溶連菌感染症の再発では発疹が出ない。診断に苦慮する多彩な症状。

溶連菌感染症は小児科医泣かせです。
溶連菌診療はすごく難しいのです。

「溶連菌なんて、のどを見れば分かります。抗生剤出して、2週間後に尿検査して、それでOKでしょう?ちっとも小児科医泣かせじゃないですよ

まあ、そうなんです。
(尿検査の是非については、またの議論にします)

溶連菌感染症には特徴的な症状があります。

  • 高い熱とのどの痛みを訴えますが、咳は出ません。
  • のどは、燃えるような真っ赤で、霜降り肉のように白いサシが入ることもあります。
  • 舌は最初は白い苔(白いイチゴ舌)ができ、その苔が落ちるとぶつぶつとした赤い舌(赤いイチゴ舌)が覗かせます。
  • 体に砂をまいたような小さな赤い湿疹ができます。小さくつぶつぶとした紅斑で、少し盛り上がっていて鳥肌様になります。痒みがあります。脇や肘や鼠径部に多いです。

こんなに特徴的な病気ですから、診断なんて簡単だと思うかもしれません。
ですが、溶連菌感染症の診断はとても難しいのです。

咳があるから溶連菌を否定するというのは、実臨床ではなかなかできません。
溶連菌で咳が出ないのは有名ですが、溶連菌性咽頭炎の子どもが鼻カゼをひいていることはよくあります。
咳があっても、溶連菌は否定できません。

そしてタイトルに書いたように、発疹や舌の所見(白いイチゴ舌、赤いイチゴ舌)は、すでに外毒素抗体を持っている子どもには出現しません。
つまり溶連菌感染症を以前にしたことがあれば、発疹のような特徴的な症状は出ないことがあるのです。
(厳密に言えば溶連菌の外毒素はA,B,Cと3種類あるので、3回発疹が出てもおかしくはありません)

喉の所見も、非典型例がたくさんあります。
ネルソン小児科学にもこのように書かれています。

レンサ球菌性咽頭炎と非レンサ球菌性咽頭炎の徴候と症状は非常に似通っているので、臨床的根拠だけで正確な診断を得ることはできない。溶連菌性咽頭炎の臨床診断は、最も経験豊富な医師をもってしても確実に行うことはできず、細菌学的証明を必要とする。

ネルソン小児科学

余談ですが、ネルソン小児科学が便利だと私が感じる理由の一つは、「ネルソンにはこう書いてあります!」と言えば、指導医に怒られないという点です。
「溶連菌くらい、のどを見たら分かるでしょ」と指導医に言われても、「しかし、溶連菌を臨床的に診断するのは難しいんです。ネルソンにも書いてあります」と言い返せば、外来で溶連菌検査をいっぱい行っても許してもらえます。(もちろん、季節や周囲の流行状況などから検査前確率を考えるのは当然です)

買ってください、という意味ではないです。
(上記から買ってくれたら、私に1000円のお小遣いが入ります)
ですが、小児科医なら買っても損はないかなと思います。
フルカラーで、約3000ページあって、このお値段はむしろお得かもしれません。

余談が過ぎました。

溶連菌について、(ネルソン小児科学などで)調べれば調べるほど、溶連菌の奥深さ、難しさを感じます。
今日は、溶連菌感染がいかに難しく、小児科医泣かせなのかを書きます。

溶連菌診療の問題点5つ

「のどを見て溶連菌が分からない?だったら迅速検査出して、抗生剤出して、2週間後に尿検査して、それでOKでしょう?ちっとも難しくないです」

いや、だから、そうなんですけどね。
そうなんですが、そこに大きな問題点があるんです。

溶連菌感染症は、検査が迅速にできて、治療法もあるのに、見逃すことで合併症が起きうるという、なんともプレッシャーの高い疾患なんです。

つまり、こういうことです。

  1. 子どもが発熱したので病院へ行きました。
  2. 発熱が出たばかりで、まだ子どもも元気そうだったので、小児科医は風邪薬を処方しました。
  3. 翌日、熱が下がらないため、親は別の病院へ行きました。
  4. 溶連菌の検査が陽性で、抗生剤を処方されました。
  5. 「昨日の先生は溶連菌を検査してくれなかった!溶連菌を風邪と間違えたのだから、これって誤診ですよね!おかげで、治療が1日遅れてしまった!これで合併症が起きたらどう責任を取ってくれるんだ!」

幸いにも私はこういう経験をしたことがありません。
ですが、小児科医を続けていく限り、いつかこういう経験をすると思うのです。

どうして、小児科医は溶連菌感染症でこんな怖い思いをすることになるのでしょう。
その原因を5つ分類します。

迅速検査があるという問題点

「迅速検査があることに何の問題点が?」と思いますよね。
迅速検査があることはすごくありがたいことなのです。

ですが、検査があるがために、「溶連菌の検査をしてください」と親から、または保育園から指示されることがあります。

熱もないのに、「保育園で溶連菌の子がいるので、念のために検査をしてください」というコンビニエンス受診に対して、頭を悩ませることになります。
(症状がないのに検査をして溶連菌が陽性であっても、これはただの「保菌」です。保菌は元気な子どもの12-20%にみられ、治療する必要はありません。この問題は本ページの最後に説明します)

