら、これくらいの医療費になるでしょう」という概算はできません。
発熱の原因がアデノウイルス感染症なのか、尿路感染症なのか、川崎病なのか、悪性腫瘍なのかで、概算は全く変わってくるからです。

Rコードの中でDPC病名として使えるのは、熱性けいれん(R560)くらいでしょうか。
鼻出血(R040)や喀血(R042)はDPC病名に使えるという話も聞くのですが、当院では使えないと言われました。
いずれにせよ、原因がはっきりしている場合は(たとえば喀血の原因が肺結核A15だったなら)、原因をDPC病名とするべきです。

アセトン血性嘔吐症と周期性嘔吐症候群の違い

アセトン血性嘔吐症と周期性嘔吐症候群は、症状・軽快までの経過・ICDコードが同じであると書きました。
では、違いは何でしょうか。

アセトン血性嘔吐症はドイツの概念であり、英米では周期性嘔吐症と呼びます。
本質は同じなのか違うものなのかは別として、国によって呼び方が異なるという点は事実です。

他にも、2つの病態が違うという考え方もあります。
アセトン血性嘔吐症は、ケトン体という物質が病態に関与しているという考え方です。
しかし、私はケトン体は嘔吐を繰り返す病態とは関係ないと考えています。

そもそも、ケトン体とはアセト酪酸と3ヒドロキシ酪酸とアセトンの総称です。
このうちアセト酪酸と3ヒドロキシ酪酸は、幼児のエネルギーとして利用できます。
脳のエネルギー源がグルコースであることは有名ですが、アセト酪酸と3ヒドロキシ酪酸も脳でエネルギーとして利用できます。

アセト酪酸と3ヒドロキシ酪酸は、10歳未満のエネルギーとして重要です。
(ちなみに、10歳以降は筋肉に蓄えらているアラニンからグルコースを作ることができるようになるので、ケトン体に依存しなくなります)

アセト酪酸と3ヒドロキシ酪酸自体は嘔気の原因ではなく、嘔気や嘔吐が発生するようなストレス下において、アセト酪酸と3ヒドロキシ酪酸が体や脳を守るために産生されていると考えられます。
そう考えると、アセトンの上昇はただの生理的反応を見ているだけで、病気の原因に関与しているわけではなく、「アセトン血性嘔吐症」という名称は適切ではない可能性も感じます。
(川崎病ではCRPが上がりますが、CRPが川崎病の原因に関与しているわけではないのと同様です)

周期性嘔吐症候群では、その病態をUp to dateで調べても、ケトン体やアセトンといった言葉が登場しません。
診断基準は国際頭痛分類(ICHD-III)とROME IVがありますが、どちらもケトン体やアセトンといった言葉が登場しません。
実際に周期性嘔吐症候群の子どもを診ていると、嘔吐発作時に血中ケトンが上昇しているケースはありますが、10歳以上の周期性嘔吐症ではケトンが陰性であることも経験します。
ケトンはあくまで生理的反応であって、病態とは関連しないという姿勢が周期性嘔吐症候群には感じられます。
(なお、周期的なACTH-ADH分泌過剰が関連するのではないかとわが国を中心に報告されてはいますが、周期性嘔吐症候群の病態ははっきりと分かってはいません)

自家中毒という言葉

「アセトン血性嘔吐症」という名称は適切ではないかもしれないと書きました。
ですが、もっと不適切な(と私が思っている)言葉があります。
それが「自家中毒」です。

確かに、アセトン血性嘔吐症は「自家中毒」と呼ばれることがあります。
医学的な用語ではありませんが、百科事典などには「体内に産出された代謝産物中の毒性物質による中毒症状」と記載されています。

アセトン血性嘔吐症が自家中毒と呼ばれるようになった経緯を私は知りません。
これは想像ですが、体にストレス負荷がかかったときに産生されるアセト酪酸や3ヒドロキシ酪酸、アセトンなどのケトン体が、嘔気や嘔吐の原因となっていると昔は考えられていたためではないでしょうか。

繰り返しますが、アセト酪酸と3ヒドロキシ酪酸は体や脳を守るために産生されているのであって、嘔気・嘔吐の原因ではないと考えられます。
自家中毒という言葉は、誤った病態解釈に繋がるので、私は使わないほうがいいのではないかと思います。

アセトン血性嘔吐症という言葉は必要か?

