医学部の卒業試験と医師国家試験の合格率の関係。

大学生活といえば、何を想像しますか?

単位、ゼミ、卒業論文、就職活動。

大学生の生活は、この4つでできているといっても過言ではありません。

ところが、医学部においては、単位もゼミも卒業論文も就職活動すらも、あまり重要な要素ではないのです。

単位については、一部の一般教養科目を除けば、医学部は授業のほとんどが必修科目です。
一つでも落とせば留年となります。
「単位を落とした」=「留年」であるため、「単位落とした」とは言わず、「留年した」と表現することが多いでしょう。
医学生にとって「単位」という概念が希薄です。

ゼミも卒業論文もありません。
一応、私の大学では、基礎医学のいずれかの教室に所属する期間がありましたが、ゼミと言っていいほどのものではないです。
ただ、仲良くして頂き、楽しかっただけです。
卒業論文も、普段のレポートと変わりありません。

就職活動も、「内定」という制度が医学部にはありません。
「マッチング」という独自のシステムが医学部にはあります。

マッチングについて書くと、かなり長くなってしまいます。
簡単に言えば、医学生は特に就職活動をしなくても、どこかの病院で必ず働けるようになっています。

「単位、ゼミ、卒業論文、就職活動もないなんて、医学生は楽ですね。サークルとアルバイトしかしてないんですか?」

そこは否定しませんが、医学生にだってちょっとしんどいイベントはあります。

それが、卒業試験です。

今回は卒業試験について書きます。

医学部の卒業試験

中学校や高校の定期試験でも、英語や現代国語、古文、数学、物理、化学、生物、日本史、世界史、地理などなど、いろいろな科目があったと思います。

医学部の卒業試験は、もちろん医学についての試験です。

内科学だけでも、かなりの科目数があります。
消化器内科、循環器内科、血液内科、腎臓内科、内分泌内科、膠原病内科、神経内科などなどです。

外科学にも、同様にたくさんの科目があります。

内科と外科以外にも、整形外科学、産婦人科学、眼科学、小児科学、精神医学、皮膚科学、泌尿器科学、耳鼻咽喉科学、放射線医学、耳鼻咽喉科学、麻酔科学、口腔外科学、救急医学、腫瘍放射線医学、公衆衛生学、法医学などがあります。

合計して、20科目から30科目になります。

これを2か月から3か月かけて、試験します。
これが医学部の卒業試験なのです。

卒業試験は難しいのか?

大学によって、卒業試験の難易度は違います。卒業試験で多くの学生が留年する大学もあれば、ほとんどが素通りする大学もあります。

実は、大学ごとに卒業試験で何人が落ちたのかを知る方法があります。

それは、医師国家試験の出願者数と受験者数の差を見ればいいのです。

各大学の出願者数と受験者数は、国家試験用の予備校のサイトで確認できます。

たとえば、平成29年度卒業予定の北海道大学では、新卒の出願者数が103人です。
そして受験者数も103人です。
つまり、卒業試験では全員が合格でき、無事医学部を卒業できたことを意味します。

私の母校である奈良県立医科大学は109人の出願者がいました。
このうち108人が実際に試験を受験しました。
出願したけれど受験できなかった1人は、卒業試験に落ちたのだと推測されます。

国公立大学は、出願者数と受験者数には数人程度の誤差しかありません。
国公立大学は、卒業試験で落ちる学生があまりいないのです。

いっぽうで、杏林大学医学部は125人の出願者がいて、実際に国家試験を受験できたのは98人です。
27人が卒業試験に落ちたのだと思います。

私立の医学部は卒業試験で多くの学生がふるいにかけられてしまう傾向が見えます。

こうしてみると、国公立大学は卒業試験が甘く、私立は卒業試験が厳しい印象があります。
私立の卒業試験は、難しいのでしょう。

卒業試験の意義

医学部の卒業試験の意義はなんでしょう。

「学生が医学部を卒業するに値するかどうかを評価する試験でしょう?」

そうです。
卒業試験を合格できれば、医学部を卒業できます。

医学部を卒業できるということは、同時に「医師国家試験を受験することができる」ということを意味します。

医学部を卒業できなければ、医師国家試験を受験することさえできません。

つまり、卒業試験とは医師国家試験を受けるための試験、ということになります。

国家試験のための卒業試験

第111回医師国家試験は、88.7%の合格率でした。
卒業試験で27人が留年した杏林大学医学部も、卒業できた学生の合格率は90.8%でした。

私立の医学部は卒業試験で多くの学生が留年する傾向がありました。
ですが、医師国家試験の合格率を見れば、決して低いわけではありません。

ちなみに、卒業試験の問題は、国家試験を意識して作られていることが多いです。

このことから、何が言えるでしょう?

一つの仮説ですが、国家試験で明らかに落ちてしまいそうな学生は、卒業試験で落とされているという説が成立します。

国家試験に似た形式の卒業試験を実施し、得点が低い学生を留年させれば、国家試験の合格率を上げることができます。

大学にとっても、学生の国家試験合格率は分かりやすいブランド力になります。
優れた学生が集まることや、よい教育ができていることへのアピールになるからです。
どの大学も、ぜひ合格率を上げておきたいでしょう。

そのためには、国家試験に落ちそうな学力の学生は、卒業試験で落としておけばいいのです。

つまり、卒業試験の意義は「医師国家試験に合格できそうな学生を見極めるための試験」という点に収束します。

まとめ

医学部の卒業試験について書きました。

卒業試験はなかなか過酷で、一部の大学では2割の学生が留年してしまうことを示しました。

医師国家試験の受験者は、この卒業試験を通過できた人たちです。
その合格率が9割近くなるのも理解できると思います。

医者になるには知識が足りない学生は、医学部を卒業できないのです。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。