めざせ即戦力レジデント。スタイルを少しくずして、スタイリッシュに。

2022年4月に、小児科の専攻医(医師3-5年目)を対象にした本を出版します。

めざせ即戦力レジデント! 小児科ですぐに戦えるホコとタテ 小児科ではコモンなディジーズの診かた

目次や魅力については、こちらに書きました。

小児科最大のマニュアルを目指した書籍「即戦力レジデント小児科」の紹介。

2022年3月24日

今回は、「即戦力レジデント小児科」の序文をお伝えします。

ガイドラインが溢れた時代に生まれた、新しい迷い

良い時代になったと思う。
咳には「小児の咳嗽診療ガイドライン2020(日本小児呼吸器学会)」がある。
血尿には「血尿診断ガイドライン2013(日本腎臓学会など)」があり、けいれんには「熱性けいれん診療ガイドライン2015(日本小児神経学会)」や「小児けいれん重積治療ガイドライン2017(日本小児神経学会)」がある。
現在の医療はガイドラインで溢れており、これらはスマートフォン1つでどこからでも閲覧することができる。
Mindsによるガイドラインのガイドラインも整備され、ガイドラインは読みやすく、分かりやすくなった。
本当に便利な時代だ。

しかし、われわれ小児科医は、これらのガイドラインをうまく使いこなせているのだろうか。

たとえば、咳と呼吸苦で受診した6歳児を想定してみよう。
「小児の咳嗽診療ガイドライン2020」で対応すると、「救急医療の必要な咳嗽フローチャート」に沿って診療を進めることになる。
日本蘇生協議会または米国心臓協会の「蘇生ガイドライン」に準じた「PALS」で対応すると、第一印象から児の状態が不安定であることを見抜き、ABCDEを評価しつつ速やかに酸素投与することになる。
どちらをどのタイミングで使うか、迷うかもしれない。
そして、いずれのガイドラインを使ったにせよ、状態が安定すれば「小児呼吸器感染症診療ガイドライン2017(日本小児呼吸器学会など)」や「小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2020(日本小児アレルギー学会)」などに引き継ぐことになり、結局1つのガイドラインだけで診療は完結しない。

このように、実際の診療では適用可能な複数のガイドラインを取捨選択し、うまく組み合わせて、滞りのない診療を形作らなければならない。
とはいえ、ガイドラインの選択・組み合わせは、非常に複雑で難しい。
ガイドラインには具体例が記載されておらず、また実際の診療の流れも書かれていないからだ。
さらには、ガイドラインに忠実に従うと、実際の現場では非効率な動きになってしまう場面もある。
結果的にガイドラインを使えていない医師は多い。
ガイドラインが使えないと、その診療はどこか自信のないものになる。

そういう背景もあって、「コモンなディジーズに自信を持って対応できる、実践的な小児科マニュアルを作りたい」と私は考えた。

実践力とは。「型」の順守と、少しの「型くずし」

私は小児科医となって11年になるが、小児科専門医プログラムの「基幹病院」で働いたことがない。
「連携施設」とも「二次救急医療機関」とも呼ばれる、比較的規模が小さい病院でずっと働き続けている。
コモンなディジーズをバリバリとこなすのが私の仕事である。

コモンなディジーズというのはなかなか奥深い。

風邪の診断に自信を持てないのも、風邪の診断を過信してしまうのも、どちらも問題である。
当然だが、コモンは風邪だけではない。
適度な自信を持ってコモンに向き合うには、ガイドラインを「型」とした型通りの診療をすることである。
診療に「型」が備われば、自信は自然と湧く。
つまり「実践的なマニュアル」とは、「ガイドラインを実際の医療現場に持ち込む方法」と同じことである。

「型」であるガイドラインを臨床現場にうまく持ち込むコツは、逆説的であるのだが、ちょっと「型くずし」することにある。
だが、「型くずし」にはガイドラインに対する深い理解と、現場の流れを見通す経験とが必要になる。
ガイドラインを読みながら、コモンばかりを見続けてきた私の経験が、「型くずし」のコツとして役立つように思ったのだ。

「型くずし」をアドバイスできれば、「型」を現場に導入しやすくなり、結果的に型通りの(つまりガイドラインに準じた)診療ができるようになる。
そう考えて、本書には「型くずし」のアドバイスを散りばめた。
これは、ガイドラインを遵守するための「型くずし」である。
当然だが、くずさなくていい状況では型通りに実践することが大切である。
さらには、できるだけ実践的なマニュアルとなるように、小児科外来の基本的な姿勢から、症候学、各論までできるだけ広く書き尽くした。

どうせなら、小児科専門医試験の症例要約にも使えるといい。
多くの若手小児科医の最初の目標は、専門医になることだからだ。
このマニュアル通りに診療し、それがそのまま症例要約に使えるのであれば、これほど実践的なことはないだろうと思ったのだ。
あふれる気持ちがページ数からあふれてしまい、「続きはwebで」のようなスタイルにならざるをえなかった。

スタイルを少しくずして、スタイリッシュに

小児科専門医試験の「症例要約・指定疾患リスト」には10の区分と、約200の疾患がリストアップされている。
小児科医が扱う多岐多様な疾患を前にして、あらためて思う。
「小児科医は総合医である」と。

この約200疾患のうち、私が経験したのは半分くらいだ。
一応、認定小児科指導医を持っているにも関わらず、私はまだ小児科のすべてを知らない。
むしろ「岡本はコモンしか知らない」と謗られそうだ。
それでも、私はコモンばかりをずっと診てきたという自負がある。

「コモンなんて勉強しなくても大丈夫、コモンなんてガイドラインがなくても簡単だ」という謎の安心感に対して、私は全力で否定する。
ガイドラインを知った上で逸脱するのは医師の裁量だが、ガイドラインを知らずに逸脱しているのはただの無知である。
「型」を知らないのに「くずす」のは、破天荒ではなく野放図である。

本書の読者は、この本でコモンに対する正しい自信を身につけ、ゆくゆくは「コモンしか知らない」私のことをおおいに罵倒して頂きたい。

2022年4月
兵庫県立丹波医療センター 小児科医長
岡本 光宏

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。