「頭重」をどう読みますか?

父は軽蔑もあらわに、
「湯桶読みじゃないか、恥かしい」
と、言った。

江國香織 とるにたらないものもの ヨーグルト

兵庫県立丹波医療センターの小児科には、海外の医師が働いています。
英語について教わることも多いですが、日本語について教えることも多いです。

「これって、なんと読みますか?」

とよく質問されます。

今回質問されたのは、「頭重」です。
この読み方について書きます。

私の直感とweb辞書

彼に「頭重」について聞かれたとき、私は「ずじゅう」と答えました。
それ以外の読み方を思いつきません。

「ずじゅうですか? ずおもじゃないんですか?」

と彼はweblioを見せてきました。
確かにそこには「ずおも」とあります。
weblio:https://www.weblio.jp/content/%E9%A0%AD%E9%87%8D

「ずおも? 重箱読みは、科学的ではないように思うけれど」

と私は反論しつつ、コトバンクで調べてみました。
やはり「ずおも」とあります。
コトバンク:https://kotobank.jp/word/%E9%A0%AD%E9%87%8D-540715

ずおもが正解?
しかし釈然としません。

彼に数分もらって、もう少し調べました。

脳神経外科学用語集

 脳神経外科学用語集 改訂第3版(日本脳神経外科学会用語委員会)を見つけたので、該当箇所を引用します。

cranium、skullおよび「頭」の読み方について

いずれも頭蓋の意味であり、「トウガイ」と「ズガイ」の両者の読み方が混在し混乱をきわめている。

辞書を調べると「頭痛」はすべて「ズツウ」 であるが、「頭蓋」は「トウガイ」と「ズガイ」が混在している。
日本解剖学会では「トウガイ」を正当としているが、日常は「ズガイ」が一般的で あるので「ズガイ」も併記することとしている(1987年)。
日本医学会/医学用語管理委員会編「日本医学会・医学用語辞典和英」(南山堂、2001)では「頭」は原則として「トウ」、ただし「頭痛」は「ズツウ」としている。
神経学用語集(文光堂、1993)では「頭蓋」は「ズガイ」、「頭痛」は「ズツウ」、「頭部」は「トウブ」と決めている。

脳神経外科学会では次のようにしたい。

  1. 「頭痛」、「頭重」はそれぞれ「ズツウ」、「ズジュウ」とする。cephal[o]-hematomaも「ズケッシュ」である。
  2. 「頭蓋」は「トウガイ」と「ズガイ」 を併用する。
  3. その他の「頭」は原則として「トウ」であるが、「ズ」が慣用されている場合は、しばらくその読み方も認容する。

各界の動向を見守り、統一見解を定めてゆきたい。
この法則により「前頭葉」の「ゼンズヨウ」、「水頭症」の「スイズショウ」、「舟状頭[蓋][症]」の「シュウジョウズ」の読み方を排斥できて好都合である。

「頭部外傷」に対する「ズブガイショウ」はかなり慣用化されており、「トウブガイショウ」と読み慣わすのに抵抗も予想されるが、読み方の整合性をとる意味でも日本語の国際化のためにも、多少の努力や不便は甘受すべきであろう。

脳神経外科学会では、「ずじゅう」が正解のようです。
これですっきり……とはいかず、むしろ余計にざわつきます。

「ずぶがいしょう」って慣用化されてます?

各科や職種、地域によって異なる可能性も

他につっこむとしたら、私は医師になってからは「ずがい」とは読まないです。
「頭蓋骨」は「ずがいこつ」と言わず、「とうがいこつ」と言っています。
こちらのほうが、科学的な言葉に感じるから、ただそれだけです。

でも、「頭血腫」は「ずけっしゅ」ですね。
「とうけっしゅ」とは言わないです。
不思議です。

もしかしたら、小児科、脳外科、神経内科などで読み方に流儀があるのかもしれません。
また、医師と看護師とでも異なるのかもしれません。
もしくは、関西と関東で異なるのかもしれません。

こういうのは他にもあって、「出生体重」を「しゅっせいたいじゅう」と読むのか「しゅっしょうたいじゅう」と読むのか。

探せばいっぱいありそうです。
ぜひ、教えてください。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。