牛乳アレルギーですが「食パンは食べています」に思うこと。

食物アレルギー診療において、アレルゲンとなる食品をどれだけ摂取したことがあることかを尋ねることはとても重要です。

一口に牛乳アレルギーといっても、ティースプーン1杯でアレルギー症状が出たのか、大さじ1杯で出たのか、100mL相当で出たのかを必ず確認します。
そして、過去にどれくらいの量までで摂取できていたのかを知ることも大事です。

たとえば、今までティースプーン1杯程度(おそらく1-2mL程度)であれば牛乳摂取できていた児が、初めて大さじ1杯(15mL)に挑戦して全身にじんましんが出たとします。
この児の牛乳アレルギーの閾値は、2-15mLの間にあるのだろうなと推測できます。

これは、加工品でもおおよその推測が可能です。
たとえば、ヤクルト65mL(牛乳25mLに該当します)が摂取できていた児が、スライスチーズ1枚13g(牛乳100mLに該当します)に挑戦して全身にじんましんが出たとします。
この児の牛乳アレルギーの閾値は、25-100mLの間にあるのだろうなと推測できます。

加工品でアレルギーの閾値を推測するのは、正確ではありません。
その加工品に含まれるアレルゲンの量は、必ずしも固定されていないためです。
ですが、おおまかな目安として有用であるとも私は思います。

今回は、「食パンは食べている」という牛乳アレルギー児について思うことを書きます。

食パンに含まれる牛乳量

市販されている食パンは、超熟や超芳醇、ダブルソフトなどがあります。

これらに含まれる牛乳量はバラバラです。
6枚切りの食パン1枚に含まれる牛乳量で比較すると、超熟は0.1mL、超芳醇は3.3mL、ダブルソフトは10mLです。
超熟とダブルソフトでは、使用される牛乳量が全く異なります。

「食パン」という言葉

これは、私の食物アレルギーで実際にあったやりとりです。

岡本「今までにダブルソフトは食べたことがありますか?」

保護者「はい、食パンは食べています」

岡本「その食パンは、ダブルソフトですか?」

保護者「はい、食パンです」

岡本「もう一度お聞きします。そのパンは、超熟や超芳醇ではなく、ダブルソフトですか?」

保護者「超熟です。ダブルソフトは食べたことがありません」

岩田健太郎先生の本でも、重要な質問は繰り返し聞いたほうがよいみたいな記載があったような気がします。
「妊娠の可能性はありますか?」「ありません」「本当に妊娠の可能性はありませんか?」「実は…」みたいな話です。

コミュニケーションは難しいもので、言ったことが正しく伝わらないことは多々あります。
特に、その質問の真意が共有されていないときには、誤解が生じがちです。
なので、大事な質問は重ねて聞くとよいでしょう。

ちなみに、「食パン」という言葉は若手医師も好きです。

専攻医「今日は牛乳の負荷試験をします。ただ、牛乳そのものはすごく嫌いなようなので、食パンで負荷試験をします」

岡本「その食パンというのは、ダブルソフト?」

専攻医「はい、食パンです」

岡本「超熟ではなく、ダブルソフトでするんだね?」

専攻医「えっと、超熟を用意しています。食パンってどれも同じじゃないんですか?」

私は若手医師に対して「とりあえず食パンという言葉を使うのをやめようか」と指導しています。

アレルゲン摂取量を正しく評価する

今回の話は、食パンだけの話ではないと思っています。

研修医のカルテには「卵を少し摂取した」のような記載がみられます。
この「少し」という記載では、耳かき1杯(0.1g)なのか、ティースプーン1杯(2g)なのか、小さじ1杯(5g)なのか、大さじ1杯(15g)なのか、分かりません。

摂取したアレルゲン量をできるだけ正確に残すことはとても大切です。
「一口食べた」という記載でも、一口で卵1/4(約10g)くらいを食べる子もいれば、1口でたった1gしか食べられない子もいます。

何をどれだけ食べたのかが、食物アレルギー外来でとても重要であることを理解していれば、「食パン」という言葉は自然に使わなくなりますし、「少し」とか「一口」とかの記載もなくなるはずです。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。