嘔吐を繰り返す病気の原因にアセトンが関与しないのであれば、自家中毒という言葉はもちろんのこと、アセトン血性嘔吐症という言葉も不要なのではないかと私は考えたことがありました。

でも、アセトン血性嘔吐症という言葉があって便利なこともあります。
周期性嘔吐症候群の診断に至らない嘔吐症もあるからです。

周期性嘔吐症の診断基準は国際頭痛分類(ICHD-III)とROME IVの2つあると前述しました。

国際頭痛分類(ICHD-III)の診断基準
A. 強い悪心と嘔吐を示す発作が5回以上あり、BおよびCを満たす。

B. 個々の患者では症状が定性化しており、予測可能な周期で繰り返す。

C. 以下のすべてを満たす。

  1. 悪心嘔吐が1時間に4回以上起こる。
  2. 発作は1時間-10日間続く。
  3. おのおのの発作は1週間以上の間隔をあけて起こる。

D. 発作間欠期は完全に無症状である。

E. そのほかの疾患によらない。

ROME IVの診断基準
A. 数時間から数日持続する激しい悪心および絶え間のない嘔吐や吐き気の期間が2回以上ある。

B. 各患者における発作のパターンが一定である。

C. 発作後は通常の健康状態に戻り、その状態が数週間から数か月持続する。

周期性嘔吐症の診断には、国際頭痛分類(ICHD-III)では最低5回の嘔吐が、ROME IVでも最低2回の嘔吐が必要です。
まあ、1回の嘔吐で「周期性」といえないのは当然と言えば当然なのですが。

まだ周期的といえない嘔吐症については、どう呼べばいいでしょうか。
私はこういうときこそ、暫定的に「アセトン血性嘔吐症」と呼ぶのが適切だと考えます。

なお、私の中では、アセトン血性嘔吐症の診断に尿中ケトン陽性とか血中ケトン陽性とかは必要条件ではありません。(もちろん十分条件でもありません)
特にケトーシスを生じにくい10歳以降では「アセトン血性」とはならない「アセトン血性嘔吐症」は存在していいと考えています。

「アセトン血性嘔吐症」という大きな枠の中の、国際的な診断基準を満たしたものが「周期性嘔吐症候群」と診断される。
私はそんなイメージで理解しています。

国際的な診断基準が2つあるので、結局悩むこともありますけどね。
冒頭の国家試験のケースでも、5歳から数回嘔吐発作を繰り返しているとありますが、数回というのが3-4回を指すのであれば、国際頭痛分類(ICHD-III)の基準は満たせません。
予測可能な周期で繰り返しているわけではないようにも取れます。
いっぽうで、ROME IVの基準であれば、「周期性嘔吐症候群」と診断できそうです。
診断基準によって結果が割れたため、「アセトン血性嘔吐症」と診断すべきか、「周期性嘔吐症候群」と診断すべきか迷います。

ケトン性低血糖という言葉は必要か?

アセトン血性嘔吐症と類似した疾患として、ケトン性低血糖という言葉があります。

好発年齢がちょっと違うとか、病態がちょっと違うとか、いろいろ言われますが、私の中では「アセトン血性嘔吐症」と「ケトン性低血糖」はほぼ同じです。
唯一違うといえるのは低血糖を伴うかどうかだけですが、同一患者内の周期性嘔吐症候群のエピソード内で低血糖があったりなかったりすることもあります。

ああ、違う点がもう2つほどありました。
1つは、ICD-10ではケトン性低血糖は「E161」とコードされていますので、Rコードだった「アセトン血性嘔吐症」とは異なり、ケトン性低血糖はDPC病名として使える点です。

もう1つは、低血糖エピソードを繰り返す場合は、代謝異常の精査が必要というところでしょうか。

こうしてあらためて考えると、「アセトン血性嘔吐症」と「ケトン性低血糖」はほぼ同じではあるものの、一応区別しておいたほうがいいかなと思えます。

まとめ

  • アセトン血性嘔吐症も、周期性嘔吐症候群も、ICD-10では同じコード。
  • 周期性嘔吐症候群には国際的な診断基準がある。
  • 周期性嘔吐症と同じ病態と考えられるが診断基準を満たさない場合は、暫定的にアセトン血性嘔吐症と呼ぶ。
  • アセトンもケトン体も、嘔吐の原因ではない。
  • 「アセトン血性」は「アセトン血性嘔吐症」であるための必要条件ではない。
  • 「自家中毒」という言葉は不適切。私は使わない。
  • 「ケトン性低血糖」という言葉は、「アセトン血性嘔吐症」とほぼ同じとしつつもやはりちょっと違うので、私は使う。

以上はあくまで私見です。
それでも、ある程度自分の中で言語化しておかないと概念はぶれてしまうので、こうして記述しておきました。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。