これは、RSウイルスやインフルエンザなど、迅速検査がある他の疾患にも当てはまる問題です。
以前、迅速検査に関する問題点を書きましたので、併せてお読みください。

RSウイルスやインフルエンザの検査。保育園に指示された時の11の対応。

2017年2月18日

そして、迅速検査があるということは、「見逃した・誤診した」という原因になりかねません。
溶連菌は、臨床的に診断することが難しいので、見逃さないためには「すべての発熱患者には溶連菌を検査する」ということになってしまいます。

溶連菌検査をすれば、5歳未満の子どもは大抵泣きますので、これが本当に子どもの利益になっているのかどうか不明です。
さらには、溶連菌は保菌の問題がありますので(後述します)、すべての発熱患者に溶連菌検査をしても、正しい結果にはなりません。

治療法があるという問題点

「治療法があることに何の問題点が?」と思いますよね。
治療法があることはすごくありがたいことなのです。

溶連菌はペニシリン系の抗生物質がとてもよく効きます。
ネルソン小児科学によると(何度も使ってすみません)、内服から24時間で、感染性を失うと書いてあります。
熱も24時間で治まります。

ですが、治療法があるからこそ、「見逃した・誤診だ」という問題になるのです。
溶連菌がアデノウイルスやRSウイルスのように、「診断がついても特に治療法がない病気」であれば、そこまで「見逃した・誤診だ」と言われないと思うんですよ。

治療法があるからこそ、「1日も早く診断して欲しい」という親の希望を加速させているように思います。
(後述しますが、リウマチ熱を防ぐという観点からは、発症9日以内に治療ができれば十分です)

臨床症状が多彩だという問題点

  • 溶連菌性咽頭炎
  • 猩紅熱(しょうこうねつ)
  • 膿痂疹
  • リンパ節炎
  • 丹毒・蜂巣炎
  • 侵襲性溶連菌感染症(劇症型溶連菌感染症)
  • 膣炎・肛門周囲皮膚炎

一口で「溶連菌感染症」と言っても、症状があまりに多彩です。
予後に関しても異なる点があり(たとえば丹毒からリウマチ熱にはならない)、溶連菌の診療を難しくしている問題点だと考えます。

少しだけ、臨床症状を解説します。

溶連菌性咽頭炎

もっとも多い症状です。
発熱でくる子どもは、常にこの疾患が鑑別に挙がります。
のどの特徴(燃えるように真っ赤で、ときどき霜降り肉のように白いサシがある)や、咳が出ないという特徴は、当てになりません。

猩紅熱

溶連菌の出す外毒素によって、発疹や苺舌が生じます。

舌は最初は白い苔ができ、その苔が落ちるとぶつぶつとした赤い舌が覗かせます。

発症から24~48時間で、体に砂をまいたような小さな赤い湿疹ができます。
首から始まって、体や四肢に広がっていきます。
口周りにはできないので、口周りだけ白く浮いて見えることもあります。
発疹は小さくつぶつぶとした紅斑で、少し盛り上がっていて鳥肌様になります。
痒みがあります。
脇や肘や鼠径部に多いです。
抗生物質を使うと、この発疹が強くなることがあります。
これは薬疹ではなく、溶連菌が死ぬことで外毒素がばらまかれ、皮膚症状が悪化しているだけです。

外毒素に対する抗体ができると猩紅熱にはならないとされます。
しかし溶連菌の外毒素はA,B,Cと3種類あるので、3回猩紅熱を起こしてもおかしくはありません。

膿痂疹

黄色ブドウ球菌とは異なり、水疱を作ることは稀です。
顔や四肢にできやすく、特にしわが多い肘とか脇にできやすい印象です。

皮膚症状から急性糸球体腎炎を起こすことはありますが、リウマチ熱を起こすことはないようです(ネルソン小児科学にそう書いてあります)。

リンパ節炎・丹毒・蜂巣炎

リンパ節炎や蜂巣炎の起炎菌として、溶連菌が知られています。
溶連菌による蜂巣炎を丹毒と呼んで差支えないと思います(本当は丹毒は真皮の炎症のようですが、炎症の部位が真皮なのかどうか私には分かりません)。

これらは、溶連菌によると診断できないことが多いです。
膿を穿刺吸引できれば、培養検査で診断できます。

侵襲性溶連菌感染症(劇症型溶連菌感染症)

