小児の敗血症の指標として、PEWSとLqSOFAを検証。

「発熱で敗血症を推定しようとしていた時代は確かにあった。SIRSといってね。2015年までは、たとえば発熱38℃と白血球12000あれば敗血症だったよ」

「今は呼吸数と意識状態と血圧です」

子どもの診かた、気づきかた 小さな異変もこぼさず拾える!

医療者であれば絶対に知っている「敗血症」という言葉。

1914年では、敗血症は菌血症と同義でした。
1991年では、敗血症=感染症+SIRSと定義されました。
SIRSというのは、全身性炎症反応症候群のことで、基準に白血球数が使われていました。

定義は色々と変遷がありましたけど、2016年以降のコンセンサスは「敗血症=感染症+臓器障害」です。
血液培養が陽性かどうかは、敗血症の「診断」には関係ありません。

今回は、子どもの敗血症についての論文を読みます。

敗血症の定義

「敗血症=感染症+臓器障害」

とてもシンプルなんです。

特に子どもの場合、発熱が感染症のサインとして非常に分かりやすいです。
もちろん、悪性腫瘍や膠原病だって発熱しますし、感染症でも発熱しないこともあります。
でも、大人と比べて、子どもではそういう例外が少ないです。

問題となるのは、臓器障害。
発熱していて、ちょっと頻脈という程度で「敗血症」と言っていたら、子どもの風邪の全部が敗血症になってしまいます。

「敗血症」と診断することは、「この児は重症である」というメッセージを医療チーム全体で共有するためのスイッチです。
なんでもかんでもスイッチオンにしていたら、本当に集中治療が必要な子どもに集中することができません。

成人ではqSOFAが臓器障害の指標として有用ですが、小児では使えません。
小児ではどの程度の臓器障害があれば、「敗血症」と診断するのでしょうか。

小児の重症化を予測するスコア

小児の集中治療を予測するスコアを検討した論文があります。

Romaine ST, et al. Accuracy of a Modified qSOFA Score for Predicting Critical Care Admission in Febrile Children. Pediatrics. 2020; 146: e20200782.

全文無料で読めます。
Pediatrics誌は病院購読しているので無料でなくても読めるのですが、それでも本当にありがたいです。

さっそく読んでいきましょう。

方法

対象は、救急外来を受診した発熱小児です。
48時間以内の集中治療入院を予測するための、ベッドサイドで使用できる迅速なスコアリングシステムを検証しました。

2015年9月から2017年8月までに、12241人が救急外来を受診し、1481人が入院し、そのうち135人が集中治療を受けました。
10人が死亡し、そのうち敗血症で死亡したのは5人でした。

スコアリングシステムの中で精度が高かったのは、次の2つです。

  • PEWS(Pediatric Early Warning Score)
  • LqSOFA(Liverpool quick Sequential Organ Failure Assessment)

PEWS(Pediatric Early Warning Score)

0 1 2 3
意識レベル 遊ぶ 眠そう 易刺激性あり 活気低下、痛みに対する反応低下
循環 皮膚色ピンク、またはCRT1-2秒 皮膚色蒼白、またはCRT3秒 チアノーゼ、またはCRT4秒、または正常値+20bpm以上の頻脈 チアノーゼ、またはCRT5秒以上、または正常値+30bpm以上の頻脈
呼吸 呼吸数増加なく、呼吸様式も良い 肩呼吸を伴って呼吸数が正常値より10増加、または酸素30%か3L/分が必要 陥没呼吸を伴って呼吸数が正常値より20増加、または酸素40%か6L/分が必要 呻吟を伴って呼吸数が正常値より5低下、または酸素50%か8L/分が必要
15分ごとの吸入 不要 必要
手術後の持続的な嘔吐 なし あり

集中治療を要する確率:0-2点0.17%、3-4点2.3%、5-6点12%、7-11点52%

LqSOFA(Liverpool quick Sequential Organ Failure Assessment)

1点 0点
CRT 3秒以上 3秒未満
意識レベル(AVPU) VPU(JCS10以上) A(JCS3以下)
心拍数 99%ileより上(別表参照) 99%ile以下(別表参照)
呼吸数 99%ileより上(別表参照) 99%ile以下(別表参照)

集中治療を要する確率:0点0.35%、1点2.5%、2点30%、3点71%、4点100%
カットオフ値を2点以上とすると、感度39.2%、特異度99.2%
カットオフ値を1点以上とすると、感度71.9%、特異度85.0%

別表:小児の心拍数と呼吸数

Bonafide CP, et al. Development of heart and respiratory rate percentile curves for hospitalized children. Pediatrics. 2013; 131: e1150-7.

結論

  • PEWSは予測能力がもっとも高かったが、評価や計算が複雑である。
  • LqSOFAはシンプルで、予測能力も高かった。
  • 成人で使われるqSOFAは小児では予測能力が低かった。

感想

PEWSは複雑とありますけど、体系的アプローチのPATと相性がよく、私はそこそこ使いやすいと思いました。
LqSOFAは基準がクリアで迷いが生じないので、それもいいなあと思いました。

PEWS5点以上、LqSOFA2点以上は集中治療が必要なリスクが高まります。
これがいわゆる敗血症を示唆する「臓器障害」なのだと思います。
特に意識障害があれば敗血症として、速やかに血液培養、そして抗菌薬という流れが良いと思います。

PEWS3-4点、LqSOFA1点は、敗血症とは言えませんが、注意が必要です。
経過観察入院が考慮されると思います。

ABOUTこの記事をかいた人

小児科専門医、臨床研修指導医、日本周産期新生児医学会新生児蘇生法インストラクター、アメリカ心臓協会小児二次救命法インストラクター、神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野に入局。現在、おかもと小児科・アレルギー科院長。専門はアレルギー疾患だが、新生児から思春期の心まで幅広く診療している。