敗血症やトキシックショック、壊死性筋膜炎にいたる場合があります。

溶連菌の皮膚感染から始まるケースが多いようです。
水痘を予防することで、侵襲性溶連菌感染症を予防できる可能性があります。

私はこの症状をまだ見たことがありません。

膣炎・肛門周囲皮膚炎

産婦人科ではどれくらい有名なのでしょうか。
ネルソンに書いてあるのでここに書きましたが、私は診たことがありません。

合併症が多彩だという問題点

  • 急性糸球体腎炎
  • リウマチ熱
  • レンサ球菌感染後反応性関節炎
  • 化膿レンサ球菌関連小児自己免疫神経性心疾患

合併症を起こすというのが、溶連菌をさらにややこしくしています。

しっかり治療をすれば、合併症を減らせるのではないかと考えられており、このため「溶連菌はしっかり診断して、しっかり治療しないと、合併症を起こすのではないか」という懸念に繋がっています。

上記の4つの中で、溶連菌の治療によって防げるのは、リウマチ熱です。
発症9日以内に溶連菌の治療ができれば、リウマチ熱は防げるとネルソン小児科学に書かれています。

レンサ球菌感染後反応性関節炎もリウマチ熱の亜型ではないかと考えられており、抗菌薬で予防できるかもしれません。

急性糸球体腎炎は抗菌薬で予防できるというエビデンスはありません。
先進国では溶連菌による急性糸球体腎炎がすごく減っているようですが、これは抗菌薬のおかげではなく、衛生の向上で、溶連菌感染が減ったからという推察がされていました(ネルソン小児科学で)。

化膿レンサ球菌関連小児自己免疫神経性心疾患は、PANDASと呼ばれるものです。
名前だけだとパンダみたいで可愛いですが、中身は全く可愛くありません。
溶連菌に対する抗体が、脳に反応することで、チック症状が出現します。
PANDASは診たことがないので、あまり語れません。

保菌という問題点

「溶連菌の症状は多彩ですし、治療法があるために診断が遅れると文句言われます。いっそのこと、病院に来る患者さん全員にまず溶連菌検査してはどうでしょう」

溶連菌問題に疲れてくると、このように考えるようになるかもしれません。
ですが、溶連菌を疑っていない状況で検査をするのはお勧めできません。
なぜなら、保菌という問題があるからです。

溶連菌の保菌についてはこちらに書きました。

溶連菌の保菌とは何ですか?治療すべきですか?

2018年7月7日

保菌について丁寧に説明すると、外来での診療時間は大きく延びることになるでしょう。
患者さんが待合室で待つ時間も増えるでしょう。

ですが、保菌についての説明が省略されると、「検査してもらえなかった」とか「翌日別の病院で検査してもらったら、やっぱり陽性だった。治療してもらえてよかった」とか良くない誤解が広まってしまいます。

解決策

「昨日の先生は溶連菌を検査してくれなかった!溶連菌を風邪と間違えたのだから、これって誤診ですよね!おかげで、治療が1日遅れてしまった!これで合併症が起きたらどう責任を取ってくれるんだ!」

これに対し、上記の5点の問題点が整理できていれば、自然と解決策が浮かびます。

  • 溶連菌を臨床診断するのはとても難しいとネルソン小児科学にも書かれている。
  • 発症から48時間で発疹やイチゴ舌が出れば、見逃すことはない。
  • 特徴的な所見がない場合は、喉の検査をするしかない。ただし、少なくても発熱と咽頭発赤を認める場合に検査をすること。発熱や咽頭発赤がないのに検査をして結果が陽性であっても、それはただの保菌であり治療しなくてよい。
  • リウマチ熱については、9日以内に治療ができれば大丈夫。腎炎予防については、抗菌薬でできるかどうかは不明である。

この説明を、初回の診察時にしておくことが大事です。
文句を言われてから上記の説明をしても、言い訳にしか聞こえません。

ただ、発熱患者さんに対して毎回この説明をするのは不可能に思います。
特に、保菌の問題点は何度説明してもなかなか理解してもらえません。

私は発熱した患者さんの喉は必ず確認します。
そして喉が赤くなかったら溶連菌の検査はしません。
そのとき「現時点では喉は赤くありませんでした。こういうときに溶連菌の検査をしても正しい結果が出ないので、今回は溶連菌の検査はしません」と説明しています。

まとめ

溶連菌が小児科を泣かせる5つの問題点と、その解決策を書きました。

今回の記事で私にとって朗報だったのは、発症から9日以内の治療でリウマチ熱は予防でき、腎炎に関しては溶連菌の治療で予防できるというエビデンスがないということが分かったことです。

発症から2~3日で溶連菌を見抜けなくても、合併症の頻度は変わらないと考えてよさそうです。

古典的な猩紅熱以外は、溶連菌を臨床的に見つけだすことは困難です。
しかし、発熱した子どもには全員溶連菌検査をするのも不適切です。

溶連菌に対する私の答えは、次の1点に集約されました。

  • 発熱に対する診療時には、手短でいいので早めに溶連菌のことを説明しておく。

溶連菌問題の解決策は「丁寧な説明」というありふれた結論となりました。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。